藤井 風、MFS、なとり…日本発バイラルヒットから広がるグローバル進出の可能性

 
MFS、なとり…国際的バズの背景とは?

「死ぬのがいいわ」の世界的バズが起きた後、世界45の国と地域でバイラルチャートインし、グローバルチャートとアメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、オーストリアで1位を獲得するという偉業を達成したのがMFSの「BOW」だ。「死ぬのがいいわ」同様、リリースは2020年。MFSの1stシングルとしてリリースされ、ヒップホップ好きを中心に支持された楽曲だ。





「BOW」は2022年10月5日から再生数生数が急上昇し、10月16日にはグローバルバイラルチャートで1位を獲得。きっかけはe-sportsでもおなじみの「オーバーウォッチ」の新作ゲーム「オーバーウォッチ2」に「BOW」が使用されたこと。日本出身の忍術を使う巫女という設定のキャラクター・KIRIKOのテーマソングとして、KIRIKOを紹介する動画の戦闘シーンで「BOW」が流れることから火が付き、バイラルヒットとなった。バズる前の再生回数と比べると、2000倍もの再生数を記録。大阪を拠点にインディペンデントな活動をしていたラッパー・MFSの楽曲がゲームがきっかけで瞬く間に世界中に拡散されるという初めての事例となった。

「『BOW』がゲームの世界観に合っていたということと、曲自体のポテンシャルがあったことの相乗効果だと思っています」(芦澤氏)



「BOW」がグローバルバイラルチャート1位を獲得した10月16日に同チャートで4位に入ったのがなとりの「Overdose」だ。リリースは2022年の9月7日で、2年前の楽曲に光が当たった形の「死ぬのがいいわ」と「BOW」と違い、リリース直後からスパイクし、ベトナム、韓国、シンガポール、タイ、マレーシアというアジア圏で10月16日から23日にかけて次々にバイラルチャート1位を獲得。

なとりは2021年にTikTokを楽曲発表の場に音楽活動を開始したシンガーソングライターで、ボカロやローファイヒップホップの影響を受けた楽曲のショート動画をTikTokに投稿し、中でも反応が良かった「Overdose」を初のデジタルシングルとしてフル尺でリリースしたという流れがある。


@siritoriyowai_

芦澤氏は、「繰り返し聴きたくなるような楽曲の中毒性があったということと、コロナ禍で“SNSを作品発表の場として活動を始めるシンガーソングライター”が増えたことがバズの原因」と分析。

TikTokに投稿された楽曲動画を見たユーザーが、「歌ってみた」「踊ってみた」「リミックスしてみた」といったDIY動画を投稿する動きが加速しているが、それに「Overdose」の中毒性がハマった。日本のアニメソングやシティポップをカバーする歌唱動画で人気のインドネシア出身のYouTuber・レイニッチも「Overdose」をカバーする等、アジアを中心にしたUGC(ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツ)の数が非常に多かったという。

「動画投稿サイトなどでのUGC投稿をきっかけに、ストリーミングで原曲をフルサイズで聴くという流れが生まれ、さらにこれがリスナーの共感を得てソーシャルメディアなどで共有されると、Spotifyのバイラルチャートで急上昇を始めます。『Overdose』の成功はその顕著な例だと思います。この動きは、人口が多くて平均年齢が低く、SNSでバズった曲がストリーミングに波及しやすいインドネシアをはじめ、アジアで特に起きやすい。例えば、シティポップブームの象徴である松原みきの『真夜中のドア』がグローバルのバイラルチャートで2週間以上1位を取った時も、東南アジアの動画投稿サイトを中心にUGCが急激に増え、ストリーミングに波及し、バイラルチャートでそのトレンドが顕在化したという流れがありました」(芦澤氏)



「Overdose」の例に漏れず、最近は自分が発見したものを拡散したり、友達とシェアしたり、そういったオーガニックな力によって再生数が伸びる傾向が目立つという。リスナーのポジティブな反応は、Spotifyのアルゴリズムにも影響を与え、レコメンデーションの頻度が広がることによってリスナーベースの伸びが加速していくという現象も生み出す。その動きは、Spotifyが展開する国内新進アーティストのサポートプログラム「RADAR:Early Noise」に、なとりと共に2023年に選出されたDURDN(ダーダン)の楽曲が海外に広がったケースにも当てはまる。2022年、DURDNの月間リスナー数は50万人を突破(2023年1月末現在は80万人超)。その時点で、海外のリスナー数は日本のリスナー数の倍近かったという。

「海外で一番聴かれているDURDNの楽曲は『Vacation』というシティポップ味のある心地よいダンスポップです。歌詞は日本語と韓国語のミックス。言葉の意味を追求するというより、心地よい音楽として聴かれているのでしょう。『死ぬのがいいわ』がここまで広がったことにも繋がりますが、日常のサウンドトラックとしてストリーミングを楽しむというライフスタイルにDURDNもハマったんだと思います。プレイリストやアルゴリズムのおすすめなどでこの曲に出会ったリスナーが、ライブラリに保存したり、お気に入りにするといった能動的な動きをすると、アルゴエンジンがパフォーマンスが良かったと判断し、さらにおすすめにどんどん出していく。その結果、DURDNは世界に広がっていきました」(芦澤氏)


 
 
 
 

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