Summer Eye夏目知幸が語る人生の再出発、シャムキャッツ解散から『大吉』までの日々

 
「失敗」のトラウマを浄化するために

―「人生」が最初に出た時は、まだ宅録ゆえのチープさも若干感じた。でも、そこから新曲が出るたびにプロダクションが向上していくんだよね。その成長過程もこのアルバムには詰まっている。

夏目:本当にそう。「人生」は完成までに半年かかったけど、次の曲は3カ月、次の曲は2カ月くらいで作れるようになって……だんだんスパンが短くなり、同時にクオリティも上がって、それでようやくアルバムが作れた。

―ハウスやテクノだけではなく、いろんな要素が聴こえてくるアルバムだけど、自己流のサウンドメイクを模索するなかで特に参考になったのは?

夏目:本当に混ぜこぜなんだよね。曲のパーツごとにリファレンスがあって、特定の何かっぽくなるのを避けながら自分のサウンドを作っていったから。

例えばアルバム冒頭の「失敗」は、もっとテンポを抑えてキックを出したりベースをブリブリさせると典型的なテクノとかハウスっぽく作れると思うんだけど、あえてそこは低音薄めにして、バンドっぽくした方がSummer Eyeだろうな……みたいな判断をしていて。つまり、そういう判断に至る前段階には「何からしくなるための」リファレンスが膨大にあるんだけど、そこから先はリファレンスなしの世界に入っていって、後者の作業にすごく時間をかけているから、「一体どれを下地にしたと言うのが適切なのか?」っていうのが自分でもわからなくて。

―なるほど、面白い。

夏目:音のバランスやミックスという意味では、ファンキーなブラジリアンミュージックの影響がアルバムを通して大きい。「湾岸」って曲のベースラインは、80年代前後にジルベルト・ジルが出した有名な曲から拝借している。「甘橙」はうろ覚えだけど、たぶんレゲトンのビートが下地のはず。クラブに遊びに行っていい曲見つけた時は俺shazamするのね。それをプレイリストに入れておいて、溜まってきたら聴いて、そのなかで引っかかるビートなどがあったら自分でコピーしてみるの。そういう作業が元になってる。あとは、アーティストというよりはサウンドやフレーズそのものの故郷を求めていった感じかな。




―どういうこと?

夏目:「失敗」でいうと、曲の途中で入る(2:25〜)シンセのバッキングは90年代前後のUSガラージハウスから持ってきてるんだけど、それってちょっと小室哲哉っぽいフレーズだったりする。ノリとしてはアッパー。でもサウンドはJUNO-106でまるっこい優しい音にした。NewJeansのシンセの音いいなあと思って真似してみたんだけど、たぶん彼女らのリファレンスがそもそも俺のと近いんだと思う。 




夏目:あと、間奏が終わったところで(2:55〜)ビートが抜けて、「ポロロン〜」ってピアノみたいな音が入るんだけど、そこはローリング・ストーンズの「Ruby Tuesday」みたいなイメージ。直接似ているわけではないけど、「あの匂いや切なさを出したい!」と思ってアレンジをしてるから、あの音の故郷はストーンズにある、みたいな。ちなみに、その前のギターソロ(2:40〜)は思いっきりアズテック・カメラだね。サビのパーカッションはサンバのリズムを崩して入れてる。“確かなことは何もない”っていう言葉が明るく響くといいなと思って。





―「失敗」はSummer Eyeにとってのブレイクスルーというか、文句なしのアンセム。

夏目:この曲は自分なりにストレートな形で、バンドが解散したことについて歌っていて。

―先行リリースした時のインスタライブでは「恋愛に失敗した男女をモチーフに作った曲」と説明したそうだけど。

夏目:最初から本当のことを言うのは、ちょっと恥ずかしかったんだよね(笑)。

―でも、絶対そうだと思った。“真っ赤な砂の渚”という歌詞も、シャムキャッツの代表曲「渚」から来てるんだろうし。

夏目:そうそう、親切ですよ(笑)。俺としてはバンドが失敗して、なんなら迷惑をかけたかもしれないって気持ちもあるわけ。20代の若いうちから30代の半ばまでみんなの人生をバンドに費やして。きっかけは俺だけが作ったわけじゃないし、みんなの責任で始めて、自分たちで終わらせたわけだけど、それでも言い出しっぺとしては、一度しかない貴重な人生を狂わせちゃったんじゃないかなって……。

―そこまで考えたんだ。

夏目:うん、去年の3月くらいに。それで鬱状態みたいになっちゃった。夜中に涙が止まらなくなったりしてさ。その時に生まれて初めて「俺って間違ったのかもしれない」と思ったんだよね。自分の人生に対してもそうだし……マジかよって話だけど、他人の年収とか一般的な稼ぎとかさ、それまで一度も気にしたことなかったのに調べたりとかさ。「同級生は役職に就いて、今はいくらぐらい貰ってんだろうな」って。そういうのを見始めたら、「本当にこれでよかったのかな?」って思っちゃったんだよ。震えるくらい怖くなって、もう取り返しつかないな……みたいな。その時は今一緒にやってる仲間たちが話を聞いて助けてくれたわけだけど、そんなふうに考えたことが引っかかってて。それを浄化するには「お前についてきて失敗だった」と言われる曲を作らないといけなかったんだよね。

―そんな背景をもつ曲が、断トツでアップリフティングなんだからね。フルートまで入ってる。

夏目:そうでもしなきゃやってらんないよ!(笑)

 
 
 
 

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