テデスキ・トラックス・バンドが語る4部作の裏側、村上春樹の助言、夫婦とメンバーの絆

女性としての視点、家族としての物語

―今回アルバムに貢献した5人の主要なソングライターのなかで唯一の女性です。元々がライラの視点はどうなのかという発想で始まったプロジェクトで、女性の視点を持ち込む役割をひとりで担うのは大変じゃなかったですか?

スーザン:ええ、最初はそう感じたわ。そうしたら、どうにかしてゲイブ(・ディクソン)が「アイ・アム・ザ・ムーン」を書いてきた。「あなたは女性なの? どうして女性のことをそんなによくわかっているの?」(笑)と思わせるほどの曲だった。あなたの言う通り、ライターの大半は男性だから、彼らにはライラの視点を完全に理解するのはむずかしかったかもしれない。でも、出来上がった作品は、彼女が共感できるであろうもので、彼女が経験した感情が表現され、彼女がその会話の一部となり、物語の証人となっていると思う」



―このバンドを始めた10年前との大きな違いのひとつは、あなたとデレクはもうすぐ大人になって巣立つお子さんを育ててきました。「ライラとマジュヌーン」は家族の物語でもあり、あなたたちには親の視点もある。

スーザン:まったくもってその通りね。私の書いた「ラ・ディ・ダ」は恋人についての曲として聞けるけど、子供たちについてとも聞ける。或る日、彼らが成長して出ていくことに気づく。自分のもとから去っていく。さよならを言わなくちゃならない。それは「ライラとマンジューン」物語の重要な部分で、とても似たところがある。彼らはものすごく愛し合っているけど、会えなくなって、これはうまくいかない、お互いを手放さなくてはいけないと悟る。それぞれの人生を生きていけるようにね。大事なものをあまりに強く握りしめていると、自分が前に進めなくなってしまう。それを手放さないといけないときがある。それはとてもほろ苦い思いだけどね。

だから、このアルバムにはたくさんの異なる視点がある。これらの曲の素晴らしいところはそこなの。とてもシンプルな曲もあるし。例えば「ヒア・マイ・ディア」ね。

―曲名はマーヴィン・ゲイのアルバムのタイトルからでしょ?

スーザン:ああ、そうなんだけど、あっちはHEREで、どうぞ、これを差し上げます。こっちはHEARなのよ。聴いて、これがあなたのメロディーよという感じ。だから、これは私とデレクにとっては、マーヴィン・ゲイの裏面みたいなもの。あちらが離婚のレコードなら、こっちは別れるのではなく、なんとかうまくいくようにやってみよう、ほら、これがあなたにあげたい美しいメロディー、僕らのメロディーなんだと。マーヴィン・ゲイの曲とは異なる、肯定的な曲なの。

そして、4枚のアルバムにすごく異なった種類の曲がある。そこがとても気に入っている。音楽的にも様々な影響がある。ゴスペル、ブルーズから、ストレートなポップまでね。様々な種類のロックンロールなの。すごく楽しいレコードでもあるわ。



―第3章収録の、あなたが書いたブルーズの「イエス・ウィ・ウィル」がいいですね。マッスル・ショールズ録音のステイプル・シンガーズのレコードみたいなサウンドに、B・B・キングが加わったみたいで。

スーザン:まさにその通り。曲を書いたときに、それを考えていた。デレクにB・B・キングみたいなギターを弾いてもらおうとね(笑)。みんなが共感できる曲だと思うし、このプロジェクトに取り組んだ姿勢が結実したような曲でもある。私たちがどれほど一緒に働く必要があるかについてだから。私たちが直面するあらゆる障害を乗り越えるためにね。アメリカだけ、日本だけ、欧州だけの問題じゃない。全世界が共有している様々な問題を解決するために、みんなで協力して対処しなければならない。そういった状況への「私たちはそれができるわ」と前向きに肯定する宣言なの。困難かもしれないけど、私たちは一緒にやらないといけない!とね。



