「窒息・骨折・気絶」米モルモン教信者が明かした虐待の様子

「自慰」は純潔の掟に違反する行為

モーリス・ハーカー氏本人は結婚および家族セラピーの専門家を自認しているが、実際はLife Changing Servicesの名のもとで、ポルノ依存症に苦しむ人々を対象とした一連のプログラムを実施している。ただし、本人はポルノ依存症という用語で分類することに異を唱えている――「誰もがSEOというゲームに縛られたマーケティング」などでは「ポルノ依存症」という用語が使われていることを認めたものの、組織が「拠り所」とする診断ではないという。

とはいえ、こうしたプログラムの多くがマスターベーションという悪魔をテーマにしている。LDS教会では自慰は純潔の掟に違反する行為とみなされ、重要な宗教儀式への参加が禁じられるほどの重い罪だとされている。Life Changing Servicesのサポートグループには、ポルノ依存症の息子に頭を悩ませる母親向けのMothers Who Know、ポルノ依存症や自慰に悩む男性向けのMen of Moroni、そうした男性の妻を対象にしたWORTH、「性的自制心を求める同性愛志向の男性」向けのSons of Sacrificeなどがある。また13~24歳の若い男性を対象にしたSons of Helamanは「性的自制心訓練プログラム」を謳っている。

2007年に法人として設立されたLife Changing Servicesには、現在40人の従業員と40人の契約臨床医が在籍し、セラピストから「パーソナル・ウォリアー・トレーナー」――患者に個人指導を行う無認可指導者――に至るまで、様々なレベルのサービスを提供している。厳密には教会の系列団体ではないが、LDSコミュニティへのサービス提供が目的なのは明らかだ。ローリングストーン誌がメールで送った一連の質問票に対し、ハーカー氏は自分の事業と教会との間に「正式な関連はない」としながらも、ビショップやその他聖職者に対して「我々が有効だと判断した内容に基づいた情報を提供する」ことを目指している、と答えた。Life Changing Servicesではそうした情報や事業案内に教会の文言を盛り込むことで、「奉仕する社会に敏感でいる」よう心がけているそうだ。「顧客の経歴と合わせて、こうした信念を認識することが、しばしばセラピーで成功を後押しするのに重要な一端を担っていることが分かっている」と同氏は述べ、会社として「顧客の信条を治療に取り入れる倫理的義務がある」と付け加えた。

教会もLife Changing Servicesの成功に重要な役割を担ってきた。3人の元従業員によれば、教会は一時期ハーカー氏の依頼人の少なくとも半数の治療費を全額または一部負担していたという。教会は長年ビショップを通じてLife Changing Servicesに定期的に顧客を紹介し、大勢の患者の治療費を負担していたことが、3人の元従業員との取材やハーカー氏個人のwebサイト、ローリングストーン誌が検証した同社の記録から判明した。

元従業員の1人マーシャル・ラム氏は、2012年から2016年までSons of Helamanというグループを仕切っていたが、同氏の推定では患者の1/4から半数はビショップからの照会だった。ローリングストーン誌が取材した元患者のうち6人が、2007年から2021年の間にそうした形でハーカー氏の治療を照会されたが、全員がハーカー氏から直接治療を受けていたわけではない。「若い男性がポルノの問題を克服する手助けをする、というのが彼らの考えです。彼らは金を払って、王国にふさわしい、またはそれ以上の逸材を得ようとしています」とラム氏は言う(ハーカー氏によれば、現在会社が抱える顧客の「大多数」は「教会からの財政支援や照会を受けておらず」、「約90%」が「紹介状なく自費で」通っているそうだ)。ハーカー氏は全米のLDS教会で講演や「懇親会」を行うことで、会社の株をあげている。「まるで偽善布教です――福音で金もうけをしている」と言うのは、ハーカー氏の下で働いていた元パーソナル・トレーナーのグレイソン・オヴェリー氏だ。「彼は救済を売り物にしています」

Translated by Akiko Kato

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