ジェイコブ・コリアーが語る「メロディとは?」 観客とともに歌う理由、自分を信じる力

 
「コントロールできないこと」を楽しむために

―あなたが今までやってきたことは、自分の頭の中に思い描いているもの、つまり「コントロールできるもの」を完璧に音楽に置き換えることだったと思うんですよね。でも近年は、メロディを書くこともそうですし、ライブでオーディエンスに歌わせたりしているのも含めて、自分ではコントロールできないものと向き合っていますよね。そうやってコントロールできない状況を楽しんだり、コントロールできない自分を許すことに関心があるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか。

ジェイコブ:その通り。『Piano Ballads』では、まさにその実験をしている。どうやって演奏するかだけじゃなくて、キーさえも事前に決めたりはしなかった。ピアノの前で「今日はどんな景色を見れるだろう?」って毎回思うんだ。オーディエンスも、毎回すばらしいハーモニーを奏でてくれるよね。今、僕は何が起こるかわからない状況を楽しんでいるんだ。パンデミックで学んだように、僕たちは今を生きていて、誰もこれから何が起こるかなんて予測できない。このプロセスから「自分を信じる」ことの力についてたくさんの学びがあるし、その練習をするには良いタイミングだと思う。これは望みを叶えることに繋がっているから。

―コントロールできないことを楽しむことは、自分を信じることにも繋がるわけですか。そういう考えをもつようになったきっかけはありますか。

ジェイコブ:僕の母親は自分を信じることに対する意識が強くて、どんな状況でも「自分であること」にとても真摯だった。特に学校では、周りと比較して何が正しいかの判断基準が作られるでしょ。だから、自分を肯定してくれる母親の存在はありがたかった。音楽業界も学校と似ているところがあって、よく「これはできない」って言われたりするんだけど、それは嘘だ。もちろん、コントロールの力が働く限りはできないだろうけど、みんなが何にも縛られていなかったら、みんな自分のやり方に従ってできるはずだから。この視点を持つことができたら、人生はもっとうまくいくと思うんだ。

例えば、僕がステージの隅々までコントロールしたところで、何も面白くないよね。僕にとって音楽の面白さって、自分から手放して自由に遊ぶことだと思う。『Piano Ballads』でも、時には短かったり長すぎたりしている部分もあるけど、それも音楽の一部だし、正しさなんてない。これは人生においても同じだと思うんだ。予測できないことを受け入れ、自分を信じて、身を任せるーそうすると人生はきっとうまくいくよ。


Photo by Mitsuru Nishimura

―いい話ですね。今の話はジェイコブ・コリアーの音楽そのものって感じがします。最後に『Piano Ballads』に絡めた質問です。ここではあなたが好きな曲、あなたが良いと思う曲、あなたにとっての名曲を演奏していると思います。あなたにとって名曲の条件って何ですか?

ジェイコブ:一切の誇張がない等身大の曲が名曲なんじゃないかな。例えば、5バースのうち1バースは完璧だけど、他は......っていう感じじゃなくて、名曲っていうのは、すべての音と言葉がぴったり収まっていて、何一つ取って代わるものはない。クールなリズムやメロディも要素の一部としては必要だけど、アーティストが投影されていることの方が大事だと思うんだ。例えばジェームス・テイラーの「Carolina in My Mind」(思い出のキャロライナ)は、まさに彼そのものだよね。僕の選曲はそういった基準で選んでいる。そういった曲を一旦演奏してみて様子を見るんだ。その日の気分によっても変わるけどね。



―そういった名曲の中でも「自分が書いた曲にしてしまいたい」と嫉妬するくらい、あなたにとってすごいと思う曲はありますか?

ジェイコブ:一番はじめに思い浮かんだのが、ジョニ・ミッチェルの「A Case Of You」かな。あと「Both Sides Now」も。この2つは完璧な曲だね。特にあの3つのメタファー、本当に素晴らしいと思う。あの曲を書いた時、彼女はまだ24歳だった。その年齢でどうやって人生を知ったんだろう。ほんとうに美しい曲だよ。彼女は60歳のときにオーケストラでレコーディングをし直しているよね、60歳なら理解できるけど、24歳であんなに美しい曲を作れるなんて。「僕があの曲を作ったんだ!」って言えたらいいのになって思うよ。

【画像を見る】ジェイコブ・コリアー撮り下ろし/ライブ写真(全17点:記事未掲載カット多数)
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Photo by Mitsuru Nishimura




ジェイコブ・コリアー
『Piano Ballads』
発売中 ※日本限定CD化
再生・購入:https://jacob-collier.lnk.to/Piano_Ballads

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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