最後のワールドツアーが幕を開けたスレイヤー 野性を呼び起こすサウンドの秘密

また、彼らのアルバムのアートワークは常に大げさを超えて、異常なまでに派手だ。『Reign in Blood』から1990年代の『Seasons in the Abyss』まで、ヒエロニムス・ボス風の地獄絵図をアーティストのラリー・キャロルが描いている。シングル「Seasons in the Abyss」は骸骨が浮かぶ輸血パック仕様だった。アルバム『Divine Intervention』のCDには「Slayer」と腕に彫ったファンの写真が使われていた(シングル「Serenity in Murder」でも血で書かれたバンド名が滴り落ちる男の背中の写真が使われていた)。『God Hates Us All』のジャケットは釘の刺さった血染めの聖書である。



スレイヤーのスタジオ・アルバムがヘヴィメタルのレコーディング方法を変えたのは確かなのだが、ライブでの彼らのリフはレコードよりも衝撃的で、アラヤのヴォーカルは悪魔が乗り移ったように聴こえる。スレイヤー公認のライブ・レコード2作、1984年の『Live Undead』と1991年の『Decade of Aggression』を聴いてほしい。

『Live Undead』の「The Antichrist」は、観客の歓声が上がるに従って、すべての音が弦から観客の上に滴り落ちるような感覚を覚えるはずだ。また『Decade of Aggression』の「Hell Awaits」では、ドラマーのデイヴ・ランバードのリズムがルーズにスウィングしている。これはスタジオ盤ではプレイされていない音だ。当時ライブで必ず演奏していた「Angel of Death」であっても、そこはかとない不安定さが感じられる。もちろんサウンドはレコードよりも迫力があり、スレイヤーが最高のメタルバンドになった理由がはっきりと見て取れるのだが、彼らの実力を疑う人は『Decade of Aggression』のライナーを見てほしい。「他のライブ・アルバムと異なり、これにはスレイヤーのライブ演奏だけが収められている。オーバダブは一切ない」と書かれている。そう、正真正銘のライブ・サウンドなのだ。

スレイヤーがファンに最後の別れを告げるとき、そこにほろ苦さが生まれるだろう。現在も強烈なステージを繰り広げる一方で(2017年にかつてのフェルト・フォーラムの空間で彼らのライブを観たのだが、普段に増して殺気立っていた)、近年はバンド内に様々な変化が起きていたのも確かだ。ギタリストのジェフ・ハンネマンは2011年にツアーから引退した。肉食性バクテリア症の壊疽性筋膜症を患い、2013年にアルコール由来の肝硬変で他界してしまった。ハンネマンの闘病中にエクソダスのギタリスト、ゲイリー・ホルトが代役を務め、のちに正式メンバーとなった。一方、オリジナル・メンバーのドラマー、デイヴ・ロンバードは、長年バンドを出たり入ったりしていたのだが、2013年に金銭問題での口論をきっかけに永遠にバンドを抜けた。そして1992年にランバードの代役で入ったポール・バスタフが戻ってきた。このような困難に見舞われても、アラヤとキングは前進を続けた。



しかし、そんな彼らも終わりへと近づいた。次のツアーが最後になった理由を説明する声明も出しておらず、取材も受けていない。また、これがスレイヤー解散なのか、ツアーだけ行わずにレコーディングは続けるのか、ときには単独のライブを行うことがあるのかなど、ファンは何も知らされていない。2〜3年前のあるインタビューで、アラヤは「そろそろ年金をもらう時期だ」と言っていたし、ここ数年は「もう前のようにヘッドバングする元気はない」と漏らしてもいた。一方、キングは相変わらずスレイヤーに心血を注いでいたが、そんなときにアラヤとキングの間に口論が勃発した。

2017年、メロイックサインをしているドナルド・トランプの写真をバンドの公式Instagramにアラヤが勝手にアップしてしまったのである。ヒラリー・クリントン支持のキングに何の相談もなく。そんな些細なことで、サタンですら修復できないほど2人は疎遠になってしまったのか? 彼らがステージからこの疑問に答えることは絶対にないだろう。それは彼らのやり方じゃない。

メタル・ファンたちよ、今回のツアーはスレイヤーと一緒に大汗をかいて大騒ぎする最後の集会であり、スレイヤーのミステリーとレガシーに刻み込まれる最後の瞬間だ。トイレで「スレイヤー!」と叫ぶ連中の顔を拝める最後の機会なのだ。

Translated by Miki Nakayama

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