ストリーミングの勝者たるスーパースターたちを襲う、大いなる変化の波

ゆっくりではあるが確実に、ストリーミングというビジネスモデルがより公平なものへと変化しつつある

その回答を導き出すべく、筆者はBuzzAngle/Alphaによる統計をもとに、過去3年間のアメリカにおけるストリーミング市場(注::ミュージック・ビデオは対象としていない)の上位5曲、10曲、25曲の合計再生回数を年ごとに算出した。(気になっている方のためにアメリカにおける最多再生回数を誇ったアーティストを述べておくと、2016年はドレイク、2017年もドレイク、そして2018年もドレイクだった)

この計算によって、SpotifyやApple Music等のプラットフォーム全体に対する大物アーティストたちのシェアが判明すると同時に、各年の上位500曲のシェアの著しい低下との関連性が見えてくる。

まず最初に、アメリカ国内のストリーミング市場上位5曲、10曲、25曲の合計再生回数を年ごとに算出した以下の図を参照してほしい。

図: アメリカのストリーミングプラットフォームにおけるスーパースターたちの合計再生回数(単位は100万)


見ての通り、3つのカテゴリーすべてが年ごとにその数字を順調に伸ばしている。2018年における上位5アーティストの総再生回数(223億回)は、2016年の数字(129億回)のほぼ2倍となっている。

しかし、アメリカにおけるストリーミング市場全体に対する彼らのシェアは、実のところ減少している。

図: アメリカでのストリーミング総再生回数に対するスーパースターたちのシェア


上位25アーティストのカテゴリーに注目してみよう。2016年における上位25アーティストの総再生回数は全体の12.8パーセントだったのに対し、2018年は11パーセントとなっている。

2年間で1.8パーセント減少という結果は注目に値しないと思われるかもしれないが、2018年度のアメリカでのストリーミング総再生回数(5346億回)の1.8パーセントは、実に96億回に上る。事実上、上位25アーティストはその膨大な数字をランク外のアーティストたちに奪われた形だ。

かなり大まかな数字だが、この96億回という再生回数がアーティストおよびレーベルにもたらす印税収入は、約3800万ドルに上ると考えられる。

こういった傾向と、古い楽曲よりも新しいアーティストたちがストリーミング市場におけるシェアを伸ばしている事実を考慮に入れると、世界中の音楽業界で大きな変化が起きていることがわかる。それはストリーミングの勝者たるトップアーティストたちが持つ何百万ドルという予算とは無縁の、「ミドルティア」と呼ばれる新人アーティストたちが市場におけるシェアを伸ばしつつあるということだ。言い換えれば、ゆっくりではあるが確実に、ストリーミングというビジネスモデルがより公平なものへと変化しつつあるということだ。それはトップアーティストたちが毎年手にする巨大な富がより公平に分配され、より多くのアーティストが音楽で生計を立てられるようになることを意味している。

こういったミドルティアのアーティストたちの躍進を支える企業のひとつがKobaltであり、同社が所有するAWALはいわゆるレーベル業務(制作費や宣伝費の確保等)を請け負いつつも、楽曲の著作権はアーティストに100パーセント帰属する。ニューヨークに拠点を置くKobaltのCEOを務めるWillard Ahdritzは筆者の取材に対し、2018年には世界中で約2万のアングロアメリカン系アーティストたちの楽曲が何十万ドルという利益を生み出したと語った。先述の傾向を追い風とするKobaltは、向こう5〜10年間で契約アーティストの数が3倍、つまり6万以上になると予想している。

ストリーミングの隆盛に後押しされる形で、同社は今後ミドルティアのアーティストたちがスーパースターたちやロアーティアのアーティストよりも遥かに早いペースで利益を伸ばしていくだろうと予想している。「我々の目標は、毎年10万以上のアーティストが多額の著作権印税を受け取る状況を生み出すことです」Ahdritz氏は力強くそう語った。

また興味深いのは、同様のコンセプトを掲げているのはAWALだけではないということだ。これまでに1200万ドルの資金集めに成功しているロサンゼルスに拠点を置くディストリビューターStemは、同社の契約アーティストがSpotifyやApple Music、Pandora等に楽曲をアップロードできるツールを今月廃止し、多くのアマチュアアーティストたちの怒りを買った。

その代わりにStemがローンチした「Stem Direct」というサービスは、AWALのビジネスモデルと共通する点が少なくない。同社は何万人というDIYアーティストたちをシステムから締め出しつつ、今後大きな成功を収める可能性があるVIPアクトの数を増やすことにフォーカスする。これらが示唆しているのは、ストリーミング市場において今後成長が期待されるのは「ミドルクラス」のアーティストたちだということだ。彼らの躍進はおそらく、世界のトップスターたちが手にする富の減少につながるだろう。

・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。

Translated by Akiko Kato

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