フジロック×サマソニ運営対談2022 洋楽フェス復活への「試練と希望」

左からフジロック、サマーソニックのメインビジュアル(Photo by 宇宙大使☆スター / ©︎SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

2019年に本誌WEBで、フジロック/サマーソニック両陣営による対談企画が実現。ライバル企業のスタッフである2人が「これからは協力すべき時代」と頷き合い、洋楽文化に対する危機感、お互いのフェスに対するシンパシーを語ったことで大きなバズを生んだ。あれから3年。状況はすっかり様変わりしてしまったが、両者はコロナ禍の困難をどのように受け止め、洋楽フェス復活に向けてどんな思いを抱いているのか。前回に引き続き、スマッシュの宣伝/ブッキング担当・高崎亮さん、クリエイティブマン宣伝部・安藤竜平さんに話を伺った。

【前回記事】フジロック×サマソニ運営対談 フェスと洋楽文化を支える両者のリアルな本音

2021年までの成果と苦悩

―今年のラインナップが発表されたとき、洋楽フェスがついに復活するんだなと感動しましたが、ここにたどり着くまでは苦難の連続だったと思います。まずは今の率直な気持ちを聞かせてください。

高崎:コロナになってから海外アーティストを呼べない状況が続いてましたが、去年のスーパーソニック(9月18日・ 19日)で「まさか呼べるんだ!」となった。僕もお客さんとして観に行ったんです。

―「サマソニ皆勤賞」と前回も話してましたよね。

高崎:ステージを観ながら、「洋楽公演ってこんな感じだったな」っていうのを久々に思い出しましたね。それこそ僕は、いつもサマソニに行きながら「このアーティストはこれぐらいの集客だった、お客さんの反応がこうだった」という分析をしてたけど、そういう感覚を2年も忘れていたという。それまでは「どうせ呼べないし」と諦めそうになったりもしましたが、「よし、自分たちも行くぞー!」とワクワクしたのを覚えています。

そこから各省庁に働きかけ、面倒な書類を提出したりして、来日公演の実績を少しずつ作っていこうと動き出したのに、(オミクロン株の影響で)また入国停止。そのなかでギリギリ間に合ったのが、キング・クリムゾンでしたね(クリエイティブマン招聘:11月27日〜12月8日)。

安藤:あのときは入国後10日間の隔離措置が義務付けられ、ホテルとリハーサル会場、公演会場以外は移動不可(東京オリンピックと同様のバブル方式)だったので、まずはその期間に東京公演を行い、制限が終わってから名古屋・大阪を回るというスケジュールにして。ツアーが始まるまでは「本当に来るのか?」というのもあってチケットも伸び悩みましたが、「最後の来日公演」というのもあり、追加公演はソールドアウトになりました。

高崎:そんなふうに「ついに呼べる!」「また渡航できなくなった」みたいなモヤモヤ期間が続いたわけですが、その頃からウチもクリマンさんも(フジロック/サマソニに向けて)ブッキングを進めていたわけだから、なかなか痺れるものがありましたね。なんとかここまで漕ぎ着けた、というのが正直なところです。


スーパーソニック(2021年開催)のハイライト動画

安藤:スーパーソニックは当初、大阪でも開催予定でしたが、移動や隔離期間などの制限もあって中止にせざるをえなかったんです。さらに、開催前にフェスへの風当たりが強くなり、払い戻しの対応に追われたりもしましたが、海外アーティストのライブを安全に行ったという実績を作るためにも東京公演は必ずやろうと。スーパーソニックは復活への第一段階として、とにかく開催することを最優先に考えていました。

高崎:去年のフジ(8月20日〜22日)は……なんでしょうかね。四面楚歌というか。それこそあのときは、東京オリンピック(7月23日〜8月8日)の直前にコロナ感染が急拡大していたから、「こんなときに開催するのか」とSNSは大荒れで。そこで非難していた人がそのまま流れてきたのかなというくらい、フジへの批判もすごかった。その前にはARABAKI ROCK FEST.やROCK IN JAPAN FESTIVALが医師会などの要請を受けて中止となり、フェスが開催できないような状況になっていて。

