カオスなのに一本筋が通ったアルバムR&Bの影響が加わったことで、NBTが持つポップ・ミュージックとしての訴求力は、さらに増したと言えるだろう。しかし、決してわかりやすくなったとは思わない。むしろ、彼らの音楽性を構成する要素が増えた分、よりカオスになったと言えるかもしれない。
「プロディジーにも近い、エレクトロなダンス・チューンになっているよね」とドムが言う1曲目の「アンパーソン」やヘヴィなギター・リフとラップ風のヴォーカルがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを彷彿させる「キャン・ユー・アフォード・トゥ・ビー・アン・インディヴィジュアル?」というR&Bとはまた違う新境地を印象づける曲もあれば、コナーがファルセットで歌い上げる「インポッシブル」のようなエモーショナルなバラードもある。
「いろいろなジャンルの影響を十分に引っ張ってくると同時に、あまりとっちらかりすぎていない、一本筋が通っているアルバムになったと思いたいね」と語るドムには一本筋が通っているという自信があるのだろう。
その一本筋とは何か? それはドムの、この言葉が語っている。
「このアルバムは音的には『ブロークン・マシーン』から自然に発展したものだと思う。アイディアをさらに推し進めた感じかな。今回の方がもう少しエクスペリメンタルではあるけどね。曲がしっかりしていると思う。アコースティック・ギターやピアノで弾いてもしっくりくるようなものを作ったんだ。1つ1つの曲を、時間をかけて作って、メロディと歌詞をできるだけ力強いものにした」(ドム)
プロデューサーとして、前作に引き続きアークティック・モンキーズ、THE 1975などを手掛けてきたマイク・クロッシーが参加しているが、前回、手取り足取り、バンドを導いてきたマイクは今回、バンドが作ってきてデモを聴き、手を加える必要はないと思ったそうだ。
「マイクは自分でも言っていたけど、バンドにマイクを差し向けて――つまり、バンドとしてあるべき音を拾うだけみたいな意味の役割を担っていた。僕たちはすでに自分たちの音を作りつつあって、それを彼が増幅してくれたという感じかな(笑)。僕たちのやりたいようにやらせてくれたよ。それが本当によかった」
コナーが語るバンドとマイクの関係の変化からもバンドの成長が窺えるが、彼らが『モラル・パニック』で挑んだサウンド・アプローーチは今後、何年間か、UKロックの1つのロールモデルとして、UKだけにとどまらないところに波及していきそうだ。
※文中のコナーとドムの発言はオフィシャル・インタビューからの引用
ナッシング・バット・シーヴス
『モラル・パニック』
2020年10月28日(水)発売
日本盤のみボーナストラック2曲収録
歌詞・対訳・解説付き
購入・配信曲試聴リンク:
https://lnk.to/NBT_MoralPanic配信ライブ
「ライヴ・フロム・ザ・ウェアハウス」
日本時間10月28日(水)午後8時
チケット(英語サイトで「Show 1 - Aus & Oceania & Asia」を選択):
https://shops.ticketmasterpartners.com/nothing-but-thieves-live-stream