マネスキン新曲「THE LONELIEST」クロスレビュー 攻めのバラードをどう聴くか?

 
3.「THE LONELIEST」とパワーバラードの系譜
つやちゃん

「THE LONELIEST」を聴いて真っ先に感じたのは、マネスキンがついにパワーバラードに挑んだという驚きである。もちろん、これまでのディスコグラフィにもバラード曲は存在していた。しかし、たとえば「VENT’ANNI」はダミアーノ特有のラップに影響を受けたイタリア語の発音が特徴的な、バラードにしては音数が多い異色の曲だった。アルバム『Il ballo della vita』以前にもバラードはあったが、いわゆる叙情的なギターソロを組み込んだ形ではない。今年に入りリリースした「If I Can Dream」も、エルヴィス・プレスリーのカバー曲である。つまり、「THE LONELIEST」は、様々な音楽的ルーツを持つマネスキンがそれらを一旦振るい落とし、パワーバラードという形でハードロックのみに真正面からアプローチする初めての曲と言えるのかもしれない。


Photo by Francis Delacroix

そもそも、パワーバラードとは一体何なのだろうか。この曖昧な呼称によって成立している謎めいたジャンルは、細分化されたロックの中でも特に摩訶不思議さを際立たせている。

率直に言って、ロックというフォーマットにおいてバラードほど難しいものはない。なぜなら、音の一つひとつが各小節を目いっぱい占拠することによって、背後に隠れていた母音を必要以上に顕在化させるからである。落としたBPMに乗せ否応なしに引き延ばされる感情的な母音、のっぺりとした包容力をもって発される物語性の高い音――。バラードは、電気エネルギーの力であらゆるサウンドと思想を振動させながら増幅を果たしていくロックに反-リズミカルなストーリーを持ち込む(ゆえに、AC/DCはほとんどバラードを作らない)。

さらに、パワーバラードとはそれら母音の物語性を肯定し、むしろ割り切り合理的に処理していく、ハードロックによって作られた型である。音圧の高いハイトーンボーカルによって、母音はこの上なく強調される。先走るエモーションを、それぞれのパートが過剰に支える。静かに始まり、徐々に盛り上げドラマを生成する弦楽器や鍵盤。歌唱に負けないナルシシズムで情緒を愛撫するギターソロ。往年のヒット曲からいくらでも挙げられるはずだ、スコーピオンズ「Still Loving You」にホワイトスネイク「Is This Love」、シンデレラ「Heartbreak Station」、ポイズン「Something To Believe In」、そしてエアロスミス「I Don’t Want to Miss a Thing」――。






実は、マネスキンの「THE LONELIST」はその点でパワーバラードの王道をいっている。ギターとボーカルでセンチメンタルに始まる冒頭から徐々に盛り上げていき、サビでは「me/be」での「i」、「mine/my eyes」の「a」の引き延ばした押韻を中心に母音が強調され、終盤はギターソロで結ばれる。だが、そこで弛緩ぎりぎりの一歩手前において踏みとどまる彼ら彼女らの表現を見落としてはならない。

“You’ll be the saddest part of me/A part of me that will never be mine/It’s obvious, tonight is gonna be the loneliest”という、バラードにしては狭い音域を低く渋い声で発するダミアーノ。その発声にはいつも通り口腔や鼻などの器官から発される雑味が含まれ、濁った力強さとも言うべき魅力が感じられる。ギターソロも、音数を制限し抑揚を抑え、タイトさをキープしている。むやみやたらに感情の襞(ひだ)を伸張させ平面にすることなく、襞を低い位置で保つ美徳がある。その点、どちらかというとステインド「Outside」やクリード「With Arms Wide Open」といった曲に代表される、ニューメタル勢のバラードへの向き合い方に近い。

弛緩し平面的になりがちなパワーバラードのアプローチを駆使しながらも、例外的に優れたパフォーマンスを成し得た曲の一つとして、私はスキッド・ロウの「18 and Life」を挙げたい。“18 and life You got it/18 and life you know/Your crime is time and it’s/18 and life to go”というサビの短い音の塊、抑揚のなさ。母音の伸張を最低限に留め、物語を連ねずに切断していくような潔さがある。物語が先行することはなく、音の集積によって自然と物語が立ち上がっていく。マネスキンの「THE LONELIST」も、そのようなクールさを擁している。








マネスキン
「THE LONELIEST」
配信中
再生リンク:https://ManeskinJP.lnk.to/THELoneliestRS



 
 
 
 

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