斉藤壮馬が語る、アーティスト活動で得た「感覚的アプローチ」

―「mirrors」は最初女性のような声色が使われていますが、何か狙いがあったんでしょうか?

斉藤:意識はしていなかったんですが、今回のEPは全体的に割とファルセットを多く使ってるんですよね。「mirrors」は昔から使いたいと思っていたコード進行があって、6/8拍子バージョンとエイトビートバージョンと二個デモを作ったんです。制作チームに聴いてもらったら、「6/8拍子バージョンが良い」ということになりました。もともと自分のキーに合わせて曲を作るというよりは、その曲やメロディーに合うキーが存在すると思っているのですが、この楽曲のキーがたまたま現在のキーでした。そうなるとAメロはもうファルセットで歌うしかなくて。でも、この楽曲は激しい部分と静かな部分があるので、もともとファルセットベースで歌いたいとは思っていましたね。

―声のプロならではの声色のセレクトをされているんですね。

斉藤:ありがとうございます。EPの中でも最後に位置する楽曲で、陰と陽でいうと陰の要素がかなり強い楽曲でもあったので、物悲しい感じというか、絶望の淵にいるようなイメージで歌いました。ただ、思い返すと子供の頃から、すごい高い音域までファルセットが出るタイプだったんですよ。だから歌う時も、自然と一番楽に歌うとファルセットの発声にはなります。でも、中学生ぐらいから趣味でバンドを始めて、その時は美しい系というよりはロックサウンドをやっていたので、ファルセットを使うと声が細すぎる。だから、自分の音楽でファルセットは使えないんだろうと勝手に思ってしまっていました。でも5年前に個人名義で音楽活動を始めて、サードシングルの「デート」という曲から自分で作詞作曲をするようになって、やはり素直に歌うとファルセットの音域になるんだなと思ったんですが、最初は商品として使えるファルセットではないと思い込んでいたのでメロディーを変えたりしていました。もしくはキーを下げるとか。でも最近は制限を設ける必要がないだろうと思ってきたんですね。なので、曲にとって一番必要なメロディーが自分においてはファルセットの音域だとしたらそのまま使うようになりました。「mirrors」はサビが割と絶妙な音域で、僕はミックスボイスが使えないので「ここは強くいきたい」と思い、ギリギリの音域の切実な感じもちょうど良いなと思いましたね。



―1曲の中で何色か声色を使い分けられてますよね。

斉藤:確かに、AメロBメロの静かなところとサビの激しいところ、あと「ひとりワルツを踊る」と歌うパートはここだけ一筋の光が差すような感じがあって、そこから暗く激しい展開になっていく。そうやってパートごとに声色を使い分けようとは思ってなかったんですが、結果的にそうなっているのは面白いですね。この曲は抽象的だったり、断片的なイメージがあったので、感性を重視して感覚的に歌ってみました。

―感覚的に歌えるようになったのは、ソロ作品を重ねられてきたところが大きかったりするんでしょうか?

斉藤:それはあるかもしれないです。あと、声優のお仕事でキャラクターソングを歌わせていただく機会があって、キャラクターソングって自分の元々の一番のスイートな発声ではない発声法や歌唱法を使うこともあるんですが、それがすごくソロ活動に良い影響をもたらしてくれているような気がしています。キャラクターソングごとに色々なことを試している中で、年々自分で自分を縛らなくてもいいんだと思えるようになってきました。なので今回のEPは楽曲制作も歌い方も、今までよりはロジカルではなく、感覚的なアプローチをしているのかもしれないです。

―その結果、歌唱、サウンド、歌詞、様々な面でエンタメ色が強くなっているということは、斉藤さんのエンターテイナーとしての資質が自然と出ているということなんでしょうか。

斉藤:確かに、意外と感覚的にやるとエンタメ感が出るのかもしれないです。自分が好きなのはどちらかというと影があるような世界なんですが、何も考えずにやると陽なのかもしれない(笑)。

―職業病みたいなものだったりするんですかね。

斉藤:音楽活動を始めた頃は、声優・斉藤壮馬として求めていただくものを提示しなければいけないと思っていました。それはそれですごく素敵な楽曲とたくさん出会えたんですが、今はその時よりは「音楽活動はやりたいようにやろう」という気持ちでいます。ありがたいことに、「斉藤さんが好きなことを楽しんでやっている姿を見るのが一番好きです」というメッセージを送ってくれる方もたくさんいて。なので、「あれをしなきゃ」とか「これはできない」という予防線を張らなくなりました。

Rolling Stone Japan編集部

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