現在最も注目すべきラッパー「ノーネーム」が語る、ラップを辞めなかった理由

シカゴ出身のラッパー、ノーネーム(Photo by Erik Tanner for Rolling Stone )


『テレフォン』は温もりを感じさせるレコードだった。2010年半ば頃のシカゴの日常のスナップショットというべき同作では、喜びと悲しみが等しく描かれていた。最終曲「シャドウ・マン」では、ゲストに迎えたSminoとサバと共に、ノーネームは先駆者たちの名前を挙げつつ自身の葬式について歌っている(「私の葬式には27人のラッパーが参列するの / 金色で私の名前を書くのはモーゼズ、弔辞を読むのはカニエ」)。『テレフォン』は然るべき評価と支持を勝ち取ったが、決定的な欠点がひとつあった。言うまでもなく、それは30分強という短さだ。

「ライブにおいても、やっぱりそのことが問題になるの。30分じゃ短すぎるもの」彼女はそう話す。「ブッキングのオファーはひっきりなしに来るんだけど、1時間足らずのショーじゃプロモーターも納得しない。ちょっとでも長く演奏するために、あれこれと試してみてはいるんだけどね」

そういった事情を背景に、ノーネームは昨年末に新作の制作に着手した。

「レコーディングには時間をかけ過ぎないよう意識してるの。アルバムを作るにしても、1ヶ月くらいで完成させるようにしてる」彼女はそう話す。ロサンゼルスを新たな拠点として選んだ彼女だが、新たなプロデューサーを迎えて方向転換を図るのではなく、『テレフォン』で築いたスタイルに磨きをかけるべく、気心の知れたバンドメンバーたちをシカゴから呼び寄せた。「皆が一丸となって取り組むっていうのが肌に合ってるの」彼女はそう話す。「完成したビートをメールで受け取るみたいなやり方は好きじゃない。私はやっぱり、本物の楽器に囲まれてレコーディングしたいから」

『ルーム・25』はその結晶だ。『テレフォン』よりも緻密でダーク、そして深みを増した今作は、様々な意味でノーネームの唯一無二の個性を浮き彫りにしている。一聴しただけでは、その圧倒的なフロウとライムを把握しきることはできないだろう。「ラップのリズムは必ずしもドラムのビートと一致しないの」彼女はそう話す。「ラッパーの大半はドラムのビートに合わせてラップするけど、私はメロディに寄せてライムを書いたりするから」

『ルーム・25』を聴けば、彼女が盟友チャンス・ザ・ラッパーのようなスターダムを目指していないことは明らかだ。サウンドこそ『テレフォン』を踏襲しているものの、今作は前作よりもはるかにパーソナルだ。『テレフォン』がシカゴに生きるすべての女性(自身は超人的なラップのスキルを備えてはいるが)の物語であったのに対し、『ルーム・25』から聞こえてくるのは他の誰でもない、ノーネーム自身の声だ。

「『テレフォン』を出した時は、今とは状況が全然違った。自分のやることに、それほど責任を感じたりしなかったから」彼女はそう話す。「『テレフォン』は若さと無邪気さが生んだレコードだった。でも今作で、私は自分のもっと深い部分と向き合ったの」

『ルーム・25』の物語は、『テレフォン』の発表から2年間続いたホテル暮らしの日々に基づいている(タイトルはそのライフスタイルを示唆していると同時に、当時の彼女の年齢を指している)。「ジェットコースターのような日々だったわ」彼女はそう話す。「昔の自分じゃどう頑張っても貯められないような、何千ドルっていう額のお金をもらうようになった。当座預金口座も開いたわ。あと、あの年に生まれて初めてセックスしたの」

「このアルバムには『プッシー』っていう言葉が8回出てくるけど、決していい加減な気持ちで使ったわけじゃないのよ」彼女は笑ってそう話す。「卑猥だけど、あたしにとってものすごく大きな経験だったから、誰かに伝えたかったのかもね。セックスを経験したことで、自分により自信が持てるようになったから。『大人の女性ならではのセクシーなアルバムを作ろう』なんて意識したわけじゃないんだけど、自然とそういう部分が現れたの」

現在最も注目すべきラッパーのひとり、ノーネームが自身と向き合って生み出した『ルーム・25』は、疑いなく彼女の最高傑作であり、『テレフォン』で身につけた自信をより確固たるものにしてみせた。その過程では不安を感じることもあった。「『テレフォン』はまぐれ当たりだったんじゃないかって思うこともあったわ」彼女はそう話す。「やっぱり一発屋だったって、そんな風に言われるのが怖かった」

彼女の才能に懐疑的な人々も、今作を再生した瞬間に口をつぐむことだろう。その圧倒的な才能を見せつけるかのように、冒頭曲「セルフ」で彼女はこう繰り返す。「ビッチにラップなんてできやしないと思ってた?」


Translated by Masaaki Yoshida

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