フランツ・フェルディナンドが世界を制した本当の理由 メンバーが結成20年を総括

世界的成功、ダン・キャリー、スパークス
「今でもグラスゴーのバンドだという自覚がある」

―2ndアルバム『You Could Have It So Much Better』(2005年)からシングル・カットされた「Do You Want To」は日本人にとっては特別なシングルで、これがSONYのTVコマーシャルでかかりまくったおかげで、「誰でも知っている曲」になりました。子供の頃にこの曲を聴いて影響されたミュージシャンは非常に多いと思いますよ。

アレックス:日本のミュージシャンにあの曲が影響を与えてたなんて知らなかったよ。なんてクールなんだ。凄く嬉しいよ。ミュージシャンとして一番嬉しい賛辞というのは、他のミュージシャンや誰かに何らかの影響を与えたと言われること。あの曲は、グラスゴーでツアーの最終公演をやった後にパーティーに行ったことがきっかけで書いた。Transmission Galleryでのパーティーだったから、大勢の人がいて、地元の昔からの知り合いもいれば、バンドが成功してから知り合った人たちもいた。そんな、自分たちのかつての世界と新しい世界の衝突を、あの曲で描こうとしたんだと思う。レコーディングは楽しかったし、ライブでも盛り上がる曲だ。日本でプレイした時の印象もいい。特にフジロックでプレイした時に凄く盛り上がったのを覚えている。観客が熱狂して、大合唱だった。友人のダイアン・マーテルに初めて監督してもらったビデオでもある。音楽的にも、モジュレーションで変わった音を取り入れたり、新しいことを試みた曲だった。



―2ndアルバムでバンドはいよいよワールドワイドのスターになったわけですが、実際に上まで登って景色を見渡した時に、どんなことを感じました? 「やったぜ!」ですか、それとも「こんなもんか」でしょうか。

アレックス:例えるなら、山を駆け上っているんだけど、目の前のことに無我夢中だから頂上に着いたことに気づいていない感じだった。たまに後ろを振り返って、「随分高いところに来たな」って目眩がする感じかな。

ボブ:とにかく目まぐるしかった。常時ツアーに出っぱなしで、忙しかったから、立ち止まって状況を把握する余裕もなかった。自分たちのやるべきことをただやっていた。数年経って、他のバンドが同じような経験をしているのを見て、外から見るとこんな風なんだって、その凄さがわかった。渦中にいる時は、目の前のことに専念していて、ことの大きさに気づいてなかったよ。

―グラスゴーのインディ・バンドの伝統を継承したグループが、スタジアム級のビッグなバンドになるのも珍しいことだったと思います。そういう時に地元との縁を切ってしまう人もいますが、あなたはむしろ積極的に影響されたグラスゴーのミュージシャンたちについて話し、それを広めていく役目を果たしましたね。そこはかなり意識的にやっていたのでは。

アレックス:そうだね。意識的だったし、当然のことだと思ってた。今でもグラスゴーの音楽シーンは活気があって、いい音楽をたくさん輩出しているし、それを支える裏方も充実している。いろいろなライブ会場があって、Monorail Musicのようなレコード・ショップがあって、スティーヴン・パステル(パステルズ)といった人たちがいてこそのシーンだ。それに、自分たちの地元だからね。今でも自分たちはグラスゴーのバンドだという自覚がある。新しいドラマーも、当然グラスゴーで探した。「LAに行って、誰かいいドラマーを探そうぜ」というのは僕たちらしくない。自分たちはグラスゴーのバンドだから。グラスゴーはいいミュージシャンの宝庫だしね。LAよりいいミュージシャンが揃っていると思う。


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―3rdアルバム『Tonight』(2009年)からのシングル「Ulysses」も、とても刺激的な曲でした。この時期は、あなたはどんなレコードを熱心に聴いていたんでしょう?

