デビュー10周年を迎えたザ・ティン・ティンズ、オフィシャル・インタビューが到着

―そういえばセカンド・アルバム『サウンズ・フロム・ノーウェアズヴィル』はベルリンで、サード『スーパー・クリティカル』はイビザ島でレコーディングしましたね。アルバムごとにロケーションを変えることを重視している?

ケイティ:そうね。背景を変えることは重要だわ。アルバムを作るごとに、新しいバンドになった気分になれるし。だから、それが特段風変わりなことだとは思っていなかったの。ある日突如「オッケー、そろそろほかの町に行く?」と言い出して、別の国に移り住んだりしていた。26歳の頃はあまり深く考えなかったけど、34歳になった今ようやく「ああ、こういう人生ってちょっとヘンなのかも」って思い始めたわ(笑)。「なんでこんなことをしているんだろう?」って。それでブラックライトで照らしてみたところ、「うん、やっぱり問題アリだ」って気付いたのよ(笑)。でもほんと、一カ所に1年くらい留まっていると、移動したくてうずうずしてくるの。「ほかの町に行って、やり直さなくちゃ!」って。

―じゃあ今回はなぜロサンゼルスを選んだんですか?

ケイティ:以前から一度アメリカでアルバムを作りたいと思っていて、ニューヨークとロサンゼルス、どっちにしようかって考えていて……でもなぜ後者を選んだのか、よく理由は覚えていない。多分今回も、「ああもう、ここにずっといるのは耐えられないわ。別の町に行かなきゃ!どこにする?どこにする?」って、ほとんどパニックして、咄嗟に選んだような気がする。あと、ロサンゼルスのダウンタウンにアーティストたちが集まる地区があって、その雰囲気が気に入ったのよ。そこで暮らしたことがある友人を介して知ったんだけど、私たちがいた頃のベルリンみたいな感じなの。クリエイティヴな人たちが大勢住んでいて、そういう環境に身を置くとすごくインスパイアされるのよね。そんなわけで、今回はダウンタウンで生活しながらレコーディングしたわ。ハリウッドとは全く雰囲気が違って、言わばインダストリアルな趣で、多くのホームレスの人たちが暮らすスキッド・ロウ地区からもそんなに離れていない。だからすごく奇妙なミクスチュアが起きている。そして倉庫だった古い建物がたくさんあって、そこを借りて爆音を鳴らすことが可能なのよ。誰も文句を言う人なんかいないから。実際素晴らしい環境だった。私たちの決断は間違っていなかったわ。行ってから数日後に色んなアーティストたちと知り合って、すごく仲良くなった人もいる。日中は、スタジオにしていた建物に籠もって曲を書いて、レコーディングをして、夜は街に出かけたの。ほかのアーティストの仕事場を訪れて彼らの作品を見せてもらったり、アートについて話をしたり……。ほんと、すごくインスパイアされたわ。

―共同プロデューサーとしてクレジットされているジョン・フォスターも、アメリカ人なんですか?

ケイティ:ええ。さっきも言った通り、一旦曲を書き上げてみたものの、好きなバンドの真似をしているだけで、気に入らなくてやり直すことになった。その時に加わってもらったの。ジョンは以前アメリカをツアーした時に前座を務めてくれたバンド(注:Kaneholler)のメンバーなのよ。本当に素敵な人で、以来仲良くなって、イビザ島に滞在していた時とかに、何度か私たちを訪ねてきたりしていたのよ。で、アメリカに行く前に使っていたスタジオは、型通りのスタジオで、巨大なミキシング・デスクがあって、設備も素晴らしかった。でもそういう設備は必要じゃなかった。結局、暖炉の傍の椅子にギターを抱えて座って、言葉をつなぎながら、iPhoneに録音していたくらいだから(笑)。それで、セッティングも変えようと思って、大袈裟な機材は使わずにAbletonを使ったの。エレクトロニックなレコーディングに適したセッティングにするべく。その使い方を勉強しながら作業をすることになったのよ。でもなかなか使いこなせなくて、自分たちがやりたいことができずに、フラストレーションを感じていて、Abletonのエキスパートであるジョンが「一日そっちに行って手伝ってあげてもいいけど」と言ってくれたの。そうしたら、彼との作業が本当に楽しくて、すごくクリエイティヴで、結局6週間一緒に過ごしてアルバムを完成に導いてくれたってわけ。

