カーカスが語るデスメタルの真髄、「リヴァプールの残虐王」が歩んだ35年の物語

「何をやってもカーカスになる」

2007年の再結成以来、カーカスは興味深いもう一つの時間軸を探求してきた。80〜90年代の楽曲を演奏するツアーを2年半行ったあとでリリースされたアルバム『Surgical Steel』では、『Reek〜』と『Symphonies〜』時代の首が折れるほどのスピードと不安定なデュアル・ヴォーカルを復活させ、『Heatwork』時代の成功の輝きもしっかりと入れ込んだ(1999年に脳内出血でプレイできなくなったオーウェンの後釜ドラマー、ダニエル・ワイルディングはこのアルバムが初参加作となった。ちなみにウィルディングは『Symphonies〜』が出た1989年生まれ)。

ニューアルバム『Torn Arteries』は自信満々で、カーカスという音楽パレットの上を縦横無尽に動き回っており、そこに最新の要素を入れ込んでいる。手に汗握るスラッシュ・ミーツ・デスメタル的獰猛さを歌ったタイトルトラック(邦題:ド・ク・ド・ク動脈)や、レフトフィールドな展開を見せる「Under the Scalpel Blade」(邦題:鬼メスの刃)に加えて、このアルバムの中心を担う「Flesh Ripping Sonic Torment Limited」(邦題:人肉引き裂き音速拷問、制限あり)は雰囲気のあるアコースティックなイントロで始まり、パワーバラッドのようなスティアーのソロがフィーチャーされた、ゆったりした魅力的な10分強の長尺曲となっている。「Wake Up and Smell the Carcass / Caveat Emptor」(邦題:めざましカーカス)は意図的にスウィングする、意味ありげなメインリフが核となって構築されている。「In God We Trust」(邦題:神を信じる)はハンドクラップが印象的で、すぐにでもラジオで流せる軽快なブリッジが特徴的だ。



「前作そっくりのアルバムを作るなんて選択肢は絶対になかった」とスティアーは語る。「このグループでは常にそうならないようにする傾向があったんだ。新しくてフレッシュな楽曲を作り出すのがとても重要だと感じていたし、カーカスの音楽をずっと見ていると、ジェフと俺が関わって、ダンのドラミングのアプローチが加わると、何をやってもカーカスになるって俺は思うから。それは要するに、カーカスのスタイルに不可欠な要素を入れようなんて神経質になる必要がないってことだ」。

そして、彼はこう付け加えた。「俺個人としては理想を言うなら、それまでのカーカスの楽曲では聞いたことのない要素が必ず入っているようにしたかったね」。

その好例はこんなところに見られる。70年代ロックの大ファンであるスティアーは、カーカスの休眠中にレトロスタイルのパワートリオ「ファイヤーバード 」を結成した。スティアーは『Torn Arteries』収録のアンセム「The Devil Rides Out」(邦題:悪魔よ、去れ!)における勢いの良いミドルテンポのリズムは、1975年のラジオで大流行したナザレスの「Hair to the Dog」に対する憧れから生まれたと言う。

皮肉なことに、現時点でのカーカスにとって、エクストリームのその先を極めることこそ最も魅力のないチャレンジとなっている。「ブラストビート以外に何もなくて、すべてが無調で、安全圏内に留まる楽曲だけのレコードを出すなんて恥ずべきことだと思うよ」と、スティアーは述べる。

Translated by Miki Nakayama

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