『セックス・ピストルズ』ダニー・ボイル監督のドラマシリーズを事実検証

6. シド・ヴィシャスは『勝手にしやがれ‼︎』のレコーディングに、ベースで部分的に参加している。

ドラマ『セックス・ピストルズ』では、シド・ヴィシャスが肝炎で入院している間に、バンドはデビューアルバムのレコーディングを全て完了させたことになっている。シドに代わってベースのパートは、スティーヴ・ジョーンズが弾いている。シドは退院後に、もう自分はレコーディングに参加できないのかとスティーヴに尋ねる。「心配するな。俺が代わりに全部やっておいた。上手くいったよ」とスティーヴは答える。

当時シドは、実際に肝炎で寝込んでいることが多かった。また、ベースプレーヤーとしての技量も極端に低かった。ただし、レコーディングの完了前にシドは退院し、ウェセックス・サウンド・スタジオで「Bodies」のリハーサルに参加した。彼のプレーは本当にボロボロだったため、プロデューサーのクリス・トーマスがシドのベースの音量をミックス時に大幅に下げ、スティーヴによるベースパートを重ねた。従って理論的には、シドはレコーディングに参加したことになる(デビューアルバムのベースパートについては、ジョンが最初の自伝で“グレンを一時的に雇って弾かせた”などと書いたため、後にさまざまな説が出た。確かにグレンの復帰が検討されたものの、実現はしなかった。グレンが脱退前にベースを弾いてレコーディングが完了していたのは、楽曲「Anarchy In The UK」の1曲だけだった)。


7. ナンシー・スパンゲンとシド・ヴィシャスとの出会い方が少々異なる。

ドラマ『セックス・ピストルズ』の第5話で、1977年4月3日にナンシー・スパンゲンが、ロンドンの映画館スクリーン・オン・ザ・グリーンで行われたセックス・ピストルズのコンサートへ出かける。ナンシーはシド・ヴィシャスに一目惚れして、自分からバックステージの男子トイレへ押しかけた。そして、翌年にニューヨークのチェルシーホテルの一室で亡くなるまでの激動の関係が始まる。シドはナンシー殺人容疑で逮捕されるが、ホテルの部屋で何が起きたのかは知る由もない。

しかし実際に二人を引き合わせたのは、ジョン・ライドンだ。時期も1977年3月で、シドが初めてセックス・ピストルズのメンバーとしてステージに立った日だった。「悲惨な結末を迎えるだろうと思っていたが、まさかあんなことになろうとは」とジョンは2冊目の自伝『ジョン・ライドン新自伝 怒りはエナジー』で書いている。「俺は、シドがナンシーと一夜を共にした朝に、“うるせえババァは失せろ!”と言って追い出すと思っていた。ところがシドは、彼女のラリってボロボロなところが気に入ってしまった」



8. ナンシー・スパンゲンに薬を飲ませて米国行きの飛行機に乗せたのは、スティーヴ・ジョーンズ、クリッシー・ハインド、ポール・クックではなかった。

セックス・ピストルズの世界にナンシー・スパンゲンが加わったことで、大きな混乱が生じた。マルコム・マクラーレンは秘書のソフィー・リッチモンドと画策して、ナンシーをヒースロー空港まで連れて行き、米国行きの飛行機へ押し込もうとした。「ヒースローまでたどり着けなかった」とソフィーは、ジョン・サヴェージの著書『イングランズ・ドリーミング』の中で語っている。「ナンシーは、薬抜きで飛行機に乗るのをひどく怖がっていた。私とナンシーは道端で口論になった」

その後ソフィーは、マルコムと、ピストルズのローディーだったジョン・“ブギー”・ティベリに電話で助けを求めた。「ナンシーはマルコムとブギーの姿を見ると、走って逃げ出した」と、別のローディーのスティーヴ・“ローデント”・コノリーが『イングランズ・ドリーミング』の中で証言している。「3人は彼女を追いかけて捕まえた。俺は20mほど離れた場所にいたが、4人の怒鳴り合う声がよく聞こえた」という。計画は失敗に終わり、ナンシーはそのまま英国に居座ることとなった。

ドラマ『セックス・ピストルズ』では、スティーヴ、クリッシー、ポール・クックの3人がマルコムの指示でナンシーに薬を与え、飛行機に乗せている。ドラマの中では計画が成功し、ナンシーは一時期英国を離れることになる。しかしテムズ川の船上コンサートでセックス・ピストルズが「God Save The Queen」を演奏している時に、ナンシーが再び姿を表し、シドと涙の再開を果たす。とてもドラマチックな展開だが、史実とはかけ離れている。

From Rolling Stone US.




『セックス・ピストルズ』
© 2022 FX Productions. All rights reserved.
ディズニープラスのスターで独占配信中

Translated by Smokva Tokyo

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