エズラ・コレクティヴに聞くUKジャズを変えた音楽教育、チャート1位獲得より大切なこと

 
ベーシストとしてのルーツと矜持

―これまでに研究してきたベーシストは?

TJ:僕はフェラ・クティの音楽を聴いて育ったから、彼の作品に参加していたNweke Atifohのプレイをたくさん聴いてきた。彼のプレイはとてもシンプルで、特別なフィルやリックは存在せず、シンプルなベースラインを25分間続けてずっとプレイしているようなものばかりだ。でもタイム感やドラマーとガッチリと組み合わさった様がアメイジングなんだ。彼のプレイは僕の基礎の部分を作ってくれた。

それと、レッチリのフリーは僕に初めてベースプレイがクールなものだということを教えてくれた。僕の友人のドラマーやギタリストたちは「ほら、俺はこんなプレイができるんだ!」って自慢するようなところがあったけど、ベースプレイヤーってそういうのがしづらいんだよね。でも、フリーがその殻を打ち破ってくれた。「Torture Me」で彼がソロを弾いている映像を観た時はぶっとんだよ。フリーと出会ってからロックやファンクの音楽にのめり込むようになった。

そして、もちろんジェームス・ジェマーソンだね。僕の母はモータウンが好きだったから、彼がプレイしてきたものは全て、例えばマーヴィン・ゲイとか、そういうものをよく聴いてきた。もう一人はジャコ・パストリアス。彼は時代の最先端を突っ走っていて、ベースはバックグラウンドじゃなくって一番目立つ場所にあるべき楽器だということを証明した。ベースで表現できることに新たな次元を加えてくれた。それでいて自己満足にならず、常に音楽に華を添えてエキサイティングなものにさせてきた。この4人が僕にとって重要な存在だね。



―イギリス人のベースプレイヤーはどうですか?

TJ:イギリスにだって素晴らしい人たちはいるよ。ウェールズ出身だけど、ピノ・パラディーノは偉大で驚異的なベースプレイヤーだ。彼の息子であるロッコ・パラディーノもベーシストとして活動していて、ユセフ・デイズやチャーリー・ステイシーと共にプレイしている。数年前に彼のプレイを観に行ったけど、あまりにも凄くてぶっ飛ばされたよ。Mutale Chashiはココロコやヌバイア・ガルシア、ジョルジャ・スミスとプレイしていて、彼も驚異的だ。Tom Driesslerも多くのアーティストとプレイしていて、彼にはどことなくジャコ・パストリアスのようなサウンドを感じてしまう。UKシーンにはたくさんの若い才能がいるから、僕も彼らから学ぼうとしてる。


トム・ミッシュ、ユセフ・デイズと共演しているTom Driessler(2020年)

―エズラ・コレクティヴではヒップホップやグライム、アフロビーツなどが融合した音楽を演奏しています。そういったスタイルに関して、参考になったベーシストはいますか?

TJ:ヒップホップとかだと必ずしもベーシストを研究する必要はないんだよね。サンプルされたものから発展させてベースにしてることもあるし、そういうのってJ・ディラが結構頻繁にやっていたよね。彼はドラムのバックビートに対してベースがどういった関係性で鳴っているのかを緻密に計算していた。ポイントはベースを「プレイしない」ことによってどれだけのスペースを残しておくか。つまり、J・ディラにとってはどんなベースラインをプレイするかだけが重要なわけではないんだ。ヒップホップから学んだことはまさしくそのこと。あとはア・トライブ・コールド・クエストみたいなヒップホップ、それこそロン・カーターはクロスオーバーを実現した人で、『Low End Theory』における全てのベースラインに学ぶべきところがあったよ。

ロンドンには本当にたくさんのジャンルや音楽があって、それらから影響を受けずにはいられなかった。クラシカルなジャズ、グライム、ヒップホップといった音楽が共存しているし、僕はかつてバングラデッシュの音楽をプレイする人たちと過ごしたこともあった。僕はナイジェリア人だけど、教会にはジャマイカの人たちが大勢いた。僕の妻はガーナ出身で、様々な人種に常に囲まれている。どれだけネームバリューがあるかじゃなくて、出身国そのものが音楽に対するアプローチに影響するんだ。そういった様々なものを受け入れること、そして前に進めていくことを僕たちは大切にしている。サルサっぽい曲の後にヒップホップをプレイしたり、アフロビートをプレイすることもあるけど、それらを含めてエズラ・コレクティヴらしいサウンドになっていると思うよ。


2020年にビルボードライブ大阪で開催された来日公演より

―エズラ・コレクティヴの音楽には観客を踊らせるようなサウンドがとても重要だと思います。そのためにベーシストとしてどのようなことを意識していますか?

TJ:人々を踊らせるうえで大切なのは、まず自分を踊らせること。ライブになるとどの曲でも自分が踊ることを常に意識している。ライブ前に「いいか、僕らはステージ上でパーティーを楽しむんだ。このパーティーにみんなを招待するんだ!」って言い合ってたことがあるくらい(笑)。だって誰かが楽しんでいたら、そこに参加したいって気持ちになるよね? だから僕らは音楽的な部分だけじゃなく、生身の人間としてやれること全てを駆使してリスナーをダンスに引き込もうとしている。僕らのライブに来る人たちは踊りたい人たちだと思うしね。

―今度のエズラ・コレクティヴのライブはどんなものになりそうですか。

TJ:本当に興奮しているよ。前回(2020年)日本に行った時、僕らは本当に手厚く受け入れてもらえた。とても嬉しかったし、楽しむことが出来た。接する人々は皆、僕たちのパフォーマンスを観られたことを恵まれたことのように感じていた。そのことを僕らは胸に刻み込んだまま再び日本に行くことになるよね。プレイの隅々に感謝の気持ちを込めるよ。ステージに立てるだけで幸運なことだと思っているし、僕らは歓びと情熱を感じながらプレイするつもりだよ。セットリストは予め組まないし、オーディエンスが聴きたいものをプレイする。本当にアメイジングな時間を過ごすことになるだろうね。

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エズラ・コレクティヴ来日公演

2023年3月7日(火)ビルボードライブ東京
開場17:00 開演18:00 / 開場20:00 開演21:00
サービスエリア¥8,400-
カジュアルエリア¥7,900-(1ドリンク付)
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13903&shop=1

2023年3月9日(木)ビルボードライブ大阪
開場17:00 開演18:00 / 開場20:00 開演21:00
サービスエリア¥8,400-
カジュアルエリア¥7,900-(1ドリンク付)
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13904&shop=2



エズラ・コレクティヴ
『Where I’m Meant To Be』
発売中
詳細:http://bignothing.net/ezracollective.html


Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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