さらばスターマン: 史上最高のロックスター、デヴィッド・ボウイ

変幻自在のロックスター、デヴィッド・ボウイ (photo by Zuma)


後年、ボウイはロサンゼルスでの苦悩に満ちた日々についてこう語っている。「ある日鼻をかんだ時に、脳ミソの半分が飛び出しちまったんだ」キャリアの黄金期を迎えようとしていた彼のバンドには、キャリア史上最高のメンバーが揃っていた。ドラマーのデニス・デイヴィスとベーシストのジョージ・マーレイという最強のリズムセクションに加え、カルロス・アロマーがギターを担当したそのバンドは、名前を持たないグループとしては間違いなく史上最高クラスであろう。最強のバンドメンバーを従えたボウイは、トニー・ヴィスコンティ、ブライアン・イーノ、そしてロバート・フリップをプロデューサーに迎え、1976年から1980年の5年間に『ステーション・トゥ・ステーション』『ロウ』『ヘーローズ』『ロジャー』『スケアリー・モンスターズ』を発表する。自身の代表作でもあるこの5作は、70年代の音楽史に燦然と輝く金字塔として、人々の記憶に深く刻まれることになった。またその時期に、ボウイはイギー・ポップの復活のきっかけとなったソロアルバム『ザ・イディオット』『ラスト・フォー・ライフ』に参加している。前者には他で聴くことのできない、ボウイによるエキセントリックなギタープレイが収録されている。また、1978年のツアーでのパフォーマンスを音源化したライブアルバム『ステージ』では、『ロウ』や『ヒーローズ』に収録されているアンビエントのインスト曲を、アリーナロックへと昇華してみせた。当時のインタビューでボウイは次のように語っている。「僕は自分自身をキャンバスと捉えて、そこに時代の真実を描き出そうとしているんだ。白塗りの顔とバギーパンツ、それは1976年という時代を覆った悲しみを象徴するピエロの姿なんだ」

80年代に入り、ボウイはニュー・ロマンティック路線を打ち出した『レッツ・ダンス』でシーンに復帰する。同作にはボウイからの影響をうかがわせるドイツのバンド、メトロのカヴァー曲『クリミナル・ワールド』や、”教会へ連れて行ってくれ”という切実な思いが歌われる『モダン・ラヴ』が収録されている。その後ボウイは10年以上に渡ってシーンの前線から遠ざかるが、妻であるイマンとの出会いをきっかけに追求し始める”真実の愛”をテーマにしたアルバム『アースリング』と『アワーズ』を90年代後半に発表し、ソングライターとしての輝きを再び取り戻した。しかし『アースリング』の『ルッキング・フォー・サテライツ』、『アワーズ』の『セヴン』や『サーズデイズ・チャイルド』といった楽曲は、イメージにそぐわない機械的なサウンドによって本来のソウルフルな魅力が損なわれてしまい、大きな商業的成功を収めることはできなかった。(筆者はボウイが気心の知れたメンバーたちと共に、これらの楽曲を再録してくれることを望んでいたのだが)それでも、ボウイが最後の20年間で残した作品にはどれも独自の魅力がある。『ヒーザン』『リアリティ』『ザ・ネクスト・デイ」』そして『ブラックスター』においても、決して妥協しないボウイのスタンスは貫かれている。

筆者がボウイをヒーローと崇める理由のすべては、他人への限りない情を歌った1974年発表の『ヤング・アメリカン』に集約されている。グラム・ファンク調のトラックに合わせて、ボウイは苦痛に悶えるエルヴィスのような歌声で、アメリカの若者たちへの憧憬を告白する。そこには自分が30代のイギリス人ロックスターなどではなく、彼らのようにリアルで寛容な人間でありたいと願い、そのギャップに引き裂かれて涙を流すボウイの姿がある。ワシントンから来た路上で暮らす若いカップルは、曲中で誰もが抱える疑問を口にする。「私たちは20年間生きてきた。でも、死ぬにはあと50年も待たなくてはいけないの?」その問いに、ボウイはノーを突きつける。彼は最後の瞬間まで絶え間なく変化し続け、69歳の誕生日は自身の作品のリリースで祝ってみせた。ボウイは生を放棄することも、レールに沿って生きることも、すべてを投げ出すことも肯定しない。それ以外の道があるということを、彼は自身の音楽で証明してみせた。ボウイは決して、自分の信じていないことを口にすることはなかった。筆者が最後に彼のショーを目にしたのは2003年のマディソン・スクエア・ガーデンでの公演だったが、その夜、彼はほとんどのファンが背を向けた1995年作『アウトサイド』に収録されている3曲を演奏した。オーディエンスの反応は冷ややかだったが、キャリアを通して常に人々を驚かせてきたボウイらしい選曲だった。

彼と同じ時代を生きられたことを心から幸運に思う。
ありがとう、デヴィッド・ボウイ。

Translation by Masaaki Yoshida

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