マネスキン新曲「THE LONELIEST」クロスレビュー 攻めのバラードをどう聴くか?

 
2. メインストリームの最前線で変化し続ける王道ロック
辰巳JUNK

「今の若者はギターソロを聴かない?」……そんなギターソロ議論が加熱した2022年の日本でマネスキン旋風が起こったことは、幸先いい偶然かもしれない。現行ロックリバイバルの象徴と評されるこのイタリアン・バンドは、サマーソニックやTV番組の出演を落として、ここ日本でも熱狂を生み出した。そして、待望の新曲「THE LONELIEST」は、ゴージャスなギターソロが鳴り響いている。

「THE LONELIEST」がバラードであることは、マネスキンというバンドの面白さも示しているだろう。オリヴィア・ロドリゴ「drivers license」のメガヒットが示すように、喪失のバラードは今でも普遍的人気を誇っている。しかし、ギターのトーマスによると、こうしたバラードの類は、元々バンドメンバーにとって自然に選択するものではなかったという。「VENT’ANNI」のような楽曲も出してはいるが、ヨーロッパでの脚光を獲得したユーロビジョン優勝曲「ZITTI E BUONI」、アメリカ人気を確かにしたフォー・シーズンズのカバー「Beggin’」など、彼らが得意とするのは、愉しさにあふれたアップテンポだからだ。

しかし、さまざまな影響をとりいれて変化していく姿勢こそ、マネスキンの音楽性だ。世界進出が本格化した今年、彼らはバズ・ラーマン監督直々のオファーにより、映画『エルヴィス』劇中歌としてエルヴィス・プレスリー「If I Can Dream」のカバーを発表した。自分たちの「安全圏」から逸れるスロウバラードではあったが、思い入れある楽曲だったため挑戦してみたら、想像以上の仕上がりになった一曲だという。そして今回、成功体験を活かすかのように、自分たちでオリジナルのバラードをリリースしてみせたのだ。



70年代調ロックをベースにラップやファンクの要素を取り入れてきたマネスキンは、王道のバラードもモノにしている。「THE LONELIEST」は、日本でもウケるであろう、いわゆる泣きメロだ。同時に、セクシーなボーカルと荒々しきバンドサウンドが合わさることで、まごうことなきロックバラードとなっている。補足するなら、アメリカのティーンドラマ『プリティ・リトル・ライアーズ』をオマージュした気配のカバーアートも、彼ららしい遊び心と言えるだろう。


Photo by Tommaso Ottomano

「THE LONELIEST」により、世の中のロックリバイバルはより盛り上がりを増すだろう。同時に、マシン・ガン・ケリーやウィローといった、ムーブメントを担うソリストとマネスキンがやっていることは異なる、というダミアーノの見解も示唆的だ。彼いわく、今日の大勢のアーティストに共通しているものが、歪んだギターやアナログバンド演奏、ステージダイブなどの、ロックンロールのエナジーである。「音楽はつねに発展途上。すべてが衝突して、うまい具合に混ざりあう」。ゆえに「誰もロックンロールを殺すことはできない」。

実際、冒頭で引いたギターソロにしても、ハリー・スタイルズやリル・ナズ・X等が近作で取り入れている。このことが示すように、現在のロックリバイバルは、基本的にポップ/ラップのスターを中心としたジャンルブレンディング志向の大波のなかにある。そうした折衷的ムーブメントのなか、抜群のバランス感覚を持ったロックバンドとして「新しい王道ロック」を示す存在こそ、マネスキンと言えるだろう。一聴すると普遍的バラードでありながら、聴けば聴くほど彼らにしか奏でられないロックンロールだと知らしめる「THE LONELIEST」こそ、その証明だ。



 
 
 
 

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