老舗カセットテープメーカーとインディーズ・レーベルのオーナーと共に、米国の音楽シーンで昨今、80年代に全盛期を誇った音楽メディアが再注目されている理由に迫る。
時はある1月中旬の午前。一台のトラクタートレイラーが、ミズーリ州スプリングフィールドにあるナショナル・オーディオ・カンパニーの発送センターの駐車場にバック駐車で停まると、中国とサウジアラビアの工場から輸入した、60万本を超える空のカセットテープが積み荷から降ろされた。これは、ここ米国最大のカセットテープ複製工場の倉庫に既に保管されている、1000万本そこらのさまざまな色の空のカセットテープの在庫が、さらに補充されたことを意味している。カセットテープは時代遅れだと思われているが、この工場では、レコーディング・エンジニアやグラフィック・デザイナーを含む約50人の従業員が、発注を受けたカセットテープを一日最大で10万本ほど製造している。「この世に今でも10万本のカセットテープが存在しているなんて、ほとんどの人が思ってないんじゃないでしょうか」とナショナル・オーディオ・カンパニーのスティーヴ・ステップ社長は言う。「今日は8万7000本を出荷するんですよ」
かつて農馬の首輪が製造されていた6階建ての煉瓦造りの建物内に、ナショナル・オーディオ・カンパニーは工場を構えている。同社は、空のテープと朗読テープを販売することで、ビジネスを成立させてきた。多くの工場がCDの製造へ移行した90年代、使われなくなった国内の機械を破格値で買い占め、カセットテープの時代の再来を孤独に待ち続けたのだ。