―エレクトロニックと言えば、ドラムンベースも今回加わった新しい要素ですね。

ケイティ:そうね。なぜ取り入れたのか、はっきりしないんだけど。とにかく私たちは色んな音楽が好きだから、なんでも気になったものに手を出して、自分たちの音楽に取り入れられるか挑戦しちゃうのよ(笑)。ドラムンベースのファンがどう思うか不安なところもあるけど、試してみたかったの。今回のアルバムは歌詞に比重が置かれていて、ドラムンベースはそういうヴォーカルの切迫感と相性がいいと思うし。ものすごくテンポが速い音楽だから、エネルギーを与えてくれるのよ。

―その詩みたいな歌詞というアイデアはどう生まれたんですか?

ケイティ:スリーフォード・モッズの影響もあるんだけど、それ以前に、ザ・スミスに改めてハマったことに理由があるの。バンドが結成された当初、モリッシーはまず詩を書き上げて、ジョニー・マーのギターの音にほとんど無理やり押し込むようにして曲を作ったという話を読んで、それにインスパイアされたのよ。そういう成り立ちだから、ザ・スミスの曲は、ひとつの文がメロディに収まり切らなくて、こぼれ落ちて次のメロディに送られていくような、独特のノリがあるのよね。きれいにフレーズが区切られているんじゃなくて、どんどん溢れていく感じで。溢れているんだけど、自分が書いた詩が気に入っていて、縮めたくないから、全部なんとかして収めるっていう、そういうところが面白いの。文章が途中で切れて、残りが全然違う場所にぽつりと落ちていたりする。あんな風に書いたことがなかったから、すごく興味をそそられたのよ。

―そして結果的にあなたのヴォーカル・スタイルにも影響を及ぼしたわけですね。

ケイティ:ええ。今回は歌っているようで喋っているようなノリで、どういうわけか私の場合、そういうスタイルで表現するほうが説得力が増すみたい。フツウに可愛い感じに歌っても、耳に触れる感触は悪くないけど、自分ではあまり説得力が感じられないのよ。だとすると、聴いている人たちにとっても説得力がないんじゃないかと思ってしまうのよね(笑)。

―このアルバムのムードは今の政情にシンクロするところがありますが、特に意識したり、影響を受けたりしたんでしょうか?

多分アルバムの底辺に流れている不安感みたいなものに、今の世の中の空気も影響を及ぼしたと思う。今を生きている人なら、誰でも感じているわけだから。世界には、ものすごいテンションが漂っているわよね。それは間違いないわ。私たちの生活にまつわるあらゆる要素が、アルバムには反映されているし。

―ラストの『Good Grief』には“Grey sky thinkings how we do it up north some might say that it’s moaning but it’s keeping us warm(グレーの空みたいな思考をするのが北部の流儀/愚痴をこぼしているだけじゃないかと言う人もいるけど、私たちはそうやってからだを温めているの)”という歌詞があります。マンチェスターの音楽にインスパイアされたアルバムにピッタリですが、ここには、イングランド北部出身者として、アイデンティティの再確認みたいな意味合いが込められているんですか?