―マイクの「ホエア・アー・マイ・フレンズ?」や「エマリーン」は2019年に亡くなったキーボード奏者のコフィ・バーブリッジを思って書き始めた曲のようですが、コフィ以外にも、デレク・トラックス・バンドのドラマーだったヨンリコ・スコット、数年前にはオールマン・ブラザーズ・バンドの(デレクの叔父)ブッチ・トラックスとグレッグ・オールマン、そして、あなたたちの師匠格のコーネル・ブルース・ハンプトンなど、近年、TTBは家族の一員とも言っていい本当に大事な友人たちを続けて失いました。ただ、大事な人を失うと、それまで以上にその存在を身近に感じるということもありますよね。今回のプロジェクトでも、亡くなった友人たちの存在を改めて感じませんでしたか?

スーザン:ええ。彼らは間違いなく今も私たちに影響を与え続けている。その存在をいつも感じているし、そこからインスピレーションを受けている。そして私たちは音楽を通して、彼らに敬意を表わそうとしているわ。今も私たちの一部なの。私たちミュージシャンはみんな、ある時点から自分自身のサウンドを作り出すわけだけど、実のところそれは自分が愛して耳を傾けてきたミュージシャンたちの音楽の蓄積なのね。彼らから学んだことを自分の一部にしていく。それは若い頃に大好きだったアーティストと同じようにね。レイ・チャールズ、マヘリア・ジャクソン、アリーサ・フランクリン、エタ・ジェイムズ、それに、ジョニー・ギター・ワトソン、彼らはみんな私の一部だわ。そして、一緒に演奏した人、一緒に生活した人、彼らは本当に自分の一部で、家族の一員よ。自分にとってとても意味のある存在だわ。私たちみんなが多くのことを一緒に経験した。みんなが彼らを大好きだったし、私たちは常にお互いを支え合っていたんだから。


テデスキ・トラックス・バンド(Photo by David McClister)

―そのコフィの大きな穴を埋めたゲイブ・ディクソンはキーボード奏者であるだけでなく、かつて自分の名前を冠したバンドで活動し、ソロ・アルバムもあるシンガー・ソングライターですね。ナッシュヴィル在住でロック、ポップ、カントリーとジャンルを超えて、共作も含むソングライティングの経験が豊富で、新作でその実力を大いに発揮しています。

スーザン:ゲイブは生まれも育ちもナッシュヴィルで、ソングライティングの経験が豊富ね。とても人柄がよくって、一緒に曲を書くときもとてもやりやすい。とても引き出しが多く、いろんなものを持ち出してくる。間違いなくアイデアを思いつくのを助けてくれるし、誰かがアイデアを聴かせると、彼はそこから美しい傑作を作り上げる。彼はこのバンドにとって、素晴らしい強みになっている。

彼はコフィと同じように幅広い音楽に通じた万能なミュージシャンなの。ソウルフルで、たくさんの異なるスタイルを高い水準で演奏できる。そのうえに彼はバンドのフロントを張れる人でもある。素晴らしい歌手だし、エンタテイナーなの。それは彼のもうひとつの重要な要素ね。彼の存在はこのバンドにとって神からの恩恵ね。何であれ彼が持ち込むものは、このバンドをさらに親密にしてくれる。彼は今の私たちの持っているものを思い起こさせてくれるから。失ったものを忘れはしないけど、新たにどれほど得たかを気づかせてくれる。私たちはもっと多くの友人を得たのだから。

―なんて才能豊かなメンバーが揃っているのかといつも驚かされます。コンサートを見れば、名プレイヤー揃いとわかりますが、新作はこのバンドに優れたソングライターもたくさんいると教えてくれますね。

スーザン:私はこのレコードを本当に誇りに思っているし、このバンドがこの困難で不確実な時期でも創造的であり続けていることを誇りに思っている。お互いを信じて、この前向きなプロジェクトを進め、とても暗い時期からも素晴らしい音楽を作り出した。このひどいウィルスのせいで、全世界で何百万という人びとを失った。私にできることは、暗闇のなかに明かりを見つけようと努力することだけだった。それがこのプロジェクトだったわけね。

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