Suchmos『THE ANYMAL』クロスレビュー 「音」と「思想」から迫る冒険作の背景

Suchmos(Courtesy of Sony Music)


そして、Suchmosがこのアルバムで表現していることの3つ目は、バンドメンバーでさえも同じ価値観の人間なんてこの世にはいないなかで、いかに他人を愛するか、ということ。Suchmosは、「バンド」という言葉の範囲を飛び越えるくらい、Suchmosという存在が自分たちの「居場所」で「アジト」であるかのような生き方と6人の結びつき方をしていることはこの作品を聴いても明らかだが、「同調圧力」をよしとしない彼らは、バンドメンバーにさえも同じ価値観の強制などはしない。

これだけは言っておきたい。特に、“俺たちもクシャクシャに丸められて捨てられちゃうかもしれないね”(「In The Zoo」)とSuchmosに書かせた、Suchmosを消費行動のひとつとしてしか捉えていないような人に言っておきたい。Suchmosは、YONCEのバンドではない。YONCEがボーカルとしてステージのセンターに立つし、ルックスもスタイルもいいし、バンドの代表としてしゃべる機会が多いので目立つのは確かだが、Suchmosというバンドは、全員がフロントマンであるかのようなチームだ。他の5人がそれぞれの楽器を得意とするのと同じように、YONCEはたまたま「歌」という楽器を得意としていて、そのためボーカルというポジションを取っているだけと言ってもいい。Suchmosは6人それぞれがめちゃくちゃ濃ゆい個性を持っていて、新元号に重ねて言うならば、そんな6人が美しい心を寄せ合って、新たな文化を生み出しているのが、Suchmosなのだ。

“深い話は無しにしよう わかり合えなくたってお前が好きさ 思想や言葉 傷の場所も違うけど お前が好きさ”。このフレーズは、正月の新聞広告でSuchmosの写真とともに一面に出たときに大きな話題となったが、これが実は、YONCEにとって心を閉ざしていた時期を抜けられるきっかけの曲となった「Hit Me, Thunder」の冒頭の歌詞であることがリリースタイミングで判明した。

一人ひとりの価値観を尊重すべき時代において、新元号の意味に重ねていうと「一人ひとりがそれぞれの花を大きく咲かせること」を願う時代において、“深い話は無しにしよう わかり合えなくたってお前が好きさ 思想や言葉 傷の場所も違うけど お前が好きさ”という心構えこそが、人を愛するための素晴らしい方法なのではないかと思う。バンドメンバーでも、家族でも、恋人でも、仲間でも、どうしたってすべては分かり合えないけれども、人と人の愛とつながりを深めてくれる方法のひとつは、同じ体験をして近しい感情を共有することだと思う。そうだとしたら、Suchmosの6人同士は、この2年のときを経てその愛とつながりをさらに強いものにしたと言えるだろう。

タイトルが、「ANIMAL」ではなく、「ANY」が含まれた「ANYMAL」になっていることも触れるべきだろう。「ANY=すべての、どんな」生き物にも、尊重と、自由と、生命力を。みんなが同じ価値観でなくていい。それぞれの個に、それぞれの豊かさを。そんな、「同調圧力」とは違うかたちで「個」と「和」を成立させられる、人と人の新たな生き方を表すような造語でありアルバム作品だと思った。

今作は、意図的に「時代」「社会」に目を向けて作られたわけではない。あくまで、自分たちの心の深いところを見つめて、自分たちの人生を音で表現することを追究して生まれた作品だ。しかし、それが結果的に、半歩先の時代のあり方へのガイドとなっていることに対しては、Suchmosがやはり、商業音楽を作る職人やマーケターなどではなく、本物の表現者・芸術家であることを証明していると言っていいだろう。

そういえば、あいみょんが2月にリリースしたアルバムのタイトルは『瞬間的シックスセンス』で、それも、直感を大事にしながら行動することを促してくれる表現だった。さらにいうと、YONCEがもともと組んでいたバンド・OLD JOEのギタリストが率いるRAMMELLSも、最近発表した新曲「真っ赤な太陽」で、人間それぞれが孤独と様々な事情を抱えているからこそ、難しい話はなしにして“君と簡単な話がしたいな”と、「Hit Me, Thunder」の冒頭のラインとつながることを歌っている。表現者たちが嗅いでいる時代の匂いには、きっと近いものがあるのだろう。

と、いろいろ書いたが、このアルバムをいいか悪いかを決めるのは、あなただ。誰かが「いい」と言ったことをそのまま鵜呑みにして、自分も「いい」と言ってしまうような風潮も、Suchmosが嫌悪感を示す「同調圧力」のひとつのあり方だから。あなたの感性で、このアルバムを感じればいい。それこそが、Suchmosがこのアルバムを伝えるうえでもっとも大切にしたいことだろう。



<リリース情報>
    
Suchmos 『THE ANYMAL』

Suchmos
『THE ANYMAL』
F.C.L.S.
発売中


〈イベント情報〉

Suchmos ARENA TOUR 2019
2019年4月6日(土)北海道立総合体育センター 北海きたえーる
2019年4月20日(土)新潟・朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
2019年4月29日(月・祝)福岡国際センター
2019年5月11日(土)広島サンプラザホール
2019年5月25日(土)神戸・ワールド記念ホール
2019年5月26日(日)神戸・ワールド記念ホール

Suchmos THE LIVE
2019年9月8日(日)横浜スタジアム

Suchmos ASIA TOUR 2019
2019年6月2日(日)香港・Music Zone @ KITEC
2019年6月7日(金)台北・Legacy Taipei
2019年6月9日(日)ソウル・YES24 Live Hall
2019年6月12日(水)深圳・B10 Live
2019年6月14日(金):上海・MODERN SKY LAB
2019年6月16日(日):北京(※会場未定)

詳細:https://www.suchmos.com/live/

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