ケイティ:そうね。イングランド北部の人間は愚痴をこぼすが好きなのよ(笑)。でもすごく不思議な風習で、うまく説明できない。生まれつき備わっている、すごく優しくて親しみのあるスタイルで、愚痴をこぼすの。誰かと会って、「こんにちは。元気?」って軽く声をかけると、「それが、聞いてくれる? 昨日はママがこんなことをやらかして、私の背中は痛いし……」みたいな答えが返ってくるのよ。ほら、元々天気が悪くて雨が多くてグレーな感じの場所だから、北部の人間はそういう不平を長々と言うのが珍しくないんだけど、その表現の仕方はすごく暖かいのよね。北部の人間は、英国のほかのどの地方の人よりも暖かいと、私は思っているわ。だからすごくヘンテコなミクスチュアなんだけど、このニュアンスをうまく説明するのが本当に難しいのよ。

―そういう風に歌っているダークな曲を、青空が広がるアメリカ西海岸でレコーディングしているというのが、また面白いですね。

ケイティ:そうなのよ! それって今回に限らず、ベルリンでレコーディングしたセカンド・アルバムも、音楽的には全然ベルリンぽくなかったし、サード・アルバムはせっかくイビザ島で作ったのに、ハウスとかの類とは全く関係がなかった。いつもレコーディング場所に反発するような音楽を作るのよね。なぜなのか分からないけど、そうなっちゃうのよ(笑)。

―先行シングルは表題曲ですが、アルバムを象徴する曲だと思っていいんでしょうか?

ケイティ:そうね。もちろん曲調で言えば『Earthquake』なんかは全然違うし、あの曲も大好きなんだけど、出発点として表題曲はすごく大きな役割を果たしたと思う。歌詞はアグレッシヴで、サウンドはミニマルで。だから最初に世に送り出すにはぴったりだったわ。

―PVはどんな風なものを制作予定ですか?

ケイティ:うーん、まあね……別に決まってないわけじゃないのよ(笑)。うまく説明できないだけで。というのも、私たちは何でも自分たちでやるのが好きで、リリック・ビデオもふたりで作ったし、ここにきてすごく自信も備わって、「もう監督なんか必要ないでしょ」って感じなの。数人の友達に手伝ってもらって、それで終わり。これまでずっと、プロに頼んで作るのがいいと言われ続けてきたけど、実際にやってみると納得のいかないことばかりだった。完成したビデオが送られてくると、ものすごくお金がかかっていて豪華なんだけど、全然想定していた作品とは違うのよ。私のヘアメイクはめちゃくちゃで、おばあちゃんみたいに見えるし、服もカッコ悪くて……そういう失敗から学んだの。そして、ヴィジュアルもシンプルがベストだという結論に至ったわ。例えば『That’s Not My Name』のPVは3本作ったんだけど、最初の1本は本当に大がかりな撮影をして、私たちの周りで色んなものが爆発したりしていたんだけど(笑)、仕上がってみると全然エネルギーが感じられなかった。だから却下したのよ。「こんなの誰にも見せたくない」と言って。それで次に自分たちで作ったの。予算なんかほとんどゼロで。私が赤いドレスを着ているヤツね。それも、撮影した時に私のスーツケースの中で、唯一きれいだった服があのドレスだったからという理由で(笑)。さすがにすごくシンプルで、チープな感じだったんだけど、私たちのアイデンティティがちゃんと伝わったわ。それに今でも、一番多くの人が記憶している映像なのよ。一番チープに作られた、一番シンプルな映像でありながら。私は映画に出ているみたいに演技する必要性は感じないし、「自分たちをこう見せたい」という意図に則って作りたいだけなの。



―ちなみに、さっきキャビンフィーバーの話が出ましたが、そういう意味で『Basement』という曲はすごく納得が行く内容ですね。まるでザ・ティン・ティンズのテーマ曲みたいに聴こえます。

ケイティ:(笑)そうね。まさにそうなんだと思う。実際に私たちは人生の多くの時間を、世の中から切り離された場所で過ごしているわ。あの曲の設定通りに。そういう場所で、自分たちの世界に没入して、何カ月もずっと籠もっているのよ。また繰り返しになるけど、それって必ずしも健全な生活とは呼べないんだけど、それが私たちのやり方なの(笑)。

―毎回アルバムが短いのもひとつの特徴ですよね。アナログ盤を意識しているんですか?

