あの世からのライブ、新たな業態ホログラムツアーに湧く音楽業界

バディ・ホリーの遺産を管理するSandhaus Entertainment社のフィル・サンドハウス氏は、ホログラム市場に乗り出した当初は懐疑的だったと言う。だが今では「無視することなどできない」と言う。「バディ・ホリーの生演奏を見たことのある人はごくわずかです」と同氏は言う。「ですが、我々は素晴らしいエンターテインメント体験を作ろうとしているのです」

だが、この手の体験は留まるところを知らない。この先の将来の展望と比べれば、現在行われているツアーはほんの序の口だ。ホログラム以外でも、サウンドガーデンは最近、コンサート映像を「生の」サラウンドサウンドとミックスするという“コンサート体験”なるものを試験的に始めた。クイーンも「ラブ・オブ・マイ・ライフ」の演奏では、フレディ・マーキュリーの映像をブライアン・メイの隣に重ね合わせるという演出をもう何年も続けている。デヴィッド・ボウイやピンク・フロイドといったアーティストも近年、お宝コレクションを活用したオリジナル巡回展を行っている。



だがホログラムは他にはない成長チャンスを秘めている。ホログラムショウの成果を目の当たりにしたEyellusion社、Base社の重役らは、まだまだ成長の余地があると考えている。Base社は現在、ホイットニー・ヒューストンのホログラムにシンガー、ダンサー、ミュージシャン18人を従えた大規模なツアーを計画している。また、ミュージアム向けの恐竜ショウや、歴史的人物をテーマにした作品なども進行中だ。Eyellusion社もコンサートの演出方法の拡大を検討している。ペズティ氏の夢は、様々な衣装をまとって登場するデヴィッド・ボウイのコンサートだ。また、ホログラムコンサートを別の国に“ストリーミング”する可能性も探っている。両社とも、ツアーの収容人数拡大をねらう現代のアーティストの代理人と交渉を進めている最中だ。「可能性は無限大です」とペズティ氏。

「これが常識を超えてほしいですね」というのは、アーメット・ザッパ氏。Eyellusion社のエグゼクティヴ・ヴァイス・プレジデントでグローバルビジネス展開を担当している。「今後、他のアーティストたちがこの世を去っていきます。今後もこうしためくるめく体験を提供してゆこうと思うならば、人々を魅了し、音楽を後世に残していくにはテクノロジーがカギとなるでしょう」

もちろん、誰もかれもがホログラムを歓迎しているわけではない。音楽ジャーナリストのサイモン・レイノルズ氏は、この手のツアーを「幽霊の奴隷化」と呼んでいるし、ディオンヌ・ワーウィックはホイットニー・ヒューストンのホログラムツアーを「ばかばかしい」と一蹴している。エイミー・ワインハウスの元夫も、来る亡き歌姫のツアーを「子供だましのお遊び」と称している。

ジム・モリソンやジャニス・ジョップリン、ジョン・リー・フーカー、ラモーンズの遺産を管理するジェフ・ジャンポル氏も同様に、あまりそそられていない。彼は昨年オービソンのホログラムツアーを見に行ったが、オービソンの遺産管理人が賭けに出たことを称賛しつつも、音楽は素晴らしかったが会場は見るからに空席が目立ち、オービソンの亡霊はおもったよりも動きが少なかった、と言った。「生の人間がいる中で、ステージの中央には真っ黒の穴があって、そこに映像が投影されている」と同氏。「疑念を振り払うことができませんでした。映画を見ている感じなんです。映画を見たいなら、10ドル払って映画館に行きますよ。でなきゃ家にいます」

ジャンポル氏はトゥパック・シャクールのホログラムがコーチェラでお披露目された際、彼の遺産を管理していた。だが彼は、この手のイベントではペッパーズ・ゴースト以上のものを見たいと言う。「ジム・モリソンが自分のところに歩み寄ってきて、じっと目を見つめながら歌ってくれて、くるりと回って立ち去っていく。それを他の人が360°全方向から見られるようなものが出てほしいですね」と彼は言う。「それならきっと面白いでしょう。でも、クオリティもお粗末な映像を、19世紀の技術でプロジェクトシートの上に投影するなんてのは何度も見飽きています。もう十分ですよ」

もちろん、誰もが彼と同意見ではない。中にはホログラムツアーに何度も通うファンもいる。ジャミン・ジョニーと名乗る男性はザッパのコンサート以外にも、過去に2回ホログラムツアーに行ったことがあるそうだ。「素晴らしかったですよ」と彼は言う。「コンサートなんですけど、コンサート以上なんです。唯一の欠点と言えば、1音1句同じだということでしょうね。本物のフランクなら、同じソロを2回演奏することはなかったはず。それでも素晴らしいですよ。もしフランクの大ファンなら、泣いて喜ぶと思います」


Translated by Akiko Kato

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