カセットテープは死なない!復活の理由に迫る

ボーアマン氏は、船の雑誌のアート・ディレクターを辞め、個人年金の40万1000ドルを現金化し、このレコード店を始めたという。「カセットテープを販売し始めた時は、からかわれたんだ。だって"なんでなんだ?"って感じだもんね」とボーアマン氏は振り返る。「お金もなかったし、俺たちのお金でできることはそれぐらいしかなかったから、続けてみたんだ」


カリフォルニア州フラトンのバーガー・レコーズの店頭に並べられているカセットテープ(Photo by Wally Skalij/Los Angeles Times via Getty Images)

これまでにバーガー・レコーズが手掛けたカセットテープは1000作品以上になる。ブライアン・ジョーンズタウン・マサカー、デヴォン・ウィリアムズのアルバムもバーガー・レコーズからリリースされている。同レーベルはまた、カリフォルニア州のサンタアナ周辺で毎年、音楽フェスティバル『Burgerama』を開催し、またサンフランシスコ、パリ、ストックホルム、ミラン、メルボルン、テルアビブでも、レーベルがテーマのショーを開いている。「バーガー(・レコーズ)のシーンに関われるのは、良いことなんだ」こう言うのは、同レーベルから2枚のアルバムをリリースしたジャスティン・エクリーだ。「シアトルに行って戻ってきたばかりなんだ。俺たちがバーガー・レコーズのバンドで、レーベルから新しいカセットテープをリリースしたって言ったら、オファーをもらってね。バーガー・レコーズの名前なしでは、ツアーもこんなにうまくいってなかったと思う」

バーガー・レコーズはカセット1本わずか5ドルで売っている。ナショナル・オーディオ・カンパニーが利益を生み出す方法を見つけた一方で、カセットテープの復活に関わるこの小さなレーベルは今もなお、20世紀半ばのテクノロジーで生計を立てる方法を模索中だという。「カウンター・カルチャーとかティーンのカルチャーにどうやって定価を付ける?」とリカード氏が聞いてきた。「たくさん投資してきて、そういう意味では俺たちは無私無欲なんだ。経済的にも精神的にも破綻しないで、あとどれだけこの道を突き進めるかは分からない。開拓時代だから、なんでも起きるわけ。ここまでやってこれて、楽しんでるけど、人って真似するんだよね。いろんなところで計画があるみたい」

そんな状況ではあるが、バーガー・レコーズは大きなプロジェクトも手掛けてきた。その一つが、グリーン・デイの94年の大ヒットアルバム『ドゥーキー』のリリースだ。「俺はあまり物事にノスタルジックになるタイプじゃないけど、あの『ドゥーキー』だよ?」こうボーアマン氏は興奮してみせた。「きたない言葉を使ってるから 親父はこのCDを聴かせてくれなかったんだ。だけど今、俺はそのアートワークをデザインしてて、親父は誇りに思ってくれてる。俺たちが聴いて育ったアルバムが、今はバーガー・レコーズのカタログなんだよ」

もちろん、カセットテープ文化は『ドゥーキー』へのセンチメンタルな愛のように、ノスタルジックな一面を持っているが、その温かみのあるサウンドは、カセットテープという音楽メディアの形態も関係している。「俺たちは昔流なんだ」リカード氏はこう言うと、さらに次のように続けた。「俺たちはアナログ派なんだ。物が手元にあるのが好きでね。感情ってのが好きで、敏感なんだ。そして物事を真剣に考える。[問題なのは]コンピュータ言語なんだよね。ダウンロード音楽だと、周波数とかが失われてしまう。その違いを説明するのは難しいんだけどさ。コンピュータは数だけ拾うことができる、でもね、他の要素は失われてしまうんだ」

Translation by Miori Aien

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