ローリング・ストーンズ欧州ツアー初日、10年ぶりのダブリン公演レポート

現地時間5月17日、 2018年ヨーロッパツアー初日を迎えたザ・ローリング・ストーンズ (Photo by Charles McQuillan/Getty Images)

ザ・ローリング・ストーンズは、2018年「ノー・フィルター」ツアーを10年ぶりにアイルランド・ダブリンでスタートした。定番ソングから隠れた名曲までライブでは珍しい楽曲の数々を披露した。

木曜日の夜、ダブリンのクロークパークでザ・ローリング・ストーンズが「ミス・ユー」を演奏したとき、何かが起こった。ストーンズのコンサートでは、この曲はたいてい脇役で、次の楽曲へのつなぎの曲として演奏されることが多かった。だがその夜は、このディスコ調の楽曲が会場に火をつけた。それは曲が始まったとたんに起きた。チャーリー・ワッツが力強い4ビートを打つと、ベーシストのダリル・ジョーンズがスタッカートでファンクの要素を加える。これをきっかけにキース・リチャーズのギターが目を覚まし鮮やかなコードを奏で、ミック・ジャガーは狂ったように踊り始め、ロニー・ウッドはストラットギターをかき鳴らし、にやりと笑った。

前触れもなくやってくるこうした瞬間が、ザ・ローリング・ストーンズを現在も最高のライブバンドたらしめている。「ノー・フィルター」ヨーロッパツアー第2弾の初日は、そんな瞬間のオンパレードだった。「ライド・エム・オン・ダウン」でヒューバート・サムリン風のフレーズを炸裂させ、笑みをのぞかせるリチャーズ。ライブではほとんどお目にかからない「ネイバーズ」を演奏し、「これがロックだぜ」と漏らすジャガー。

他のスタジアム級バンドのコンサートとは違い、ストーンズのコンサートは今でも危険な香りがする。次の山場はいつ? いや、「イッツ・オンリー・ロックンロール」のようなつなぎ曲がいきなり演奏されるかもしれない。こうした緊張感は、彼らの年齢によってさらに強調される。バンドとしてはすでに56年目。ピンク・フロイドやデヴィッド・ボウイなど、彼よりも後から出てきて伝説となったアーティストたちはすでにミュージアムの巡回展で拝む存在となってしまった。ストーンズも展覧会で取り上げられてはいるが、だからこそ、主力メンバー4人がいまだに現役でツアーに出てハイレベルな演奏を繰り広げているという事実にますます驚かされる。彼らはまた奇妙かつ意外な形で、、現代のカルチャーにも存在感をアピールしている。今週の「ニューヨーク・タイムズ」の記事によると、FBIは2016年の大統領選以前、ロシア疑惑捜査にコードネームをつけていたそうだ。その名は“クロスファイヤー・ハリケーン”。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の歌詞からとったものだ。

この日のコンサートは、古巣に帰ったような気分だった。ストーンズがアイルランドでコンサートを行うのは10年ぶり。いつになくミック・ジャガーは饒舌で、1965年にアイルランドのアデルフィ・シネマで行ったライブを振り返り、ベルファストやコーク、その他名もない町の名前をシャウトした。ロニー・ウッドを紹介する際には「キルデア出身の少年」と呼び、「ワイルド・ホース」の演奏前には、「『ウィスキー・イン・ザ・ジャー』をやろうと練習したんだが、うまくいかなくてさ。代わりにこの曲を演奏するよ」と冗談を飛ばした。また、数日前にメンバーでダブリンの町を飲み歩いたことも告白。コンサートの前日には観光客でごった返すテンプル・バーへも足を運び、名物の“スパイスバッグ”を4人で頬張った、と語った(「ご存知ない方のためにお教えすると、スパイスバッグとはカリカリのフライドチキンとフライドポテト、それに謎の中国風スパイスを袋や箱に入れて、シェイクして混ぜたもの」――Just Eatより)。

コンサートはチャーリー・ワッツで始まった。ステージに1人たたずむドラマーが「悪魔を憐れむ歌」の怪しげなリズムを刻み始める。これまで、ストーンズのコンサートはキース・リチャーズのギターリフで始まるのが常だった。今回の変更は、ワッツへの称賛の証かもしれない。バンドの中でも最年長で、御年76歳。フィル・コリンズや、ラッシュのニール・パートといったベテラン・ロックドラマーたちの多くが体力的な理由からパフォーマンスを断念する中、糊のきいたグリーンのシャツに身を包んだワッツは、左手でリズミックなターンを巧みに繰り出す。「ダイスをころがせ」になるといよいよ本領発揮、ミック・ジャガーに目配せする。さながら「俺たちがまだこれを演奏できるなんて信じられるかい?」と言わんばかりに。



Translated by Akiko Kato

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