拡大続ける音楽フェス事業、進化の鍵はデータ収集と顧客分析による「カスタマイズ」

プロジェクトをまとめるのは至難の業だった。コンサートチケットや関連グッズの購入履歴は顧客データの宝庫だったが、どれも複数の販売業者の手元に散乱している状態だった。オンライン・チケット販売業者のもとにはコンサートチケットの購入履歴がすべて蓄積されているが、各会場での消費動向とは連動していない、といった具合。つまり、ケイン氏率いるチームは、ITパートナーの助けを借りて、何カ月もかけてAEGネットワークを総ざらいし、情報を一元化したデータベースを構築しなくてはならなかった。「データの分析だけでもかなりの仕事量でした」と彼女は言う(個人情報保護法にのっとって、同社では自社所有、または自社管理の情報データのみを収集した)。

消費者行動商品開発マネージャーやチケット販売ディレクターも通常の業務を離れて、アルゴリズム構築に協力してくれた。全社から集めた履歴データに基づいて、個々にカスタマイズしたメッセージをプッシュ通知でリアルタイムに送信するアルゴリズムだ。たとえば、2年連続でスタンダードなチケットを購入したファンには、100ドルの「バックステージパス」を進呈する。コンサートのたびに毎回Tシャツを購入する人は、1枚買うとさらに2枚Tシャツがもらえる特典がもらえる。

今日、ライブイベント業界ではカスタマイズが最重要キーワードになっている。なにしろ市場は、買い手も売り手もわんさとあふれかえる時代なのだ。調査会社ニールセンによると、アメリカ国民の52パーセントが毎年何らかの音楽イベントに参加しているが、そのうちフェス参加者の数は2017年の18パーセントから、2018年には23パーセントまで増加した。フェスティバルの中には、アーティストにラインナップ編成を任せたり、ラインナップの事前発表を行わないなど、「特別感」を売りにしているところもある。外部ブランドと組んでカスタマイズ機能を盛り込み、他との差別化を図っているところもある。

ニールセン社の調査によれば、ライブの参加者がチケット代に払う価格は平均247ドル。こうした人々の23パーセントは、インターネットでグッズも購入していることが判明した。

ケイン氏は具体的な収入額についてはコメントを控えたが、チームはステージコーチの取り組みが「予想をはるかに超える成功を収めた」と評価していると述べ、AEGは今年予定されている他のフェスティバルやイベントでもこの戦略を採用するだろう、と仄めかした。ただし、顧客情報のデータベースはイベントのたびに、各関係業者からの情報にもとづいてその都度構築しなくてはならない。「我々が作り上げたのは『みなさんがどこにいるか、何を欲しがっているのかお見通しですよ』という技術です」とケイン氏は言う。「簡単に聞こえるかもしれませんが、まだ他の誰もやっていません。画期的ですが、崩壊する可能性もある。全く新しい顧客分析の技術なのです」

Translated by Akiko Kato

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