キッド・カディが語る『Entergalactic』に込めた情熱、自分の運命と未来へのビジョン

キッド・カディ(Photo by Norman Jean Roy)

キッド・カディ(Kid Cudi)がニューアルバム『Entergalactic』を発表。自身が脚本とプロデュース、声優を担当するNetflixの同名アニメも話題を集めている。10月17日に東京・豊洲PITで来日公演を行う彼が、ローリングストーン誌に将来の展望を語った。

2022年、キッド・カディのデビュー14周年を前に、彼のデビュー・ミックステープ『A Kid Named Cudi』が、ストリーミング・プラットフォーム上に公開された。「世間に向けて素晴らしいアピールができたと思う。そして俺やプレイン・パット、エミール、ドット・ダ・ジーニアスにとっては、初期の作品を祝ういい機会になった」と、電話インタビューでカディは語った。「ちょっと大きなことをやってやろう、と計画したのさ。俺たちは世界を変えたかった。音楽作りへのアプローチを変えてやろうと思った。そして、俺たちはそれを実現したのさ」

そして今、カディは10枚目となるスタジオ・アルバム『Entergalactic』のリリースを待っている(編注:9月30日に発表された)。今回の作品には、カディ自身の大きな成長の跡が見て取れる。38歳になった本名スコット・メスカディはラッパーとして、ほとんど神の境地に達しようとしているようだ。「こんなにたくさんのアルバムを出せるなんて、思ってもいなかった。キャリアを積んでここまで来られたことに、本当に感謝している」

「時代と共に成長してこれたと言えるが、今でも自分らしさは失っていない。それ自体がひとつのアートフォームだと言える。そういうアーティストもいるからね。一方で時代の試練に耐えられないアーティストもいる」とカディは言う。「例えば昔のアルバム『Man on the Moon II』の収録曲“GHOST!”なんかをステージでやった時でも、今のファンが盛り上がってくれる。まるでリリースされたばかりの新曲のようにね。価値あることだ。心にズンと来る」

伝統やしきたりにとらわれないカディの向上心を反映した『Entergalactic』は、単なるスタジオ・アルバムの域を超えている。カディによると、当初は独自の世界観を持ったキャラクターのストーリーに基づく、アンソロジー的なプロジェクトを想定していたという。最終的には、彼の音楽をベースとしたNetflixの同名アニメシリーズが、アルバムと同時に配信開始されることとなった。ケニヤ・バリスが製作総指揮を務めた同シリーズでは、ジャバリという名の若い独身男の、一生懸命にがんばりながらも愛の力に翻弄される姿が描かれている。

「最初は2019年に、俺とドット・ダ・ジーニアスで始めた。まずは音が固まって、それから映像の方向性が見えてきた」とカディは言う。「初めに楽曲とストーリーを書いた。音楽が先だったんだ。次にストーリーを組み立てて、最終的に全てが融合されたのさ」

キッド・カディは、アーティストとしてのキャリアをスタートさせた当初から、感情や情熱をむき出しにして心をえぐるような曲を作ってきた。「メンタルヘルス」という言葉が流行するずっと以前からカディは、それぞれが抱える絶望という感情をテーマに、正面から向き合ってきたのだ。絶望、愛、高揚感をテーマにした楽曲を難なく操れる才能のおかげで、カディは音楽界における時代のビッグネームに上り詰めた。同時にポップカルチャーの世界でも、崇められる存在となった。カディは、HBOのドラマ『僕が教えるアメリカ成功術』でドミンゴ・ディーンという陽気なハスラー役を演じ、最近ではA24のホラー映画『Pearl』にも出演するなど、俳優としてのキャリアも積んでいる。10枚ものフルアルバムをリリースしながら俳優業も並行していることを考えると、彼の素晴らしさがさらに際立つ。

「人々の人生に、少しでも愛を分け与えられたらと思っている。皆をハッピーにしたいんだ。恋人や片想いの相手でも誰でもいいので、一緒に曲の雰囲気に浸って共感してくれたら嬉しい。そして人生の糧にして欲しい」とカディは、ニューアルバムについて話す。彼はローリングストーン誌のインタビューで、長いキャリアの中で学んだ経験や、次の10年に向けた自身の構想について語っている。



ー新しい時代の新たなプロジェクトが進む中で、デビュー・ミックステープの中に、今の自分の音楽に通じる作品があると思いますか?

