ステラ・ドネリーが語るMeToo時代のユーモア「失恋や惨めさに呑み込まれることはない」

ステラ・ドネリー(Photo by Molly Matalon for Rolling Stone)

フジロック’19にも出演決定。傑作デビューアルバム『Beware of the Dogs』で注目を集める新鋭シンガーソングライター、ステラ・ドネリーをローリングストーン誌が直撃。重たいテーマも軽やかなポップソングに昇華させる、ユーモアと率直さはどのように育まれたのか。

ステラ・ドネリーが愛用のバイブレーターについて初めて歌ったとき、オーディエンスには彼女の両親がいた。「お決まりのジョークよね」と彼女は笑う。「すごく笑える瞬間だった、『やってやったぞ!』みたいな」。企業向けのカバーバンドで長年歌った後、この26歳のウェールズ系オーストラリア人歌手は不遜で大胆不敵な曲作りを完全にモノにした。「他人の曲を長い間歌ってきて、幸せじゃないのに幸せそうなふりをしていたの」とドネリーは言う。「私が今一番自分自身でいられるのは、曲作りをしているとき。それ以外のときは地に足が着いていないように感じる」

春の午後、ブルックリンのクラウンハイツにあるAirbnbで、ドネリーはデリバリーの寿司を待っている。切り揃えた前髪とマゼンタのジャンプスーツがよく似合う彼女は、脚を組んでソファに座り、前夜について思いを巡らす。ラフ・トレード・レコーズで満員の会場に向けて歌ったときのことだ。オーディエンスが自分の歌の歌詞を知っていたことに彼女は驚いた。「本当にびっくりしたわ」と彼女は言う。「オーストラリアからはるばる出てきて、期待なんて一切ない。ある意味、戦闘態勢なわけ。ベストを尽くす準備ができていて、簡単にそうできる方法なんてないっていう状況だったから」

ドネリーは2017年、友人のレイプ体験をアレンジした衝撃的な「Boys Will Be Boys」で初めて注目を集めた。その曲は#MeTooマスターピースとして称賛されたが、これはドネリーには想定外のことだった。「アメリカの視聴者にこの曲が届く頃には、すでに相当な議論が巻き起こっていたんだと思う」と彼女は言う。「みんながこうした問題に向き合うことを迫られていたから、この曲を聞く準備ができていたんじゃないかな」

「Boys Will Be Boys」は、ドネリーの最初のフルアルバム、『Beware of the Dogs』にも収録されている。今春初めにリリースされたこのアルバムは、女性が直面する不当な扱いや、有色人種に対する偏見、ヘミングウェイが好きな退屈な人達について深く掘り下げるインディーポップの宝石だ。1曲目の「Old Man」で、彼女は誇らしげに自分の立ち位置を宣言する。「ああ年老いた男よ、私のことが怖いの?/それとも私のすることが怖いの?/あなたはかつて私を片手で掴んだけど/今度は世界があなたを掴み返す番ね」





『Beware of the Dogs』の収録曲の多くは、ドネリーの故郷であるオーストラリア、フリーマントルでの生活にちなんだものだ。「Lunch」は彼女がツアーに出かける前に感じる、家族や友人を後に残す悲しみの歌。一方の「U Owe Me」では、地元のパブで働いていたときの最悪なオーナーについて歌う。そして(タイトル曲の)「Beware of the Dogs」は、オーストラリア政府の制度的人種差別への痛烈な一撃だ。彼女自身が白人で特権的な立場であることを認めながらも、ドネリーは苛立ちを表している。「それが私なりの表現だったの」と彼女は言う。「肌の色によって全く異なる経験を持つ人たちと、どう隣り合わせで生きることができるのか――それがどれほどラッキーなことのか、それがどれほどやりきれないことなのか」

Translated by Chihiro Sato

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