BREIMEN・高木祥太の新連載、開宴します

「MELODY」から、『FICTION』へ

ー7月20日に出る3rdアルバム『FICTION』、ミックス途中の現段階のものを聴かせてもらいましたが素晴らしい内容で。さっき言いかけてくれましたけど、『FICTION』のコンセプトは何ですか?

高木 『FICTION』というタイトルだけど中身はドキュメンタリーなんですよ。いずれは創作的な歌詞も書いてみたいとは思うんですけど、今のところ実体験とか自分のリアルなことでしか書けなくて。でも、さっき話したように、音楽にする時点で脚色されるし、「自分が見たいその人しか見ない」というのもあるから、どう作ってもフィクションになるというか。俺にとっては全部本当のことしか歌ってないけど、何か実際に起きたことを歌っていたとしても、どうやったって自分の好きなように切り取っちゃうから。あと、今回のテーマに「映画」があって。作品を通して一個の映画でもあるし、それぞれの曲が独立した映画かもしれないし。それらを複合して『FICTION』にしました。このタイトルに何か想いを込めているというよりは、起きていることを総合して名付けた感じかもしれないです。

ーそもそも過去とか思い出って、自分の中で脚色しちゃってフィクションみたいになっていきますよね。

高木 そう、そうなんですよ。それが本当に厄介でね。記憶の仕方も人それぞれで、嫌なことばっかり覚えている人もいれば、いい風に切り取る人もいて、俺は基本的にいい風に切り取っちゃうから。だから外から見たらムカつくロマンチストみたいになっちゃう。なので「綺麗事」という曲を入れましたけども。

2025 はははは(笑)。

高木 こいつ(2025)もそうだけどね。「綺麗事」ってハマイバの曲なんですよ。昔、ハマイバに恋愛のいろんなことが起きたときに俺が書いた曲。

ー「綺麗事」、アルバムを初めて一聴したときに一番びっくりした曲です。「綺麗事」から「チャプター」の流れがかなり喰らいました。すごくないですか、この曲?

純平 すごいですね。

高木 本当ですか。この曲が一番古くて。実は『Play time isn’t over』を作る前からあって、でも温めておいたんですよ。





ー『Play time isn’t over』を出したあとしばらく曲が書けない時期があったって言ってたじゃないですか。最初に書けたのはどの曲だったんですか?

高木 「MELODY」ですね(5月9日リリース、ポルノグラフィティ・岡野昭仁×King Gnu・井口理の楽曲。高木が作詞作曲、BREIMENがプロデュースと演奏を手がけた)。『Play time isn’t over』が去年の3月くらいには終わって、4、5月あたりが腐っていて、5月の半ばくらいに理くんから電話がきて。『Play time isn’t over』で燃え尽きていたし、「これ以上の曲は書けない」「これを超えるアルバムは作れない」と思っていたけど、「MELODY」でエンジンをかけ直してもらいました。自覚的に「MELODY」の音作りは『Play time isn’t over』の延長線上にあるものにしたから、俺的にはアレンジの考え方とかは切り離されていて、新しいアルバムを想定して作ったものでいうと「CATWALK」が最初かな。



ーアレンジの考え方をどう切り替えたんですか?

高木 次のアルバムはクリックなしで、全部生の楽器、MIDIを使わないっていう。俺、制作において制約を設けるのが好きで。今って何かやろうと思えば何でもできるじゃないですか。昔は「こういうのがやりたい」って言ってもできないからこその面白さがあったと思うし、あと俺の体感としては制約があるほうが自由度が生まれる。簡単に説明すると、クリックがないことによって、生アレンジ自体が変わるというか。「ここ別に音入れなくても単純にちょっとテンポを遅めればいいんじゃない?」みたいな。だからね……もしいずれ『情熱大陸』があるとしたら、常田大希(King Gnu)が「破壊と構築」、俺は「制約の美学」でいこうと思います。

ーははは!(笑)。めっちゃいい。

高木 だから今回のアルバムを作る前も制約を設けて、その結果、すごく広がった。

フジイセイヤ (このページの写真を撮ってくれた写真家であり、「MELODY」のアートワークの撮影も担当)僕からも質問、いいですか?

ーお、お願いします!

