Summer Eye夏目知幸が語る人生の再出発、シャムキャッツ解散から『大吉』までの日々

 
再出発は「うまくやろうとするな」

―DIYっていうのも、Summer Eyeにおいては重要なわけだよね。さっきの「とほほ」感やDIYは、「ショボいからこそかっこいい」みたいにロークオリティの言い訳になりがちだけど、そうはなってないのも流石だなと。

夏目:そこは超考えた。宅録によるDIYを選んだのは、予算がないとか、他者と絡みたくないとかじゃなくて、色が濃いものを作りたかったから。せっかく1人でやるなら、作家性の強いものじゃないと意味がないと思って。なおかつ、貧乏くさいものにはしたくなかった。俺が弾き語りをやめたのは、1人でギターを持って、自分が思いついたメロディを歌うのが、どこか貧乏くさく感じたからなんだよね。

あとはシンプルに、自分がここ5〜6年よく聴いていて、現場でも触れてきたクラブミュージックからの影響が大きくて。半年近く休んでいる間にMixmagとかBoiler Room、Resident Advisorといったチャンネルで作り方を学んでたの。10分間でトラックメイクする動画とか見ながら「なるほど、こうやるのか」って。さっきも話したように、自分の音楽を発表会みたいにしたくなくて、みんなの身体を動かすものを作りたかったんだよね。

―そもそもクラブミュージックにハマったきっかけは?

夏目:2016〜2017年、『Friends Again』(シャムキャッツの4thアルバム)を出す前くらいからもう疲れ始めていて。

―ちょうどバンドが独立して、自主レーベルを立ち上げた頃だ。

夏目:インディでバンドをやっていると、次から次へと曲を作ってライブをして、っていうのが休みなく続くんですよ。そうなると、楽しい場所だったはずのライブハウスが仕事場みたいに思えてきて。いざ遊びに行っても知ってる顔ばかりだし、いい話も悪い話もいっぱい聞こえてきて……そういう人間関係にも疲れちゃった。でも音楽は好きなわけ。それで、裸の気持ちで音楽に触れられる場所を探したら、クラブに行き着いたんだよね。海外の好きなDJが来たらチケットを買って、1人で暗闇のなか朝まで過ごして帰るみたいな(笑)。

だからクラブミュージックにハマったというよりは、クラブという現場とそこで体験できる喜び、精神的に肉体的にもポジティブになれる感覚に惹かれていった感じ。本を正せば、俺は中南米研究会っていう早稲田大学のジャマイカ音楽サークルにいたから、そういう踊る音楽も好きで。それにずっと救われてたんだよね。


Photo by Yoko Kusano

―そこから自分でもアナログシンセとか買い始めたわけだよね。どういうふうに機材を揃えていったの?

夏目:ネットで「how to make house kick」とか検索して(笑)。そこで紹介されてる機材を買って「たぶん、こういうことかな?」みたいな。いっぱいミスったよ。imaiさん(group_inou)が使ってるKORGのelectribeも試したけど、なんか違うなとか。自分に合うものと出会うまで、買っては売ってを何回か繰り返して。最初は安い機材で遊ぶところから始めたけど、やっぱり難しくて。

―いきなりはできないよね。

夏目:できない! それでも毎日DAWソフトに触るようにして、試しては間違えてを繰り返しているうちに少しずつ掴めてきた。それでも、曲を作り始めると全くうまくいかなくて。1stシングル「人生」を6月くらいから作り始めて、8月に「これだったらいける!」と思ったら、仕上げるまでにもう一山あって……最初の一曲を作るのに半年くらいかかった。



―どこが難しかった?

夏目:トラックはいくつも出来上がっていたんだけど、フロウというか、どういう言葉をどういうメロディに乗せるのかだけが、ずーっと何も思いつかなかった。歌いたいこと、歌うべきことが俺には本当にない。だから困ったなと。そこからは大喜利が続いたんだけど……本当に、自分が面白がれるかどうかなんだよね。それである日、居酒屋のトイレに入ったら、親父の格言みたいなのが貼ってあってさ。

―「義理は欠くな/大酒は呑むな」みたいなやつね(笑)。

夏目:それを見た時に、「歌詞ってこんなものでいいんじゃないか?」と思って。酔っ払いのおっちゃんがくだを巻く姿の真実味ってあるじゃん? 「また言ってるよ」と煙たがられるんだけど、その言葉に食らうこともあるよな、これなら俺にも言えるかもと思って。じゃあ、今の自分が一番食らう言葉はなんだろう……「うまくやろうとするな」だな、みたいな(笑)。これを歌詞の最初に持ってこようって。だから「人生」ってタイトルだけど、この曲はくたびれた酔っ払いの戯言だね。

―自分に言い聞かせるような歌詞でもあるわけだよね、“いつだってやり直せる”って。

夏目:元マネージャーの山口さんに聴かせたら、「夏目知幸の新しい章がこれから始まるよっていう曲だね」と言われたね。あとはちょうど『スパイダーマン スパイダーバース』を観たあとで、マーベル作品は「飛び込め!」ってメッセージがよく出てくるんだよね。考えてからやるんじゃなくて、やってから考えないと物事は進まないっていう。それを日本語に置き換えるなら「飲まれろ」かなと。で、TB-303(アシッドハウスの象徴となったベースシンセ)の音を入れたいし、酩酊感があるし、波がずっと押し寄せるし……そうやってパーツが揃った時に、やっとできるぞって思った。

―サウンドのほうも酔っ払い。

夏目:そう、完全に飲まれてる(笑)。

 
 
 
 

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