『セックス・ピストルズ』ダニー・ボイル監督のドラマシリーズを事実検証

3. スティーヴの人生におけるクリッシー・ハインドの存在はかなり誇張されている。

クリッシー・ハインドはザ・プリテンダーズを結成するかなり前の時期にSEXで働き、初期のセックス・ピストルズと多少の関わりがあったのは事実だ。しかしドラマの中の彼女は物語の中心にいて、スティーヴの恋の相手として描かれている。「彼女は先週、映像を見てショックを受けていた」とスティーヴは、ニューヨーク・タイムズ紙に語った。「でも俺はいいストーリーだと思う。期間は別にして、彼女と俺との関係の描き方は面白いと思った。几帳面な人間なら、時系列に沿っていないから嫌うかもしれない。でも俺は気にしないぜ」

几帳面なマニアのために、スティーヴが自伝でどう書いているかを紹介しておく。「クリッシーがショップで働いていた時に、店じまいした後で俺たちは、マルコムとヴィヴィアン(・ウエストウッド)の掲げた店名の“SEX”を実行に移した。(またある時は)パーティーの最中に、バスタブの中でやったこともある」と、彼は書いている。つまり、彼らはSEXを通じて知り合った仲で、たまに関係を持ったかもしれないが、ドラマで描かれているような深く長い関係では全くなかったということだ。ドラマでは何年も働いているように描かれていたが、実際にクリッシーがSEXで働いていた期間は比較的短い。


4. クリッシー・ハインドとスティーヴ・ジョーンズが結婚寸前まで行った事実はない。

実際のクリッシーは、英国滞在中に何度もビザの問題に直面し、一時期は故郷のオハイオ州へ帰らざるを得ないこともあった。しかしドラマの中の彼女は、合法的に英国に滞在する目的で、セックス・ピストルズのメンバーと結婚しようとする。そしてスティーヴと結婚することになったが、スティーヴはポーリーンという女性とセックスするために、直前になって逃げ出してしまう。ポーリーンは精神を病んだ女性で、その後バンドの楽曲「Bodies」のモデルとなる。すると、ジョン・ライドンが代わりに結婚相手を名乗り出る。ところが彼もまた、直前で逃亡してしまう。

事実を見ると、最初に彼女が結婚を申し込んだ相手はジョンだった。しかし実際に結婚を承諾したのはシド・ヴィシャスで、彼は2ポンドで受け入れたという(スティーヴは、クリッシーの結婚話に全く関係しなかった)。シドとクリッシーは必要な書類を準備して、本当に結婚寸前まで行った。ところが登記所が長期休業のため閉まっていた。「翌日はシドが、ガラスで誰かの目をくり抜いた容疑で法定へ出ねばならなかったので、登記所へは行けなかった」とクリッシーは、自伝『Reckless: My Life as a Pretender』に書いている。「誰も彼を縛ることはできない。だからシド・ヴィシャスとの結婚は実らなかった」



5. スティーヴ・ジョーンズがグレン・マトロックをクビにした訳ではない。

グレン・マトロックは、1977年初めにセックス・ピストルズを離れている。ビル・グランディが司会を務めるテレビ番組に出演して、全英中にバンドの悪評が知れ渡ってから間もない頃だった。長年バンドの他のメンバーは、グレンはメインストリームの音楽の方を好んだとか、ルックスが本物のパンクロッカーらしくないとか、他のメンバーのようなストリート育ちではない、さらに「God Save The Queen」のメッセージは過激すぎると彼は思っていた、などと彼を脱退させた自分たちの決断を正当化してきた。ドラマでのグレンは、ジョンとの争いが絶えず、マルコムに対しては自分たちへの払いが少なすぎると噛み付いている。ある晩のパブで、マルコムがスティーヴに向かって、グレンをクビにするよう促す。するとスティーヴはグレンをトイレに誘い、クビを宣告する。

グレンの自伝『オレはセックス・ピストルズだった』によると、彼の脱退はそれほど突然でも予想外でもなかった。グレンは、日増しに酷くなるジョンのエゴと横柄な態度に数カ月間も悩まされ続けた。そしてオランダでのツアーが始まる1977年1月頃には、ジョンと同じステージに立つことすら嫌になっていた。「彼はただひたすら自己中心的で傲慢で怒りっぽかった」とグレンは自伝で書いている。「もう耐えられなかった。“こんなのおかしい。いい加減にして欲しい。もうたくさんだ”と思った」

英国へ戻ったグレンは、後にリッチ・キッズとなるバンドメンバーを集め出した。ピストルズがシド・ヴィシャスとリハーサルを始めたという噂を耳にしたが、気にも留めなかった。2月になってマルコムとパブで会った。彼はグレンに、ピストルズに君の居場所はほとんどなさそうだと告げる。グレンも、別に異論はないと答えた。「マルコム、俺はもうピストルズに未練はない。誰か後釜となる奴とリハーサルを始めても、俺は気にしない。もう始めたのは知っている。どうでもいいが、奴らから俺にひとことあってもよかったよな。でももういいよ……自然消滅さ。あとは好きにしてくれ」

Translated by Smokva Tokyo

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