girl in redが語るポジティブな新境地とフジロック「日本は最高にクールな国」

「17歳の無敵感」を取り戻す

―コラボレーターは前作から引き続き、同じノルウェー人のマティアス・テレズ。彼の拠点であるベルゲンで、作詞作曲から演奏にプロデュースまで、マティアスとほぼふたりだけで行なっています。ほかのオプションは全く考えなかった?

マリー:うん。彼は私の親友だし、音楽的な意味で私をすごく理解してくれていて、自分にとって手足がもうワンセットあるような、そういう存在。と言いつつも、次のアルバムではお互いのために、もうひとりかふたりコラボレーターを加えてもいいかなって思ってる。もちろんマティアスと私は十分にお互いを高め合えるし、最初の2枚のアルバムは彼と全面的に組むことが正しかったと思うんだけど、今後はほかにも人がいたほうがプラスになりそうな気がしていて。

―スタジオでのマティアスとあなたの作業は、どんな雰囲気で進むんでしょう?

マリー:そうだな、すごく心地良くて、楽しくて、仲良しの友達がスタジオで最高の時間を過ごしているっていうノリ。でもそんなふたりでも、やっぱり行き詰まって仕事にならない日もあるから、人生においてあらゆるものがそうであるように、グッド・デイとバッド・デイがあるよね。ツアーも同じこと。最高のショウを披露できたかと思えば、ツアー・バスで寝られなくて、翌日は最悪なパフォーマンスになったりして。

―サウンド面に関しては、ふたりでどんな話をしたんですか?

マリー:マティアスは当初、私のヴィジョンを完全には理解していなかったと思う。自分で作ったデモを持っていったんだけど、その出来が悪くて(笑)。各曲のエッセンスはちゃんと含まれていたんだけど、あれらのデモからアルバム完成までの道のりは長かったな。だから結局のところ、私が「こういうサウンドにしたい」と伝えてそれに準じて作業を進めたというより、色んな表現を掘り下げて、納得が行くまで試してみたという感じ。私はいつも、曲に相応しいサウンドに行く着くまで粘り強く追及し続けるタイプで、「これくらいでいいんじゃない? 次にいこーか」みたいに、中途半端なもので満足することって絶対にない。全ての曲において完璧さを求めているから。

―基本的には、歌詞の題材や歌詞を通じて伝えたいフィーリングが、サウンドの色付けたと思っていいんでしょうか。

マリー:うんうん、まさにそのフィーリングがサウンドを決定付けたと言える。「この曲ってどういう感情を醸しているんだろう?」と問うことから始まって、言葉とメロディと楽器の響きをうまくひとつに束ねて、そのフィーリングを伝えようとしているってこと。



―フィナーレの「★★★★★(5 Stars)」がまたユニークな曲で、他と一線を画していますよね。アーティストであることの奇妙さを論じているところもあって。

マリー:まず、私は列車とかパスポートとか旅行にまつわる物事にすごく関心があって、「★★★★★(5 Stars)」はまさに、外国を旅している時に聴きたくなるような曲なんだよね。私が思うに、ウェス・アンダーソンの映画的なヴァイブがある。今後自分が目指している場所に向かって旅しているようなイメージで。と同時に、このアルバムを作りながら自分が色んな段階で感じていたことを振り返って、まとめているような感じもあるから、「いったいみんなどう反応するのかなあ」と逡巡していたり、「少しばかり自惚れてないとミュージシャンになんかなれないよね」と嗤っていたり、「自分が作っている作品に自信を持たなくちゃ」と言い聞かせていたり……。だから最近の私が執着していた物事と、アルバム制作中の心境を一緒に詰め込んだ曲で、アルバムにまつわる私の考え方を整理して箱にしまっているーーといったところかな。

―そしてあなたは、“Can I do it again?(だからもう一回やってもいい?)”と歌って幕を引きます。次のチャプターに目を向けて、ポジティブにアルバムを締め括っていますね。

マリー:そういうこと! ただ、このアルバムがコケちゃったら次はないかもしれないわけで、「もう1回挑戦するチャンスをもらえる?」って恐る恐る確認している自分もいる。「アルバムを作るのはめちゃくちゃ楽しかったら、またやりたい!」という気持ちと、「果たして私の中にまだ音楽は残っているのかな? もう1回できるのかな?」という不安と、同時に向き合っている曲なんだよね。こういう終わり方って笑えるんじゃないかなと思って(笑)。




―では、ちょっと難しいかもしれませんが、あなたが一番好きな歌詞、自分にとって特に意味深い歌詞をアルバムから選ぶことはできますか?

マリー:そうだな……「Too Much」の“So please / Don‘t say I’m too much / That I’m over the top / You don’t understand me(だからお願い/私がトゥーマッチだと言わないで/大仰だとか/あなたは私を分かっていない)~”と始まる、サビの部分かもしれない。ここは私にとってすごく大切な箇所だから。あなたはどう? 印象に残ってる言葉はある?

―私はタイトルトラックの“I’m loving this new self₋esteem / Like the one I had at seventeen / So unfazed by the world and it screams(新しく身に付いた自己肯定感が気に入ってる/17歳だった頃にあったような/当時の私は世界とその叫びに少しも動じることがなかった)”という箇所でしょうか。一抹のほろ苦さを伴っていて、広く共感を呼んでいると思います。

マリー:あー、そこは私も大好き! ほら、人間って20代になると……っていうか、20代だけじゃなくて30代でも40代でも50代でも同じなんだろうけど、人生に押しつぶされちゃって、もはや自分がクールだとは思えなくなるんだよね。私の家の近くに高校があるから、通りを歩いているとよく16、17歳くらいの子たちを見かけて、「うわ、あんたたち、なんでそんなにクールなの⁉ 私なんかもうお呼びじゃないなあ……」って打ちのめされちゃう(笑)。だからこそ最近の私は、若い頃の自分にあったプレイフルさだったり、「誰にどう思われようと構わない」っていう態度を積極的に取り戻そうとしていて、ライブでこの部分を歌っていると、すごく気持ちがいいんだよね。だからほんと、これも大好きな曲。


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