エズラ・コレクティヴに聞くUKジャズを変えた音楽教育、チャート1位獲得より大切なこと

 
ロンドンの多様性、ライブの場が失われている現状

―Tommorow’s WarriorsやKinetika Blocoは、どちらかといえば基礎的な部分を身につける場所だと思います。そこからさらにステップアップするために、あなたはどんなところで学んできたのでしょう?

TJ:エズラ・コレクティヴの中で、僕は大学で音楽を学んでいない唯一のメンバーなんだ。他のメンバーは皆、トリニティ音楽院や王立音楽アカデミー、ミドルセックス大学といった音楽の専門機関に通っていた。でも、僕らにとって最大の学びの場は互いに教え合うことだったと思うよ。5人でバンドを組むとなるとそれぞれが異なる音楽を聴いて育ってきていて、みんなで揃って何カ月も音を出し続けると「それいいね。どうやったの?」っていう瞬間に出くわすんだ。ジョー(・アーモン・ジョーンズ)にキーボードでハーモニーを教えてもらったり、フェミがリズムについて教えてくれることもよくある。僕らはエゴを棄てて謙虚な姿勢で、互いから最大限に学び合っているんだ。

―ロンドンでは学ぶ場所だけでなく、素晴らしいジャム・セッションやイベントがあり、それもあなたのキャリアにとって重要な経験だったのではないかと思いますがいかがでしょうか?

TJ:ロンドンにはジャム・セッションの文化が根付いていて、ジャズは特に顕著なんだ。Ronnie Scott'sのレイト・ショウ、Servant Jazz Quarters、Prince of Walesといった小さなパブやクラブでジャズナイトが開催されてきた。Covidの影響で閉鎖したところもあってその機会は少なくはなったけど、プレイに関する技術を生の現場で学ぶ重要な場所だよね。誰だって自分の部屋でプレイしているだけでは上手くならない。新旧様々なミュージシャンたちとステージを共にしてやっと得られるものがあるからね。それにR&Bの驚異的なミュージシャンから多くを学ぶこともある。そんなライブ文化を守るために僕たちは戦わなければならない。Covid以降、毎週どこかしらのハコが閉まっているような状態だから、僕らは草の根レベルから守っていくべきだと思っている。


Ronnie Scott'sで演奏するエズラ・コレクティヴ(2017年)

―Steez、Jazz re:freshedといったイベントも、あなたのキャリアにおいて重要だったんじゃないですか?

TJ:もちろん。Steezは元々ルーク・ニューマンという人がサウス・イースト・ロンドン始めたイベントで、The Fox And Firkinというパブでのライブで僕らも何年か前にプレイしたことがある。Steezは様々な人たちがやってくるのが素晴らしいところで、ヒップホップやラップだけじゃなくてポエムをやっているような人たちも参加するオープンなイベントだった。Steezって異なるものに対するオープンな姿勢が魅力で、多くの人たちに成長の機会を与えてくれたんだ。僕らはまだ自分たちの音楽性やプレイを模索していたような時に、そこで感性を研ぎ澄ましていったよ。

Jazz re:freshedのアダム・ロッカーズは、僕が音楽業界で出会ってきた人の中でも最高の人間だね。彼は若い人のために率先してリスクを背負っている。イベントを組む際もリスクを承知しながら、若い人たちにチャンスを与えてくれる。Jazz re:freshedでプレイした時、「あぁ、僕たちのライブを観てくれる人がこんなにもいるのか!」と感動したし、自分たちでもやれるってことを感じたのを覚えているよ。もう亡くなってしまったけどラッパーのTYと初めて共演したのは、アダムの推薦で彼のバックバンドとしてJazz re:freshedで演奏した時だった。若いミュージシャンたちには時には年長者によってチャンスがもたらされなくちゃならないことがあるからね。ゲイリー(・クロスビー)やアダムはもちろん、Steezのルークなんて僕らと同世代なのにそういったことをしてくれたんだ。


Jazz re:freshedで演奏するエズラ・コレクティヴ(2016年)

―どうしてロンドンにはそういった素晴らしい機会が与えられるようなイベントがいくつもあるのでしょうか?

TJ:ロンドンには世界(の文化)が収まっているからじゃないかな(笑)。だから僕はたくさんの文化に触れることができた。様々な文化が絡み合うことで新たな文化が生まれ、それによってさらに新たな文化もそこに引き込まれてくる。そして、音楽は社会の前線にあるもので、僕が通っていた教会だって音楽が前面に出ていた。教会とゴスペルって切っても切れない関係だし、インド映画のボリウッドだって音楽を思い浮かべるよね。ジャマイカならダブ、レゲエ、サウンドシステムといったものがある。ロンドンにはこれらの全てがあって、街に根付いているんだ。多くの人がそれを求めていて、そこにクールな人たちが集まっているんだよ。

だから僕らはライブ音楽の灯を絶やしてはいけないと思ってるけど、政府は快く思っていないからどんどんシャットダウンさせようとしている。ブレグジットのせいで僕らはかつてと同じような音楽活動ができなくなった。でも、いつの日か状況が好転していくことを願っているし、若い人たちの学びの場を元の状態に戻したいと思ってる。そしてそれは僕らにかかっていると思う。僕らの世代が年齢を重ねて、その力を手に入れた時はすぐにでもそういった場所を開いていくべきだよね。若い人のために誰かがリスクを負うっていう流れは続けさせていきたいって思ってるよ。

Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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