マンチェスター発新人バンド「The 1975」結成秘話、彼らの音楽が共感を呼ぶ理由

The 1975は、個人的な問題から人を惹きつけるメロディを生み出す上半身裸の落ち着きのないシンガー、マット・ヒーリーのおかげで、大型新人バンドの仲間入りを果たした。(Photo by Josh Goleman)

2014年12月、ボストンのハウス・オブ・ブルースのステージでヒーリーは精神崩壊に陥った。彼は公演中泣き続けたのだ。すぐさまイギリスのメディアに報じられ、ひとりのファンがヒーリー愛していると叫んだ。「お前には俺を愛する資格がない。お前は俺のことを知らない。俺は君を愛しているが、俺を愛することはない」とヒーリーは怒鳴った。彼は今、この事件を「酒の飲みすぎとドラッグの多量摂取、そしてより有名になろうとしたこと」のせいであると説明する。「この時は若干、下降のスパイラルに陥っていた」と彼は補足する。「何ていうか「クソ食らえ。このキャラクターがほしいなら、お前にくれてやる。俺が叫びたいと思えば、叫べばいい」っていう感じ。本当の気ままさとはどんなものなのか見てみたかったのかな。本物の悲劇みたいに。実際に結構クールだった。俺はそれを楽しんだのだと思う」。最近は行儀よく振舞うよう努めていると主張するヒーリーは、コカインをこうバカにする。「神経衰弱を起こすのに手っ取り早い方法だけれど、酒を3杯飲むとすぐに……」。そしてコカインを鼻で吸う仕草を見せる。「結局これからも身近な存在だろうね」。

3週間後の2月26日金曜日、ニューヨークのロウアー・イースト・サイドのひどく寒い昼下がり、バンドのポップアップ・ショップが開かれるオーチャード・ストリート周辺に行列が延びている。ニュー・アルバムのアートワークで飾り付けられたこの店舗で、一日中バンドによるミート&グリートが実施されるのだ。ファンは前日の夜から並び始め、当日は1000人以上が訪れた。店の中では、ドラマーのダニエルがファンからプレゼントされたマリファナのビンのひとつを持ち、匂いを嗅いでいる。「今日は皆がこれをくれるんだよ」と彼は笑顔で言う。

2016年、ロンドンのブリクストン・アカデミーでの5日間連続公演初日のマシュー・ヒーリー。(Photograph by Ollie Millington/Getty Images)

集まった客のほとんどが女性だが、バンドは電話番号をこっそり渡したりはしなかった。「大半が15歳くらいだからね」とマクドナルドが冗談を言う。The 1975がファンのグループと会っている間も、オボーンはアルバム『君が寝てる姿が好きなんだ。』の初動売上げ枚数の最新情報をバンドに報告する。彼はバンドが37ヶ国で1位を獲得したという嬉しいニュースを伝え、アルバムの収録曲がヨルダンのチャートでトップ11位を独占していることにも言及する。「ヨルダン? すごいね」とダニエルが言い、「どこにある国なのか説明できないけど。アラブの国だよね?」とヒーリーが言い加える。

10分ごとに別のグループのファンが列のままやって来ては、来られなかった友達のためにサインや写真、ビデオ撮影をお願いする。涙が出るような話もたくさんある。最近離婚したばかりのある父親は、娘との結びつきを助けてくれたヒーリーに感謝の言葉を述べる。ヒーリーは以前、バンドの音楽のおかげで3度にわたるがんとの闘いを乗り越えることができたと話す少女にも出会った。「すごく力強いよ。たいていの場合は何を言うべきかよくわからない」。

ヒーリーはこういった多くのファンの名前を聞いて、一緒に写真を撮った人や撮れなかった人について記録をつけ、各割り当て時間が終わるとそれぞれのグループを送り出す。「皆を追い出すんだ。とんでもない子たちだよ」と、彼は呆れた表情でこう漏らす。午後4時ぴったりに、バンドは金切り声を上げるファンから猛スピードで逃げ切り待機するSUV車に乗って走り去り、涙を流す少女たちの下を後にする。彼らは2月28日にもロンドンで同様のイベントを実施する予定だが、ヒーリーは文句を言ったりはしない。これはまさに彼が望んできたことだからだ。「俺たちは自分たちの可能性を発揮する以外に特に目的はないからね」と彼は述べる。「俺は最新アルバムでもっとビッグなことを求めていた。もっとビッグで優れた存在になるためにあらゆる手段を取りたいと思った。だからこういうことも覚悟しているんだ」。

※米ローリングストーン誌1257号(2016年3月9日発売)より

Translation by Shizuka De Luca

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