さらばスターマン: 史上最高のロックスター、デヴィッド・ボウイ

ボウイがこの世を去ってからの数日間、筆者は彼の残した音楽を聴き続けた。ボウイの誕生日だった金曜の夜には、彼を支え続けたプロデューサーのトニー・ヴィスコンティが、スパイダーズのドラマーのウッディ・ウッドマンジー、ヘヴン17のヴォーカルのグレン・グレゴリーと組んだボウイのトリビュート・バンド、ホーリー・ホーリーによるニューヨークでのショーに足を運んだ。彼らは『世界を売った男』を全曲演奏し、その後『5年後』『あの男を注意しろ』を含む、70年代前半のボウイの代表曲を数多く披露した。ヴィスコンティは観客と共にハッピーバースデイを歌い、その様子を電話越しのボウイに聴かせていた。ヴィスコンティはこう話していた。「デヴィッドはよそでひっそりと自分の誕生日を祝っているよ。このバースデイパーティーは非公式だからね」(とはいえ、会場の誰もが心のどこかで彼の登場を期待していたことは言うまでもない)ヴィスコンティの娘が『レディ・スターダスト』を歌った時、筆者の目には涙がにじんだ。いつかはボウイもこの世を去るのだという事実を突きつけるその曲が、その夜はいつにも増して切なく響いた。しかしその日、なぜか筆者にはそれが目前に迫っているようには思えなかった。その週末、筆者は我が家のバイブルとも呼べる『ステーション・トゥ・ステーション』と『ロウ』、1974年発表のアウトテイク『キャンディデイト(デモ)』、そして24時間前とは大きく異なる意味を持つこととなった『ブラックスター』を繰り返し聴き続けた。

ボウイの死が報じられた際にヴィスコンティが語ったように、『ブラックスター』は残された我々へ向けた、ボウイからの”最後の贈り物”だ。一度は音楽業界からの引退がささやかれたボウイだが、2013年の『ザ・ネクスト・デイ』で見事な復活を果たし、死を目前にしながら『ブラックスター』を完成させた。最後の瞬間が近いことを悟っていたであろうボウイは、最後まで自分のスタンスを貫き、死と正面から向き合うことを選んだ。その姿はまるで、冷たい雨の降る日に現場へと赴く、キャリアの最盛期を迎えた俳優のようだった。これほどまでに潔くこの世を去ったロックスターを、筆者は他に知らない。昨年12月、筆者は幸運にも彼が手がけたオフ・ブロードウェイ・ミュージカル、”ラザルス”を目にすることができたのだが、ステージ上で『ヒーローズ』を歌う俳優たちの姿は、戸惑いながらもミルクの海を泳ぎ続けるイルカの群れを思わせた。

彼をボウイたらしめていたのは、他人への限りない情であった。一貫性という概念を完全に無視したかのような映画『地球に落ちてきた男』でさえも、その印象が揺らぐことはない。この作品の完成度を乏しめているのは、皮肉にもボウイの突出した存在感であり、共演者たちが彼という存在に圧倒されてしまっているのがわかる。スクリーンのボウイはいつになく消耗しているように見えるが、それでもなお、彼の演技はどの共演者よりも自信に満ちている。オレンジ色の髪、ボルサリーノハット、トレンチコート、真っ白のテニスシューズ、そしてシルバーのパンツという出で立ちのボウイの姿を拝めるという理由だけで、筆者はこの映画を数え切れないほど観たことを覚えている。地球に迷い込んだ火星人を演じる彼は、遠く離れた惑星で暮らす妻の耳に届けたいという願いを込め、『ザ・ヴィジター』というアルバムを作り上げる。

Translation by Masaaki Yoshida

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