「ギターソロはもういらない?」日本で議論呼んだNYタイムズ記事を完全翻訳

ギターソロに宿る「特別な力」

80年代に絶頂期に達して以来、ギターソロは傲慢で不遜な見せびらかしとして揶揄されてきた。その最もわかりやすい例が、1984年のモキュメンタリー映画『スパイナル・タップ』。アンプの目盛りを「11」にするのはこの映画の有名なギャグだが、より速く、よりハードに、より大きな音で弾きまくりたいという欲求は、リアルなものだった。





80年代の行き過ぎたギター文化の後、多くのミュージシャンがギターソロとそれが象徴するものすべてに背を向けた。「ギターソロは大嫌いだ」。ピクシーズのギタリスト、ジョーイ・サンティアゴは、バンドメイトのチャールズ・トンプソン(通称ブラック・フランシス)にはっきり言ったことがあると、「ギタープレイヤー」の最新号で回想している。「今でもそうだ。ノリノリで早弾きしているのを聴いても、タイプライターを打っているようにしか聴こえない。自分に向いてないし、チャールズも、ピクシーズではそれをやらないことに合意してくれた」

サンティアゴだけではない。80年代のロックのレコードに多く見られた鼻につく名人芸的ギターソロは、90年代になると時代にそぐわないものと感じられるようになった。技術的なスキルではなく、むしろ歌詞やパフォーマンス、ミュージックビデオ、ステージ外での人物像など、アーティストのエモーショナルなインパクトにスポットライトが当たるようになった。ビョーク、アラニス・モリセット、ベックといったアーティストが、オープンな感性を持った新しいタイプのロックスターとして登場した。

しかし、ギターソロには、ミュージシャンの技量を示す以上の意味がある。エイドリアン・レンカーのライブで改めてわかったように、ギターソロには、理屈ではない人間の本性を目覚めさせる力が宿っている。どんなに自信満々に見えても、その人がリスクのなかへと歩を進めていくとき、私たちはそれを感知することができる。ライブに行くことで、私たちは、そうしたスリルの交換に参加することを求めている。そして、その瞬間がもたらす力を他の聴衆と共有したいのだ。



ダイナソーJr.のJ・マスシスは、「歌とボーカルは毎晩似たようなものだが、ギターソロだけは毎晩楽しみにしている」とメールで教えてくれた。「自分にとってのギターソロは、自分のそのときの気持ちや、この夜のこのショーが、他の夜とどう違っているかを伝えるための方法なんだ。オーディエンスの反応に触発されて、毎晩違ったことを違ったやり方で表現する。気持ちをギターソロにぶつけ、自分自身を楽しませることで、みんなにも楽しんでもらいたいと思っている」。

マスシスは、何十年にもわたり、ジャンルを超えて、オーディエンスとのこうしたつながりを維持してきたギタリストのひとりだ。



〈Interlude - ギターソロの歴史〉

ギターソロは、ブルース、ジャズ、カントリーのプレイヤーによる音楽の間奏曲として始まった。ここでは、シスター・ロゼッタ・サープによる「This Little Light of Mine」の複雑なソロを取り上げよう。1940年代から50年代にかけて、サープはギターソロの原初的な魅力のひとつである歪んだサウンドを取り入れた。



60年代から70年代にかけて、ギターソロはロックの主役となった。ジミ・ヘンドリックス「Purple Haze」のような、長く、壮大で、複雑なソロ(時には即興による)は、後のロックギタリストの永遠の試金石となった。



70年代から80年代にかけてパンクが台頭すると、ギターソロはスピードアップされ、切り詰められるようになった。バズコックス「Boredom」の2音のアンチソロのように、熟練度や音楽性を重視しないソロを入れるバンドもあった。



80年代、ギタリストたちは、正確さ、スピード、熟練度と、自らのエゴを強化していった。そうした速弾きギターゴッドの代表格こそがエディ・ヴァン・ヘイレンである。彼は1978年の「Eruption」で驚愕のフィンガータッピングを披露して、世界中のギタリスト志願者たちのハードルを一気に上げた。



ニルヴァーナの1991年のアルバム『Nevermind』で、カート・コバーンは、ボーカルのメロディの反復、感情的なノイズといった革新的かつ表現力豊かなギターソロの新時代を拓いた。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロは「Killing in the Name」でワーミーペダルのピッチシフターを用いることで、シンセサイザーのような異次元のサウンドをギターに与えた。


Translated by Kei Wakabayashi

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