ルイス・コールが明かす、超人ミュージシャンが「理想のサウンド」を生み出すための闘い

 
今明かされる、唯一無二のドラム録音術

―ニューアルバムは曲ごとに異なるアイデアがたくさん入っていて、デモっぽいラフさも残されているような気がしました。あなたは曲を作る際に、どの時点で「完成した」と判断しているのでしょうか?

ルイス:いい質問だね。それは僕が常に抱える闘いだ。曲ができたと思っても、整いすぎている、洗練しすぎていると感じることもある。それだと伝えたい感情がちゃんと伝わらないと思うんだ。だから、あえてデモっぽく聴こえるようにすることもある。そのほうが、曲の本当にあるべき姿に近いから。

一つの曲と長い時間をかけて向き合わないといけないこともある。ときには何カ月も、それが完成したと思えるまで。これは闘いだ。曲がいつ完成したかは、いつも明快なわけじゃない。でも、僕の場合、自分のなかで「これで完成だ」と感じる瞬間がある。ずっと取り組んでいくなかで、そう思える瞬間があるとき訪れるんだ。



―アルバム最後の「Little Piano Thing」はとても幻想的なサウンドですが、これはどのようにして録音したのでしょうか?

ルイス:家に物凄く古いアップライトのピアノがあって。もしかしたら100年くらい前のものかもしれないんだけど、どういう歴史があるのかは全然知らない。ある晩、マイクを数本立てて、何も決めずにそのピアノを弾いてみた。ちょうど感傷に浸っている時期で、自分が抱えている思いを吐き出さないといけないと思ったんだ。そうやって生まれたのがこの曲だった、というわけ。



―この曲の音像もだいぶ変わってますが、おそらくあなたはマイクのセッティングに関しても、普段からいろんな工夫をしていますよね?

ルイス:そうだね。特にドラムに関してはこだわりがあるよ。他の楽器に関しては、今もいろいろ試したりもするけど、ドラムはもう散々試し尽くしてきたから、自分がほしい音を完全に把握できている。だからこそ、ドラム・マイクをどこに置くか凄くこだわりがある。

―まさに、あなたが叩くドラムの音色は、仮にブラインドテストをしてもルイス・コールの演奏だとわかるくらい特徴的だと思います。

ルイス:そう言ってもらえて嬉しいよ。

―あの音はどうやったら出せるのでしょう? 秘訣は録音にあるのでしょうか、それともプレイやセッティング?

ルイス:一番はプレイだと思う。どこに音符を置くか、どこで叩くか、とか。バスドラムとシンバルをまったく同時に叩くとか。そういうプレイによる特徴が一番大きいと思う。あと、僕はバスドラムを大きい音で叩くんだけど、それも自分のサウンドに欠かせない要素だと思っている。他には、ドラムのチューニングの仕方とか、ドラムヘッドに何を使っているかとかも関係してくる。その後に、マイクの立て方とミキシングが重要になってくる。


ルイス・コールらしいドラムが録音された、サンダーキャット「I Love Louis Cole」



―そのマイキングとミキシングの方法について、説明できたりしますか?

ルイス:いいよ。例えば、バスドラムには薄いジャズ・ヘッドを使うのが好きなんだ。多くの人々がバスドラムに分厚いプラスチックのヘッドを用いていて、そうすると音の長さが短くなる。でも僕は、薄いヘッドを使うのが好きで、バスドラムのなかにもタオルを入れず、マフリングをしない。だから響くんだけど、ヘッドを緩くチューニングすることで、長くは響かないようにしている。段ボール箱をビルの上から落としたみたいな、「ドンッ」という感じの音。そのバスドラムの音が、僕の一番の特徴かな。

あと、マイクをスネアとバスドラムのちょうど間に置くのが好きなんだ。それがメインのマイクになる。他にもマイクは置くよ。スネア、バス、オーバーヘッドにも立てる。でも、そのバスドラムとスネアの間に置くマイクがメインで、最も音を拾っている。あと、ドラムにはあまりコンプレッションを掛けない。ほんの少し掛けるだけで、代わりにオーバードライブを掛けて歪ませている。だから半分クリーンで、半分歪んでいる。というのも、ドラムの音をライブで聴くと、耳が自然と歪みを加えるから。そういう生のエネルギーを伝えたいんだ。

―そういうドラムの鳴りについて、ロールモデルにしてきた演奏家は?

ルイス:トニー・ウィリアムス、キース・カーロック、あとは(新作にも参加している)ネイト・ウッドの影響も大きい。ネイトはドラマーとしても最高だし、ソングライターとしても素晴らしい。僕が歌うようになったのは彼の影響も大きい(笑)。アグレッシブなサウンドと言う意味では、その辺かな。




Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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