ケイティ:どうなんだろう、とにかく短いアルバムが好きなんだと思う。私たちが好きなアーティストたちの作品、好きな作品は、短いものが多いのよね。20曲入りとかって、ベスト盤でもない限り聴きたいとは思わないし。しかも私はわりとシャウト気味に歌うから、こんな調子で長々と続けられたら、みんな閉口すると思うのよ(笑)。ぎゅっと短い尺に凝縮するのが、私たちには合っているのかもしれないわ。

―さて、今年はファースト・アルバムが登場してからちょうど10年になります。10年間を振り返って一番誇りに感じることと言えば何でしょう?

ケイティ:4枚目のアルバムを発表できるという事実そのものに、誇りを感じるわ(笑)。ふたりとも、相手に辟易して憎み合うことなくここまで一緒にやって来れたことが、素晴らしいと思う。そしてその間変化し続けたことにも、誇りに感じている。変わり続けるってことはマイナスになる面もあるわけだけど、私は好き。そういうバンドだってことを人々に理解してもらうまでに時間はかかったわ。セカンド・アルバムが登場した時は「ファースト・アルバムみたいな曲がもっと聴きたい!」と言う人が大勢いたし。でも10年経った今では、毎回変わるバンドなんだってことをみんな心得ていて、そこが面白いと思ってくれている。だから変わり続けて良かったなと思うし、変わるのが楽しい。例えば、2年ごとにファースト・アルバムみたいな作品を延々と作り続けるなんて、想像し得る限り最悪よね。しかもだんだん質が低下したとしたら、すぐにキャリアは終わってしまったはず。私たちは90歳になるまで曲を作り続けたいから!

―そういう意味で、あなたとジュールズがこれまで仲良くパートナーであり続けられた理由はどこにあると思いますか?

ケイティ:う~ん、ほかの生き方を知らないから、なんだと思う。ジュールズも私も若い頃からミュージシャン活動をしていて、本当に、ほかに何もできないのよ。クリエイティヴな活動をして生きるというのは、すごく奇妙な人生なんだけど、同時にすごく美しい人生だわ。そしてフラストレーションがつきまとう人生でもある。なぜって全てが、何か素晴らしいものをクリエイトできるか否かという点にかかっているわけだから。それだけに、「これだ」と思うものが生まれる瞬間は本当にマジカルで、最高の気分が味わえる。それが起きることは滅多にないんだけど、あの気分を味わいたくてやり続けるのよ。つまり中毒性がある。だから私たちは言わば中毒者なのよ(笑)。

―最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

ケイティ:次に行ける機会を楽しみにしているわ! 真剣な話、ツアーをする時は世界のどこよりも日本に行くのが楽しみなの。素晴らしい国だし、興味が尽きないし、食べ物もファッションも人々も最高だから。スタッフも「次にいつ日本に行けるの?」っていつも言っているくらいよ(笑)。だからアルバムを気に入ってくれるよう願っているわ。そうしたら私たちも日本に行けるし!

(インタビュアー:新谷洋子)



<リリース情報>

ザ・ティン・ティンズ 『ザ・ブラック・ライト』

ザ・ティン・ティンズ
『ザ・ブラック・ライト』
発売中
品番:SICX-107
価格:スペシャル・プライス Y2,200(+税)
※国内盤のみボーナス・トラック1曲収録

1. イストレインジド
2. ベイスメント
3. A&E
4. ブラックライト
5. アースクェイク
6. ファイン・アンド・ダンディー
7. ワード・フォー・ディス
8. グッド・グリーフ
9. スーヴェニア(※国内盤ボーナス・トラック)

Rolling Stone Japan 編集部

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