『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を音楽から紐解く リアーナ、ボブ・マーリーの名曲カバーと「強き女性たちの物語」

サウンドトラック『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』 (C) MarvelStudios 2022

 
『ブラックパンサー』の続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサウンドトラック『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』が、11月11日(金)の映画公開に先駆けて配信スタート。リアーナによるリード・シングル「Lift Me Up」を筆頭に、国際色豊かな40人以上のアーティストが参加している。前作に続いて話題を集めそうな『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の音楽面を、ライター・辰巳JUNKが解説する。




前作が成し遂げた「ブラックカルチャーの勝利宣言」

2022年11月11日、ついに『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が公開される。世界中の映画ファンがわき立つ大作だが、それと同時に、壮大な音楽イベントにもなるだろう。

2018年、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)初の黒人スーパーヒーロー映画とされた前作『ブラックパンサー』は、歴史的な記念碑だった。当時の北米では『アベンジャーズ』を超えてスーパーヒーロームービー史上最高の興行成績を達成。黒人同士の信念の衝突を描いた物語も高く評価され、アカデミー賞作品賞部門にノミネートされた初のスーパーヒーロー映画にもなった。

“ヒーローが必要なのは誰だ?
君にはヒーローが必要だろ 鏡を見ろ そこに君のヒーローがいる”
(ザ・ウィークエンド、ケンドリック・ラマー「Pray For Me」)



『ブラックパンサー』が特別だった理由のひとつは、独自のアフリカン・ワールドを創出した点にあるだろう。舞台は、世界から隔絶された超文明国家ワカンダ。同企画で「アフリカ人であることの意義」の探究を志したライアン・クーグラ―監督は、MCUとしても珍しい「スタジオ外の人材」を集めていったという。重要視された音楽面も同様である。起用されたのは、監督の盟友であるスウェーデン出身作曲家、ルドウィグ・ゴランソン。そして、作品とリンクするインスパイアアルバムの制作を委託されたのが、トップ・ドッグ・エンタテイメント、当時そのエースだった(現在は独立)ラッパー、ケンドリック・ラマーだった。

ケンドリックがキュレーションした『ブラックパンサー:ザ・アルバム』は「2010年代最高のサウンドトラック」という評価を打ち立てている。彼に加えてフューチャー、シザ(SZA)、カリード等の北米ラップ/R&Bスター、そしてベイブス・ウドゥモ、ジャヴァといった南アフリカのアーティストも集結。豪華なヒット作というだけでなく、作品テーマやキャラクターの心情を深掘りするアルバムになっていた。

なにより、映画とともに「ブラックカルチャーの勝利宣言」として受け止められた。『ブラックパンサー』が公開された2018年は、R&B/ヒップホップがアメリカで最も人気な音楽ジャンルになったと発表された年でもある。アメリカ社会とエンターテインメント業界で疎外、搾取されつづけてきた黒人の人々のクリエイティビティが内実ともに頂点に立ったこと。それを明確化した記念碑こそ、この映画でありアルバムなのだ。それゆえ『ブラックパンサー』最大のレガシーとされているのは、厳しい環境に立たされがちな黒人の子どもたちに希望と勇気を与えていったことだ。「Pray For Me」にてケンドリックが「ヒーローが必要な君」に贈ったラップは、黒人スーパーヒーローのメッセージを体現している。「君こそが君のヒーローだ」。

 
 
 
 

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