Suchmos『THE ANYMAL』クロスレビュー 「音」と「思想」から迫る冒険作の背景

Suchmos(Courtesy of Sony Music)



「同調圧力」を否定する、新しい時代のブルース

矢島由佳子

先日、新元号が発表された。「令和」に込められているのは、「人々が美しく心を寄せ合うなかで、文化が生まれ育つという意味」と「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりが明日への希望とともにそれぞれの花を大きく咲かせることができる日本でありたいという願い」だそうだ。

この新元号の意味や願いと、Suchmosが最新アルバム『THE ANYMAL』で描いたことは、重なっている、と言うと大げさだろうか。Suchmosはこれまでも、時代に求められる他の表現者たちもそうであるように、時代の少し先を自分たちの目と心で捉えて、世の人々をリードする作品や態度を表現してきた。何名かの有識者が次の時代への想いを込めて選んだ「令和」という言葉と、Suchmosが3月27日にリリースした2年ぶりのアルバムで表現している想いが重なっていることは、大げさでもなければ、偶然でもない気がしている。まさに、今と未来を捉えた表現がここにある、という言い方ができるだろう。

Suchmosは、バンド結成当初から「同調圧力」に対する否定を、歌のなかでもライブのMCでもインタビューでも発してきた。10代の頃から、決められたことをやらされる場面には疑問を抱いてきたと話し、だからこそバンドを自己表現の手段に選び、ライブでオーディエンス全員が同じように手を挙げる光景を斬っては「自由に踊ろう」と導いてきた。

この国には、あらゆるところに、自分たちが意識していないところにまで、「同調圧力」がはびこっている。学校にも、会社にも、ネットのなかにも。もちろん、「平等」や「公平」を保つことで守られるものもあるだろうし、集団でなにかを成し遂げることを「美」とすることが一概に間違っているとも言えない。しかし、様々なライフスタイルや価値観が世の中に溢れ始めている今、「同調=他と同じ意見・態度になること」を強制させたり求めたりすることは、もう破綻寸前だし、そろそろ時代遅れな行為になってきていると言っていいだろう。

『THE ANYMAL』には、カラオケでみんなと盛り上がれるような曲も、友達とドライブへ行くときにかけたくなるような曲も、はっきり言って、ない。誰かと同じ意見や態度になれる音楽は他のミュージシャンに任せて、ここでは、リスナー一人ひとりに対して、一人きりで自分の心の奥深くまで潜り込み、「あなたにとっての本当の喜びや悲しみはなんだ?」と聞き、“明日の風はお前が吹かせよ”と行動を促してくる。そして最後には、深い海底から水面に戻ってきたときのような快感を得られる呼吸をさせてくれるアルバム作品だ。



Suchmosがこのアルバムで表現していることのなかから3つを特筆しておきたい。1つは、自分の直感を信じること。2つ目は、それぞれの素直な気持ちに従いながら、前に向かって足を動かすこと。

彼らがこの表現にたどり着いた背景には、前作『THE KIDS』以降の6人の苦しみや躊躇いがあった。急速なスピードで駆け上がった彼らは、はたから見ると順調そのものに見えるかもしれないが、その裏では、本当の自分とは違ったイメージがひとり歩きしていくことへ違和感を抱いたり、「なんのために音楽をやっているのだろう」と悩んだりしていた時期があったという。YONCE(Vo)の言葉をより深く表現できるように、大事な歌詞のラインがもっとも輝くように、サウンドも尺も自然と決められていったというアルバムの楽曲たちは、嘆きや愁いが見える「ブルース」の音に包まれている。

そうしたブルーな時期にて、彼らがそれぞれ自分の心と深く向き合い、たどり着いた答えが、頭で論理的に物事を考えるのではなく自分の直感を信じるということと、心のなかにある素直な気持ちに従って行動しよう、ということだった。アルバム曲のなかで最初にできたという「Indigo Blues」では、“Awake your inner voice and soul”という言葉が何度もリピートされ、このラインが曲のなかでも、アルバムの全体のなかでも、特別光っている。アルバムの最後に収録されていて、レコーディング自体も最後にやったという「BUBBLE」では、“素直な自分を見つけたら ありのままに生きましょう Shine your boots”“器用に生きようとしなくていい 感じたままに行きましょう Shine your boots”と、メンバー同士で言い合うかのように歌われている。



MV曲にもなっている「In The Zoo」では“We’re just animals”と今作をバシっと表すかのように歌われているが、タイトルの『THE ANYMAL』という言葉には、動物のように本能的に感じたり考えたりすることへのガイドが込められていると思う。3月25日に公開されたタワーレコードの映像では、KCEEが次のように語っている。「THE ANYMALというタイトルで全部言い切ってるなって気がするけど。本能的に、狼が6人の仲間たちと1日中走って、月が見えてきて、吠えて、一緒にいると楽しいね、みたいな。そういう、本能に直感的に、感動だったり、楽しかったり、考えさせられたり(中略)今回はそれをやりたかったし、それをやるべきだなと思いました」。

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