ウチとしては会場内の飲酒禁止、公式アプリによる個人情報登録(感染経路追跡のため)、来場者への抗原検査キット無料送付、出演者・関係者へのPCR検査など、できることは全部やったと言えるほど感染対策を徹底しました。さらに、お客さんもみんなルールを守ってくださったのに、それでも批判は止まらなかった。みなさんは覚えているかわかりませんが、ワイドショーもなんで偏った報道をするのかな、意地悪だなと思ってましたね。

安藤:SNSは誰もが自由に好きなことを言えるから、あまり気にしすぎてもいけないし、一つの意見として受け止めるべき部分もあるというか。ただメディアに対しては……あの時期、すごく思うところはありましたよね(苦笑)。


フジロックフェスティバル ’21のライブ動画(RADWIMPS/The Birthday/電気グルーヴ)

高崎:フジロックが終わって5カ月後ぐらいに、放送するので確認してくださいとフジのドキュメンタリーが送られてきました。そこで自分のインタビューを見たら、「この人……大丈夫かな?」みたいな感じで、泣きそうな声でインタビューに答えていて(苦笑)。そこで僕が話したのは、エンタメは不要不急なものだと言われてきたけど、みんな我慢を強要されてストレスも溜まるなか、フジを通じて音楽の力を見せられたことには意義があったと思う、ということ。SNSでは批判的な意見が多かったけど、ライブ配信のコメント欄には「やっぱりフェスっていいな」みたいにポジティブな声も寄せられていて。

これは敢えて言いますけど、2021年のフジがなかったら他のフェスも開催できなかったはずで、コロナ下における雛形を作ることができたのかなと。自分ではそう思っています。

安藤:去年のJAPAN JAM(5月2日〜5月5日)はコロナ下で開催された久々のフェスということで、地元も含めてニュースでも取り上げられましたけど、僕は会場本部で電話対応しながら、もういろんなことを言われましたよ。その後も「次はこっち、次はこっち」というふうに音楽フェスが変な注目をされてきましたが、そのなかで高崎さんのおっしゃる通り、フジが対策を徹底しながら開催されたことで、そこからスーパーソニックにも繋げられたと思うんですよね。

高崎:もちろん批判されるのもわかりますし、こちらも全部正しいとは思ってなくて。どちらが正解、というのではないと思うんですよね。ウチは野外フェスというエンタメを残していきたいから、昨年は国内アーティストだけでやろうと決めて、心が引き裂かれそうな思いでずっと過ごしていました。

安藤:2020年はひたすら延期と振替。「日程どうします?」「会場費が……キャンセル代が……」みたいな感じで、非生産的というかマイナスにしかならないことをやらなきゃいけなくて、かなり参りました。だからこそ、去年はウチもそうですし、どこのプロモーターも「やらなきゃ!」という意識が本当に強かったですよね。

この状況下で開催することについて、いろんな議論がされてきましたが、音楽業界で働くものとして、僕らも生きていくために存続していかないといけない。そのために、国内アーティストの公演でもコロナ下のノウハウを積み重ねてきましたし、海外アーティストに関しても制限が緩和され、指定国以外からの入国であればワクチン3回接種で隔離が免除されるようになった。完全復活への条件はかなり揃いつつあるんですよ。

高崎:あとはコーチェラ(今年4月)のYouTube中継をご覧になった方も多いと思いますが、海外のライブでは普通に歓声が上がるんですよね。それこそ客席でダイブしていたり、みんなマスクをしていなかったり、「ここまで戻ってるんだ?」みたいな。でも、日本はまだ声を出せなくて拍手だけ。

安藤:もどかしいですよね。ただ最近は、いいライブをすると、以前よりも客席から熱量が感じられるようになってきて。だんだん雰囲気が戻ってきているのかなと。スポーツも声出し応援の再開に向かってますし、ライブも近いうちにできるようになるといいですよね。もちろん、また状況が変わるかもしれないですけど、クリマンとしてはもう後戻りしたくない。フェスをできるだけ通常に近い形で開催することで、今年の夏はポジティブな形で注目されたらいいなと思ってます。

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