カーカスが語るデスメタルの真髄、「リヴァプールの残虐王」が歩んだ35年の物語

ニューアルバムで辿り着いた「成熟」

歌詞の面では、ウォーカーはテーマに対する視野を広げながらも、カーカスの歴史を受け入れる方法を見つけた。所々で「カーカス神話」と彼が呼ぶ要素を次のように説明する。アルバムのタイトル『Torn Arteries』は、オーウェンが80年代に始めた宅録ワンマンプロジェクトに由来するもの。「Flesh Ripping Sonic Torment Limited」はカーカスの最初のデモを召喚しているし、「Wake Up and Smell the Carcass」は1996年のレアなコンピレーション・アルバムのタイトルを拝借したものだ。

その一方で、最新作の楽曲における歌詞の多くは、ケガや切り口の状況を記録するスタイルから、より隠喩的なものへと派生している。「Dance of Ixtab (Psychopomp and Circumstance March No. 1 in B)」(邦題:イシュタムの舞)はここで初めて登場するタイトルだが、首吊り自殺を司るマヤの女神(訳注:イシュタム)から名付けられており、リフは言葉遊びの「ハングマン」と絞首台ユーモアがモチーフだ。「In God We Trust」は環境破壊についての曲(“地球が叫び声をあげながら死んでいく/そして血が出てくる……”)。さらに、時の翁と父親にまつわる問題を見事に捉えた「The Scythe’s Remorseless Swing」(邦題:揺れる死神の鎌)を含む多くの曲で、年齢を重ねることの非情さを表現している。

「あの曲は俺がこの年になったおかげで生まれたんだ」とウォーカーが「The Scythe’s〜」について語る。「つまり、このアルバムをレコーディングし始めた時、俺は49歳で、今は52歳だ。年を取ると時間の経過が早くなるし、距離が短くなるし、地球が小さくなる。それって本当に馬鹿げている」。



このアルバムのカバーアートは、白い背景の真ん中に野菜で作られた心臓があるだけだ。カーカスがあからさまなゴア的表現を少なくして、もっと示唆に富んだ表現方法に移ってきたことを表している。ウォーカーはこの心臓と似たかたちの小さな彫刻を以前に見ており、そこからアイデアを得た。その彫刻はカナダの病院で行われたコンテストのために作られたもので、ポーランド人アーティストZbigniew Bielakによる作品だった。「野菜で作られているから、人々は『彼らは血まみれの菜食主義の聖戦デモしているのね』とうめき声を挙げていたよ。でも俺がこの彫刻で気に入っているのは、俺たちはこれまで死体のコラージュばかりしてきただろう? 今回のようにシンボリックなのがナイスなんだ」とウォーカー。

そう言ってから少し無言になり、生真面目な口調で「もしかしたら、ウィーンと彼らのアルバム『White Pepper』に対するオマージュかも。俺がハイになると必ず聴く一枚だからさ」と続けた。



カーカス結成から約35年が経過して、ウォーカーとスティアーの二人は、鼓膜や眼球、常識的配慮という概念をも攻撃するという初期のミッションを除外したことに満足しているようだ。そして、あとはコアグラインドの看板を牽引する何百もの若手バンドに任せると言う。「今はエクストリームな音楽をやっているバンドが本当に多い。求めるものがカーカスのアルバムになかったら、他で簡単に見つかるはずだ」とスティアー。

カーカスが『Torn Arteries』にたどり着くまでの数十年の進化の過程と、予期せず歩むことになったバンドとしてのキャリアを考えた時、ウォーカーの受け答えは謙虚で、メタルにおけるエクストリームの基準を何度も押し上げてきた男とは思えないほどチャーミングで控えめだ。現時点で彼が最も興味をかきたてられるのが古典的なソングクラフトにあることは明白だろう。あるいは、カーカスが奏でてきた「病気のシンフォニー」が、耳にこびりついて離れないデスメタルという方向性を示したとも言える。

「俺たちの場合、AからBに進むみたいな簡単な進行の曲は作っていないが、必ず途中にフックを入れるようにしているし、記憶に残る何かや、聴いた人が喜ぶ何かを入れるようにしている」と、ウォーカーが最新作について説明する。「みんなに聴いてもらいたいし、一度聴いたら繰り返し聴いてもらいたい。このレコードにはずっと聴くことのできる価値があるからね」と。

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From Rolling Stone US.

Translated by Miki Nakayama

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