『カセットテープ・ダイアリーズ』監督が語るスプリングスティーンの衝撃、閉塞感を打ち破るアートの力

監督とブルース・スプリングスティーンの出会い

─あなたは1978年に行なわれた「ロック・アゲインスト・レイシズム」のデモとコンサートに行った経験もあるそうですが、それ以前には、どういった音楽を聴いて育ったのですか?

グリンダ・チャーダ:幅広く色々な音楽が好きだったわ。タムラ・モータウンのようなソウル・ミュージックが大好きだったけど、ロックも大好きだった。ザ・クラッシュの登場には衝撃を受けたわね。「ハマースミス宮殿の白人」は、生涯で最も好きな曲のひとつよ。当時はラジオをよく聞いていた。みんなそうだったの。もっと若い頃は、カセットテープを使って自分でDJの真似事をしていた。アメリカ訛りでしゃべりながら、ラジオからテープに録音した曲を聴き返していたわ(笑)。オールティーズの曲で、よくそんなことをしていたのよ。ジーン・ピットニーの「サムシングズ・ゴットゥン・ホールド・オブ・マイ・ハート」とか、よく覚えているわ。

─ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会ったのは、いつ頃だったのでしょうか?

チャーダ:どうだったかしら。1981年の「ザ・リヴァー・ツアー」を観に行ったのを覚えているわ。その時は、大ファンというわけではなかった。でも彼のライヴを初めて観て、衝撃を受けたのよ。完全にやられた、という感じだった。「これは凄い!」って。ウェンブリー・アリーナのスタンド席で友達と観ていたんだけど、ファンでなくても、あのステージを観たら間違いなくファンになってしまう。ステージでの存在感がとにかく凄くて、素晴らしい!!の一言に尽きたわ。


『カセットテープ・ダイアリーズ』劇中にも登場する「涙のサンダーロード」、1981年のウェンブリー・アリーナで録音されたライヴ音源

─以来、ブルースの大ファンになったわけですが、今回、映画の中にブルースの曲をたくさん使用しています。どの曲をどのシーンにあてるか、悩むようなことはなかったですか? 脚本の段階から、ここにはこの曲、とある程度決めていたのでしょうか?

チャーダ:どちらもあったわ。曲の使い方に関しては慎重にならなくちゃいけなかった。ブルースは、脚本を気に入ってくれて、私に「自由になんでも使っていい」と言ってくれたけど、ジャベドの物語に沿う形でしか曲は使わないというルールを自分で作ったのよ。ジャベドの物語を進めてくれるもので、筋書きとも合っているのなら使うけど、そうでなければ使わなかった。かなり規律を重んじる形で取り組んだわ。それでも結果的に全部で19曲も使ったわけだからね。うまくいったということじゃないかしら。

─その19曲の中で、特に気に入っている曲とシーンのマッチングは?

チャーダ:それなら絶対に嵐のシーンの「プロミスト・ランド」だわ。ジャベドが初めてブルース・スプリングスティーンの歌を耳にする時、自分のベッドルームで「ダンシン・イン・ザ・ダーク」がかかり、歌詞がスクリーンに映し出される……、そこから「プロミスト・ランド」につながるところはすごくよかったと思う」


グリンダ・チャーダ監督とブルース・スプリングスティーン(©Bend It Films)

─確かにあのシーンは、ジャベドの興奮と音楽がマッチして、とても印象的でした。そして、本作のタイトルを、数あるスプリングスティーンの曲の中から「光で目もくらみ/Blinded By The Light(原題)」にした理由も教えていただけますか?

チャーダ:「明日なき暴走/Born To Run(原題)」が使えたらよかったんだけど、ブルース自身の自伝著書も『Born To Run/ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝(邦題)』というタイトルだったから、残念ながらあきらめるしかなかったの。結果、『Blinded By The Light』にしたわけだけど、“blinded”という言葉は、目の前にあるものが見えていないジャベドをうまく言い当てているとも思えてタイトルに選んだのよ。ブルースは、基本的に私たちにやりたいよう好きにやらせてくれたわ。要所要所で大丈夫かどうか彼に確認しながら進めたけど、判断や決断を下すのはすべて私たちだった。私たちサイドのみんながこのタイトルを気に入ったの。 「何が起きているのか完全に把握できていない」という危うさもあっていいと思ったの。

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