「ギターソロはもういらない?」日本で議論呼んだNYタイムズ記事を完全翻訳

ギターソロの新たな居場所

80年代後半から90年代にかけて、ギターソロは新たなナラティブを獲得する。本当に優秀なギタリストであれば、むしろ目立つ必要はないというものだ。『ウェインズ・ワールド』や『ビルとテッドの大冒険』といったパロディコメディ映画は、速弾きギターを一種の厨二病として扱うようになった。

「ギターソロがその役割を終えることは必然だったのだろう」。デヴィッド・ブラウンは2019年にローリングストーン誌でそう書いた。「これだけの年月と技術革新を経た上で、そこに新しく追加できることがあるのだろうか? ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンがやっていないことがまだあるのだろうか? 加えて、ヒップホップ、ダンスミュージック、モダンポップの台頭が、ギターソロの時代遅れを決定的なものにした」

ロック専門ラジオ局の電波に乗るほとんどすべての曲にギターソロがあった時代は終わったが、絶滅したとは言い難い。新しいミレニアムの到来で他のジャンルに注目が集まったのは事実だが、例えばエレクトロニックミュージックのアーティストが、ギターソロを取り入れる創造的な工夫を重ねてきたことにも触れておくべきだろう。ダフト・パンクは2001年の「Aerodynamic」で、クラシックロックを思わせるソロにギターのような音を用いたが、ジャスティスラタタットといったエレクトロニック・アーティストにも同様のアプローチが見られる。



ギタリストが活躍するフィールドも広がった。ギター雑誌の表紙を飾るのは相変わらず男性ギタリストばかりだが、ビキニ・キル、ブロンド・レッドヘッド、スリーター・キニー、ブリーダーズ、7イヤー・ビッチ、エラスティカ、ホール、PJハーヴェイ、ベイブズ・イン・トイランドなど、女性がフロントに立つギターバンドがロックの男性優位性に挑み、ザ・ドナズL7、ヴェルーカ・ソルトはギターソロでそれを体現した。



その一方では、インターネットやビデオゲームが、速弾きギタリストたちに新たなステージを提供した。2005年に発売された「ギターヒーロー」は、全世界で2500万本以上を売り上げる大人気ゲームとなった。YouTubeはティーンエイジャーからお母さんロッカーまで何千ものホームギタリストたちが集うプラットホームとして、有名なギターソロを再現する腕自慢の場となった。オーストラリアのギタリスト、オリアンティはYouTube動画がマイケル・ジャクソンの目に留まったことで、ツアーギタリストとして雇われ、かのエディ・ヴァン・ヘイレンが生み出した「Beat It」のソロを演奏するに至ったとされる。




ロックの枠を超えた新世代のミュージシャンたちは、ギターソロの新たな居場所を見つけ、思いがけないやり方で再発明している。セイント・ヴィンセント「Rattlesnake」の耳障りなソロ、ケイト・ル・ボン「Remembering Me」の焼け付くようなクレッシェンド、シャミール「Cisgender」の控えめなウォール・オブ・サウンド、100gecs「stupid horse」のデジタル・ポップパンク的ブレイクダウン。




ここ数年、アルバムやステージショーといったロックを支えてきた形式が、ストリーミングミュージックやCOVIDの影響で基盤を失っていったものの、ギターソロは新たな活路を見出している。TikTokには、シリアスなものからバカバカしいものまで、ギターソロのクリップが無限にアップされており、YouTubeには「Hotel California」の演奏チュートリアルからスーパーマリオブラザーズのゲーム主題歌のツインリード・バージョンまで、ありとあらゆるものがある。大げさなギターソロというイメージは、誇張されているにせよ、世界中でエアギターコンテストが開催される素地ともなっている。




L'Rainの名で活動する実験音楽家タハ・チークは、ギターソロを聴覚的なタッチポイントのひとつとらえ、ぼやかしたりねじ曲げたりすることができるものと考えている。「私たちがバンドで扱うやり方は、またメロディが来たというよりは、ギターソロの感覚を伝えるもので、ノイズやエフェクトに近いかもしれません」。

ギターソロの存在感は確かに薄くなっているかもしれない。けれども、いまだにギターソロに興奮させられることはある。H.E.R.の「サタデー・ナイト・ライブ」でのパフォーマンス、レディー・ガガ「A-YO」における生々しくクリーンなソロ、ターンスタイル「Mystery」でのトレモロアームを思わせるメロディ。素晴らしいギターソロに出会うと、いまでもやっぱりにんまりしてしまう。

エイドリアン・レンカーのコンサートを振り返ると、彼女が歌うのをやめて、ソロを弾き始めるまでの一瞬が思い出される。その瞬間、息を飲んで歌を聴いていたオーディエンスの緊張が、一気に解き放たれたように感じられた。だからこそ歓声が上がったのだ。ギターソロは、パフォーマーのガードを下げ、私たちとの距離を縮めてくれる。職人的技巧を誇るパフォーマーの演奏から、カラオケバーで友人が弾くエアギターのなかにまで、ギターソロは生き続ける。私たちが心を開きさえすれば、それは理屈抜きの喜びの瞬間を与え続けてくれる。

From The New York Times
"Opinion | Why We Can't Quit the Guitar Solo"
Produced by Ana Becker, Jessia Ma and Frank Augugliaro
© 2023 The New York Times Company





Nabil Ayers Talk Session|BEATINK × blkswn jukebox presents

本記事を執筆したナビル・エアーズが緊急来日、特別トークイベントを開催。父ロイ・エアーズとの複雑な関係、黒人としてのアイデンティティ形成といったリアルなライフストーリーから、コラムニストとしての幅広い活動、さらには激変する音楽産業におけるレーベル運営など、アメリカの音楽文化の奥深さに様々な角度から迫るまたとないイベント。インディロックファンはもとより、ジャズファンやコンテンツビジネスに関わる方にとっても有意義なひとときとなること間違いなし。会場ではエアーズ自身が関わった作品などを含む、Beggars Group関連作品を取り揃えたミニポップアップストアも登場。

日時:2023年4月29日(土)15:00 - 16:30
1|オフライン参加:25名限定/料金2,000円
 会場:黒鳥福祉センター / blkswn welfare centre
 住所:東京都港区虎ノ門3-7-5 虎ノ門Roots21ビル 地下1階
2|オンライン参加:100名/料金1000円
 Zoomウェビナーを使用
※「英語→日本語」の逐次通訳が入ります。
※イベント終了後、オンライン・オフライン双方の参加者の皆さまに期間限定でアーカイブ動画を公開いたします。
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【ナビル・エアーズの執筆記事】
ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」がすべてを変えた夜
世界的インディレーベル社長が綴る、ジャズの巨匠ロイ・エアーズとの「父子の物語」

Translated by Kei Wakabayashi

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