電線愛好家として知られる女優、石山蓮華が気になるアーティストを毎回ピックアップ。今回は名古屋出身のトラックメイカー、食品まつり a.k.a foodmanに登場してもらった。
※この記事は発売中の『Rolling Stone JAPAN vol.06』に掲載されたものです。
近所の裏路地でクセのある個人商店を見つけたときのような胸騒ぎがした。
テクノ、ジューク、フットワーク、アンビエント、ノイズ……ジャンルを横断しながら作られる楽曲はどれを聴いても「食品まつり」独特の音だ。
2012年にNYのレーベル「Orange Milk」よりカセットテープ100本のリリースという超ニッチなデビューをし、昨年にはLAの「Sun Ark」よりアルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』とNYの「Palto Flats」からEP『Moriyama』をリリース。
さらに国内外のイベントに出演、七尾旅人やあっこゴリラなどとの楽曲制作など、活躍の範囲は広くて先鋭的だ。
「ウワ音だけのダンス・ミュージック」をイメージして制作された『ARU OTOKONO DENSETSU』のなかでも『337』はベース音を使わない、三三七拍子のユーモラスなダンス・ミュージックだ。この音楽はどこからやってきたのだろう。
「音楽始めたのが19歳の頃なんですけど、あんまり人に聴かせることもなく何となく楽しくやってました。中古のサンプラーを買ってゲップの音とか録音して、ギャギャッ、ギュギュッって。ボタンを押したら音が出るっていうのが単純に楽しかった。けれど、28歳くらいの頃は迷走してて。もうちょっとテクノ寄りの曲で自分なりにカチッとミックスとかもやってたんですけど、うまくいかなくて“やっぱスキルねぇな”って悩んでました。
そこから自分のスタイルを作る突破口になったのはフットワークですね。シカゴのゲットーの人たちの音楽なんですけど、ダンス・ミュージックらしい規則もなくてグニャグニャグニャっとリズムの取り方もおかしいし、完成度20%ぐらいでバーンと出してて、それがまた格好いいんですよね。彼らからしたら100%なのかもしれないけれど、ザクッと作ってパパッと出したみたいな感じがあって、まさに初期衝動で作ってる。
彼らの曲を聴いて、もっと自由な姿勢でいいっていうのを教えられました。元々すごい面倒くさがりっていうか、バッとできちゃったらそのままいっちゃいたいんですよ。プラモデルでいうとバリが出たような状態のまま出すのも味があっていいっていうか、完成されたものってよりかは若干未完成な状態のものを出すほうが好きなんですよね。
粘土遊びみたいに粘土の塊をグニグニ触ってたら形になってきて“ライオンっぽいな”と思ったら途中から寄せていくみたいな感覚です。
あとはちょっと笑える要素の音を入れたりしてユーモアを出しています。「笑える」と言っても面白いボイスネタを入れるのではなくて、ヴォーカルがめっちゃでかいとか変なバランスになってるとか、そういうところに萌えるんです。今は完成されたものよりも、ちょっと未完成なものに惹かれます。
音楽って形のない芸術なんで、自分が聴いている聞こえ方と他の人の聞こえ方が同じだとは限らないし、正解もない。世界中には何十億人もいるし、ニッチな音楽でもわかってくれる人はいるんだと思いました。そもそも人の意見ばかり気にするとワケわかんなくなるし、自分がいいと思ったらいいやって。そんな感じで気にならなくなっちゃいました。それでも行き詰まったときはサウナです」(食品まつり/以下同)
「SAUNA」「MIZU YOUKAN」「MOZUKU」。
これらの曲名には、徒歩圏内の生活を愛する食品まつりのまなざしが表れている。顎ヒゲにくしゃくしゃの笑顔、気さくな近所のおじさんのようでいて、語るエピソードからは日常と過激を行き来するバランス感覚が見える。
「『SAUNA』は笹塚のマルシンスパからインスピレーションを受けて作りました。サウナと水風呂の箱庭みたいな場所で、サウナ、水風呂、休憩所に最短距離で行けるからサウナトランス状態に持っていきやすいんですよ。