高木 いいっすね。こういう会にしたいよね。

フジイ もし僕が作詞作曲をやるとしたら、第一線を走ってきたポルノグラフィティの岡野さんと、今すごく勢いのあるKing Gnuのボーカルの理がコラボしますってときに、あんなにBREIMENらしい曲をブチ当てられないなと思ったんですよ。そこは自分らしくいこうと思ったのか、それとも本当にこれが一番あの二人に合うと思ったのか、その辺を聞きたかったんですよね。

高木 そもそもノーオーダーだったっていうのはひとつポイントとしてあって。オーダーがあったら、もしかしたら受けなかったかもなとも思う。まず、生半可なものを出したらBREIMENというバンドが食われると思ったのよね。別にそこまでBREIMEN感を押し出すぞとも思ってなかったけど、絶対に二人の存在自体に負けない曲を作ろうとは思っていて。でもどうなんだろう……メンバーとの制作に入ったら、自然とBREIMENサウンドになったというか。だから逆に言えばバンドなんだなって思った。しかも岡野さんも理くんもそれをよしとしてくれた空気感。昭仁さんがとにかく腰がめちゃくちゃ低くて。マジでいい人。でもステージに立つとスター。だから本当にすごい。あと理くんはBREIMENが単純に好き。

ーはははは(笑)。

高木 理くんが色々やってくれた感じがある。俺をアー写に出そうとか、「prod. by BREIMEN」を付けるとか、あれって本当にイレギュラーなことで。

フジイ それを決めるとき、僕いたから。PERIMETRONの事務所で、アートワークについて理くんとOSRIN(PERIMETRONのアートディレクター)と僕で話していて、途中から岡野さんも来て。理くんが「この二人がコラボするけど、意外とあいつがキーマンなんだ」みたいに言ってて、OSRINも理の意見に寄り添って「絶対に祥太を出したい」って言って。深い話は本人から直接聞いたほうが面白いと思うんだけど。

ー聞きたいですね。山一に来てほしい。

高木 来た人のすごさでいったら、昭仁さんが来たらピークですね(笑)。

ー今日はこの連載をやる意味や背景として祥太さんやBREIMENの音楽のベースにある人間愛はどこから来ているのかを特に聞きたかったんですけど、そこがすごく聞けた気がします。

高木 そうですね、人間愛。

ー人を巻き込む力も自然と持ってるし。

純平 近くにいちゃうみたいな、そういう謎の吸引力はありますね。

高木 だから「ドキュメンタリ」という曲で“人たらし”って歌ってるんですけど。でも“人でなし”なので。いつかみんなに見放されて一人になるかもしれない(笑)。

ーあと、いわゆる資本主義社会の価値基準から外れてしまうものを祥太さんは大事にしていると思うし、新しいアルバムでも歌っているし。そういう価値観の提示をこの連載でもやれるといいですよね。

純平 めっちゃいいですね。

高木 そうかもしれないですね。俺、根本の価値観が社会と乖離していると思う瞬間はあって。本当に良くも悪くも。俺の価値観って、めっちゃ頑張ってる人からしたらウザッて思うかもしれないけど、時と場合によっては「そんなんでいいんだ」みたいなに思える可能性もあるなと思っていて。

ーうん。「あ、これでいいんだ」「こういう考え方もあるんだ」って救われる人がいると思う。

高木 別にそういうコンセプトではないんだけど、そうかもなとも思います。俺がいることによってみんなが安心してほしいとかはまったく思わないんですけど、そういう部分はあるかなと思うから。俺、全部上手くいかなくなったらスペインに逃亡してホームレスやろうと思っていて。これずっと言っているんですけど。

ーなんでスペインなんですか?

高木 小6のとき、スペインに1年住んでいたんですよ。父親がフラメンコギタリストで、その修行に家族全員でついていって。スペインって、たとえば日本だと1カ月で終わる工事を1年かけてやっているんじゃないかっていうくらい、ノロノロというか、時間の流れがゆっくりで。シエスタとか本当に寝てるから(笑)。日本人って本当によくやっているなと思います。日本だと「忙しい」って美徳で、「忙しそうだね」が褒め言葉になるじゃないですか。でも俺は忙しくしたくない。

ーでもそう言いながら最近めっちゃ忙しそう(笑)。

高木 だから苦しいなと思うこともあります。生きていれば万々歳なことがたくさんありますよね。



BREIMEN
常軌を逸した演奏とジャンルにとらわれないスタイルで注目を浴びる5人組ミクスチャーファンクバンド。2ndアルバム『Play time isn’t over』は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文の私設賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』で特別賞を受賞。2022年5月にリリース、ポルノグラフィティ岡野昭仁、King Gnu井口理のコラボナンバー「MELODY(prod. by BREIMEN)」ではBa&Vo高木祥太が作詞作曲提供、BREIMENメンバーが演奏・編曲を担当。
https://brei.men/


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