マネスキン新曲「THE LONELIEST」クロスレビュー 攻めのバラードをどう聴くか?

マネスキン(Photo by Tommaso Ottomano)

 
マネスキン(Måneskin)による待望のニューシングル「THE LONELIEST」が本日10月7日より配信スタート。伝説的ライブで旋風を巻き起こした4人組の来日後初となる新曲は、新境地を切り拓く壮大なロックバラードとなった。この注目すべき新曲を掘り下げるべく、新谷洋子、辰巳JUNK、つやちゃんというライター3者によるクロスレビューをお届けする。



1. バンドの歩みと個性が導き出した「次の一手」
新谷洋子

「足りないのはカッコいいバラードだな」

サマーソニックの前々日にあたる8月18日、東京・豊洲PITで行なわれたマネスキンの単独公演を観終えた時、そう思った。なぜって、あの夜のショウは予想以上に長かった。オリジナルの持ち歌はまだ25曲程度しかないし、初来日だし、あれだけの熱量のショウなら1時間程度でも文句はなかったのだが、カバー曲を交え、「I WANNA BE YOUR SLAVE」を2回プレイし、アンコールを含めて計15曲、90分くらいあっただろうか?

ただヘッドライン・ショウは、限られた時間内に見せ場を詰め込んで押しまくる、フェスでのパフォーマンスとはわけが違う。スローな曲は序盤に配した「CORALINE」だけで、少々抑揚が足りず、途中で一息吐く数分間が欲しくなった。願わくばライター/ケータイを灯して、一緒に歌いながら揺れていられる数分間が。それに、ナマでも全くブレないダミアーノの美声をもっとじっくりと味わいたかった。そう、マネスキンにとっての「Nothing Else Matters」、あるいは「Under the Bridge」が必要だった。


8月18日、東京・豊洲PIT公演にて(Photo by Yoshie Tominaga)

果たして、ここに届いた「THE LONELIEST」は、クワイエットとラウドのコントラストでスケール感を醸し、トーマスのフルシアンテアンなギターソロで盛り上げ,ダイナミックなメロディでダミアーノの声の深みを引き出した、快哉を叫びたくなる王道のロックンロール・パワーバラードではないか!

そもそも彼らのアルバムの収録曲の中でバラードと呼べるのは、1st『Il ballo della vita』の「Torna a casa」と「Le Parole Lontane」、2nd『Teatro D’Ira: Vol.1』の「CORALINE」と「VENT’ANNI」のみ。歌詞はいずれもイタリア語で、メディテラネアンな切なさを湛えていて、ロックバラードとはまた異なる独自のカテゴリーを構成しているようでもあった。他方の「THE LONELIEST」は、初めてロックなダウンテンポ・ソングに英語ボーカルを乗せたというだけでなく、その英語詞の趣も、シニカルな表現やロックンロールなクリシェに傾きがちだった従来のそれとは違って、イタリア語詞にあるポエティックなロマンティシズムを共有しているという点においても注目すべき1曲だ。ダミアーノは23歳にして“自分の人生はあとどれだけ残っているのか”と問いかけ、情熱的なラブレターであると同時に遺書だと言われても納得できてしまうメロドラマティックさが、彼にはやけに似合う。






じゃあ、今こんな曲を発表したのはなぜなのか? バンド自身もツアーをしながら「足りないのはカッコいいバラードだな」と感じたのかもしれないが、ひとつインスピレーションとして考えられるのが、映画『エルヴィス』のサントラに提供したエルヴィス・プレスリーの「If I Can Dream」のカバーだ。なんでも監督のバズ・ラーマンは、敢えてマネスキンらしいアップテンポな曲ではなくバラードを提案したそうで、厳密には彼らにとってこれが初の英語バラードであり、閃きの瞬間だった可能性もある。

また、「SUPERMODEL」でマックス・マーティンやジャスティン・トランターとコラボした4人は、今回もマックスの一番弟子ラミ・ヤコブらと共作し、プロデュースは、2枚のアルバムを一緒に作った地元の盟友ファブリツィオ・フェラグツォと行なった。メインストリーム・ポップとのコネクションを保ち、持ち前のポップネスに磨きをかけながら、イタリアに軸足をやや戻した形だ。「だからといって俺たちは魂を売ったわけじゃないよ」と言わんばかりに。「THE LONELIEST」はそういう意味で、慎重に歩を進めて人脈を広げ、ツールを増やしてきたこの1年半の成果でもある。

人脈と言えば、「I WANNA BE YOUR SLAVE」のニュー・バージョンで共演した、イギー・ポップの言葉を最後に挙げておきたい。自らDJを務めるBBCラジオのレギュラー番組で度々マネスキンの曲をかけている彼は、番組の中で“最高のボーカリストを擁し、自分たちがやるべきことを心得ている、イカしてて、如才がなくて、洗練されたハードコア・ロックバンド”と彼らを評していた。この曲を聴いていると、この賛辞に頷かずにいられない。

 
 
 
 

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