ノエル・ギャラガーのEP三部作に見る、ダンスビートへの接近とデヴィッド・ボウイの影

ノエル・ギャラガー(Photo by Mitch Ikeda)


ハシエンダでの衝撃とデヴィッド・ボウイ

ベースで曲を作る経験は、『ディス・イズ・ザ・プレイス』EPにも刻まれている。この表題曲のムーディに蠢くベース・ラインやシンセ・サウンドが思い出させるのは、アシッド・ハウスの音だ。あたかも、ノエルのハシエンダでの若き日の衝撃と体験を、現代にアップデートしたかのような曲である。そして聴きながら思い出すのが、ノエルが他のミュージシャンの作品でメイン・ヴォーカルとして歌声を披露していたのが、ケミカル・ブラザーズの「セッティング・サン」(97年)と「レット・フォーエヴァー・ビー」(99年)のみだったという事実だ。

もちろんこの2曲と「ディス・イズ・ザ・プレイス」とはBPMも違うし、ケミカル・ブラザーズ曲でのノエルの声はもっとマッドチェスター的な揺らぎを重視してミックスされていた。だが、アシッド・ハウス〜マッドチェスターを経由したダンス・ミュージックとノエルの声との相性の良さは、そのまま、彼自身が紡いだこの「ディス・イズ・ザ・プレイス」でも体験することができる。この曲を聴いていると、自分の体内にある気持ちいいベース・サウンドの記憶と、自分の声をごく自然にミックスしたらこの曲が生まれた、というような無作為のソングライティングを、ノエル自身が楽しむ姿まで浮かんでくる。



そして最新作の『ブルー・ムーン・ライジング』EPの表題曲は、今の彼のそういった志向をさらにミニマルなビートと歌声に映しつつ、曲の展開やメロディーからは完膚無きまでのドラマチックな光景が浮かび上がる。とはいえこのドラマチックさは、オアシス時代のそれとも、これまでのハイ・フライング・バーズとも違う。ドラマチックに転換してからのこの浮遊感たっぷりのシンセのサウンドは、この三部作の彼ならではの80年代を思わせる音だ。なんでもこの曲は、一昨年11月に「ブラック・スター・ダンシング」と同じタイミングで、英ロンドンのアビー・ロード・スタジオで生まれた曲だそう。今の自分が興味を持てる音に挑戦し始めたタイミングで、これまでの彼のイメージとは異なる曲をこうやって次々と産み落としていったという事実に、ノエルのソングライターとしての底力はもとより、いかに彼が熱心な音楽ファンとして当時の音楽を体に染み込ませていたかを感じずにはいられない。



それにしても、すでに多大な成功も名声も手にし、使いきれないお金があり(例えばオアシス曲が一晩に世界中で何回カラオケで歌われるか想像すると、その規模感がわかるだろう)、類まれなる笑いのセンスも幅広い世代から愛されている彼が、今なお挑戦し変わろうとし続ける姿勢には、改めて頭が下がる。そして思い出すのは、時には批判され酷評されても、生涯において立ち止まることなく自らに変わり続けることを課していた、デヴィッド・ボウイのことだ。もしかしたら、この三部作の一作目にデヴィッド・ボウイをそのまま彷彿させるタイトルをつけたあたりには、ノエルのそんな静かな覚悟も反映されているのだろうか。ノエルはそれくらいロマンティックなところがあることを考えると、この先のノエルがどう挑戦しどんな曲を作っていくかもまた、楽しみになってくる。

ベースを手に、自らの内側に蓄積してきた80年代UKのビートやサウンドを肩に力を入れることなく解放してみせたこの三部作。表題曲だけでも新機軸が窺えるが、ぜひカップリングにも、じっくり耳を傾けてみてほしい。ここではあえて各曲には触れなかったが、どれも例外なく、狂おしいほどの曲にもかかわらず、さらっと収録されている。この「さらっと」というあたりも含めて、これこそが、ノエル・ギャラガーの充実した現在地点だ。




ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ
『Blue Moon Rising EP | ブルー・ムーン・ライジングEP』
2020年3月6日(金)配信&輸入アナログ盤限定リリース
https://lnk.to/NoelBlueMoonRisingEP

輸入アナログ盤(ゴールド)
https://lnk.to/NGHFB2020VinylGold

輸入アナログ盤(ブラック)
https://lnk.to/NGHFB2020EPVinylBlack

日本公式サイト:
http://www.sonymusic.co.jp/noel

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