キッド・カディ(以下、KC):間違いなくあるね。「Pillow Talk」や「Whenever」などがそうだ。色男を気取って、まだ純粋だった頃に戻った気分になる。アーティストとしての新しい世界へ踏み出そうと一生懸命だった、恋するティーンエイジャーに戻った感じだ。



ーニューアルバムの制作プロセスや、その後のアニメーション作品に発展したきっかけを教えてください。

KC:アルバムの制作自体は、他のアルバムとほとんど変わらなかった。台本に従って演じたり、普通に楽譜を書いたり、というやり方ではない。これまでのアルバムと同じように、自分の頭の中でストーリーを組み立てながら進めていった。そうやってまず音楽が生まれる。次に、自分の中にある全ての情報をライターへ伝えて、一緒にストーリーを書く準備が整う訳だ。

ーということは、従来のアルバムと同じような過程で作られたのですね。何かこれまでとは違った点はありませんでしたか? アニメの世界へ踏み込むきっかけは何だったのでしょうか?

KC:アルバム作りに嫌気が差していた面もある。飽き飽きしていた。アルバムを1枚作って、MVを2つ撮影して、とそれだけ。決まりきったパターンの繰り返しに疲れていた。だから次のアルバムを出すなら、絶対にエキサイティングなものにしよう、と思っていた。これまで誰もやったことのない作品にしたかった。そこで、自分の音楽からアニメ作品を作ってみよう、というアイディアを思いついたのさ。とても自然な流れだった。ケニヤ(・バリス)から、Netflixが新しいアニメ作品を探しているという話を聞いたのがきっかけで、アニメ作品のアイディアが浮かんだ。当初『Entergalactic』は、アンソロジー・シリーズの一部として1話完結のアニメ作品になる予定だった。でも俺は、ひとつのエピソードを広げて、物語として作り上げた。アンソロジーのアイディアも、いつか実現するかもしれないな。すごくいいアイディアだと思うよ。



ーストーリーを組み立てる中で、あなたには愛というコンセプトが浮かびました。物語のテーマには、どのように行き着いたのでしょうか?

KC:伝わりやすいメッセージにしなければいけない、と思ったのさ。愛は無条件に俺たちを受け入れてくれる。愛は皆を癒してくれる。愛は俺たちを救ってくれる。時に愛は俺たちを傷つける。愛によって世界は回っている。全て本当のことさ。愛こそが究極の答えなんだ。全てに対する答えだ。世界の本当の平和と本当の幸せをもたらすのは、愛さ。愛が全てを解決してくれる。だから、愛をコンセプトにした映像作品を作りたいと思った。愛など求めない2人の人間がいて、しかし愛の方から2人に歩み寄る。そこには何か魔法のようなものが生まれる。俺としては、素晴らしいアニメ作品になると思った。2人の素晴らしい人間が出会い、電気が走り、磁石のように引き合う。愛の力というものを、今の世の中に見せてやるのさ。

ー今回のアルバムの収録曲の多くは2019年に書いた、とおっしゃっていました。レコーディングからリリースまでの間、どのようにコンセプトを温め続けていたのでしょうか?

KC:その直後からアルバム『Man on the Moon III』(2020年)に取り掛かり、また新たな鎧を身にまとった訳さ。『Entergalactic』のおかげで、愛に対する見方が変わった。正に俺が求めていたものさ。だから『Man on the Moon III』を作り始めた頃には、俺はよりパワフルな人間になっていた。アルバムごとに成長している。アルバムを出すごとに、少しずつ良くなっていくのさ。アルバムを作るごとに、自分というものをより理解できるようになっている。今回のアルバムに取り掛かった時に、自分が愛し愛され、存在することを望み、心の準備ができたことを認識した。正にそのタイミングだった。個人的には、自分はもう若くはないし、望むものも昔とは違う、という境地にようやく辿り着いた。だから愛に対しても、より成熟した見方ができるようになったのさ。

Translated by Smokva Tokyo

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