チャーリー・ブリスが語るポップの真髄「惨めな体験をしても自分を信じること」

―前作『Guppy』はパワーポップの要素を強く感じるアルバムでした。

エヴァ:アルバムを完成させるのにはすごく時間がかかったの。レコーディングは2回する羽目になったし、リリースしてくれるレーベルを探すのも大変だった(最終的にデス・キャブ・フォー・キューティーなどが所属するBarsukからリリース)。ようやく出来上がったときにはホッとしたのと同時に、 いろんなもどかしさに苛立っていた自分も認めざるをえなかった。でも時間を置いてみると、バンドとしてどういう存在でありたいのか理解させてくれた作品として、すごく誇らしく思えてきたの。「私たちはポップなバンドなんだ!」って。どれだけヘヴィなギターやシンセを通じてコミュニケーションをとっていても、私達の音楽の基本は楽しさにあるの。キャッチーなメロディーにカタルシスのあるアレンジ。『Guppy』を作るのに苦労しなかったら『Young Enough』みたいなアルバムを作ることは絶対にできなかったと思う。


『Guppy』収録曲「Westermarck」

―『Guppy』を聴いて真っ先に連想したのは『プッシーキャッツ(原題:Josie And The Pussycats)』のサウンドトラックでした。実際にあなたにとっても、この映画の影響は大きいらしいですね。

エヴァ:わあ、それは本当にうれしい! メンバーみんな『プッシーキャッツ』が大好きなの。私は小学校から帰ると毎日繰り返し見ていたくらいで、自分たちの音楽にも大きく影響してる。サントラはもう本当に素晴らしくて! ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーが楽曲のいくつかに関わっていたり、Letters to Cleoのケイ・ハンリーも楽曲提供していて、彼女の歌う曲が最高なの。

―映画からインスピレーションを得ることも多い?

エヴァ:ここまで自分たちの音楽に直接的に影響している映画はほかに思い浮かばないけど、『Young Enough』のアートワークは『パリ、テキサス』と『三人の女』『地獄の逃避行』の画からインスピレーションをもらった。


チャーリー・ブリスの4人がコスプレしながら『プッシーキャッツ』の曲をプレイした時の動画。



―その『Young Enough』ではエレクトロニック・サウンドが大胆に導入され、前作より曲調のバリエーションが大きく広がった印象です。この変化はどうやって訪れたのでしょうか?

エヴァ:同じレコードを繰り返すことはしたくなかったから、意識して違うことにチャレンジしたの。『Guppy』という作品も大切に思ってるけど、新しい楽器やアレンジのスタイルを取り入れたかった。まず、私たちはポップ・ミュージックが大好き。メンバーが共通して好きなジャンルだというのもあるけど、『Young Enough』の制作中に発表されたたくさんのアーティストの「ポップ」に本当に刺激をもらった。特にロードやテイラー・スウィフト、スーパーオーガニズム、それからブリーチャーズやロビンの作品は、今まで聴いたなかでも特にユニークでクリエイティブな音楽だと感じたから、私達もそんな彼らと同じフィールドに出て行きたくて。自分たちの感性や直感が世界にどうやって伝わるのか試してみたかった。制作中に一番影響を受けたのはロードの『Melodrama』。本当に美しく煌めいていて、胸が張り裂けるような強く心を打つ作品で、『Young Enough』を導く光になってくれたの。



―『Young Enough』でサウンドを変化させるにあたって、作曲、歌い方や演奏の面で新しいアプローチを取り入れたりもしましたか?

エヴァ:新しいアルバムへのアプローチはすべて作曲から始まったの。それまで私達はそれぞれ日中仕事をしたり、学生だったりしたんだけど、このアルバムをきっかけにそれらを辞めて制作に集中することに決めた。だからより多くの曲を作って、全員が完璧だと思えるまで書き直したり、アレンジを変えたりすることができた。私個人としては、ギターでなくシンセを使って曲づくりすることに挑戦していたの。今までにない試みだったし、違う楽器を使ってみることで思い浮かぶメロディにどのような変化があるのかが気になったし、それが重要に思えてきて。

それからプロデューサーにジョー・チッカレリ(※)を迎えられたことも大きかった。彼はレコーディングの1カ月前にニューヨークまで来てくれて、まず書きためた楽曲をすべて一緒に見直してくれて。すべての曲を彼の前で何回も繰り返し演奏して、たくさんのフィードバックをもらった。そのおかげでひとつのパターンに収まってしまうことなく、新しいアイデアやチャレンジに対して道を拓くことができたの。

※70年代から活躍しているアメリカの音楽プロデューサー/ミキシング・エンジニア。これまで携わってきたのは手掛けてきたのはU2、ベック、ビョーク、ホワイト・ストライプス、ストロークス、ザ・シンズ、モリッシーなど。

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