アレックス:あの曲が生まれたのは、スコットランドの自分のスタジオにひとりでいた時で、ドラムビートをプログラミングして、あのオフビートなベースラインを最初に書いたんだ。それを土台にしてピアノで残りを書いた。あのアルバムの時は、バンドでいろんなアフリカ音楽を聴いていたな。それが演奏に一部影響していると思う。ひとつ言えるのは、ミュージシャンとして、自分のサウンドを作る上で鍵になるのが、「どんな音にしたくないか」だ。「どんな音にしたいか」と同じくらい重要だ。あのアルバム、あのシングルの場合だと……1枚目と2枚目のアルバムを出した時は、自分たち独自の音を鳴らしていた。でも、よくあることで、何かオリジナリティーがあるものが出ると、それが周りに影響を与えて、しばらくすると、同じサウンドを出してもオリジナリティーが感じられなくなる。なぜなら、同じようなことをやっている人たちが出てきているから。だから、3枚目の時は、最初の2作とは違うサウンドを追求した。新しいサウンドを求めてね。「Ulysses」では、そんなことを歌っている。ツアーに出っぱなしで、家に帰れない、かつての自分の生活には戻れない、新しい道を切り開くんだってね。



―3rdアルバムでのダン・キャリーとの作業から、かなり刺激を受けたようですね。ダン・キャリーはその後、自身のレーベルであるスピーディー・ワンダーグラウンドを立ち上げ、あなたも同レーベルのリリース作に参加しています。彼の近年の活躍や手がけたプロデュース作についてはどのように見ていますか?

アレックス:ダンはいい趣味をしていると思う。彼がスピーディー・ワンダーグラウンドでやっていることは大好きだよ。シネイド・オブライエンもそう。彼女の作品も凄くクールだ。実は最近ダンと会ったばかりなんだ。親しくしているロッテルダム出身のバンドでLewsbergというのがいて、凄くいいバンドなんだけど、あまり知られていない。彼らがこっちに来て、クリスマス前にやったライブを見に行ったら、客席にダン・キャリーが見に来ていた。何で来てるのかと思ったら、彼らのレコードをスピーディー・ワンダーグラウンドから出す予定だって。「だよね!」と思ったよ。本当にいいバンドだから、当然ダンは誰よりも早く目をつけてるだろう。

面白いことに、今思うとスピーディー・ワンダーグラウンドの哲学は、『Tonight』を作ったのがある意味きっかけだったんじゃないかな。なぜなら、当時ダンは、長尺のテイクをひたすら録る手法をとっていて、結果的に自己陶酔的な作品になった。それがやっていて正直もどかしかった。いちいち時間をかけるから作業のペースが遅くてね。きっと、その反動で彼も「これからは短時間で集中的に録るぞ」って決めたんじゃないかな。そっちの方が賢いやり方だと思う。




―その後、スパークスとの合体プロジェクト、FFSをやってみたことで、どんな収穫が? あなたにとって、彼らとのコラボからどんな学びがあったのでしょう。

アレックス:あれはあれで楽しかったよ。あれも、とんとん拍子で物事が進んで、あっという間にできた。ジョン・コングルトンとレコーディングをしたんだけど、どれくらいスタジオにいたんだったっけ、ボブ?

ボブ:確か2週間だったと思う。その前に1週間のリハーサルをやってね。

アレックス:で、おそらくスパークスにとっては、ああいう形でのレコーディングは久しぶりだったんじゃないかな。それまで何年もラッセルのリビングでMIDIを使って制作していたわけだからね。あれだけ、その場の思いつきで次々と録っていくことで、彼らの良さも僕たちの良さも存分に引き出せたと思う。あれは、僕たちにとっても、オリジナル・ラインナップで最後にやったレコーディングだった。あのラインナップでの最高の演奏ができたと思う。



―FFS以降、スパークスのUK他でのセールスが明らかに上向き、レオス・カラックス監督と組んだ『アネット』まで良い流れを作りましたよね。その『アネット』に出演しているマリオン・コティヤールとはスパークスより先にフランツがDior用のシングル「The Eyes Of Mars」で共演していますが、もしかしてあなたがスパークスにマリオンを紹介したのですか?

アレックス:違うんだ、たまたま続いたんだよ。あのビデオに彼女が出てくれて良かった。仕事も凄くしやすかったし、シンガーとしても素晴らしくて、人柄もよかった。あのセッションのことはよく覚えてるよ。ニューヨークでの撮影だったんだけど、酷い吹雪だった。

―ちなみに、『アネット』はもう観ましたか?

アレックス:僕はまだ観てないんだ。ボブは?

ボブ:僕もまだで、観ようと思ってる。予告を観たけど、凄く良さそうだよ。レビューも凄くいいみたいだし。

Translated by Yuriko Banno

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