girl in redが語る、高揚と憂鬱を揺れ動く次世代ポップスターの現在地

Photo by Thea Traff for Rolling Stone

今夏のフジロックに出演決定。2ndアルバム『I'M DOING IT AGAIN BABY!』も注目を集めているガール・イン・レッド(girl in red)。先日公開した解説コラムに引き続き、最新インタビューをお届け。若い世代の共感を呼び、テイラー・スウィフトとのツアーでも脚光を浴びたノルウェー発シンガーソングライターの現在地とは?

マリー・ウルヴェンは穏やかな人物とは言い難い。高そうな黒のアスレジャーの服に身を包んだ女性たちで賑わう、洒落たニューヨークの人気スポットでランチをとりながら、彼女はテイラー・スウィフトがErasツアーで披露した「The Man」での振り付けを真似をする(昨年夏に同ツアーの数公演で前座を務めたウルヴェンはそれを完全にマスターしていた)。だが次の瞬間、彼女は息を切らしながら胸を押さえた。「不安が襲ってきたときは、いつもこうするようにしているの」と彼女は言う。「今はすごく心臓が痛い」。

幸い、ウルヴェンは心臓発作を起こしたわけではなかった。ガール・イン・レッドとして知られる、ノルウェー生まれの彼女がしばしばそういった感覚に襲われるのには理由がある。今日このヒップなレストランに来ていた客は誰一人として、ラルフ・ローレンの青いセーターにドジャースのキャップをかぶったこの若い女性に気がついていないようだった。しかし、スウィフトのスタジアムツアーに同行した実績と、最新作『I'M DOING IT AGAIN BABY!』のリリースによって、状況は大きく変わろうとしている。 彼女のクリエイティブ・ディレクターであり、長年の友人でもあるIsak Jenssenはこう語る。「彼女は誰よりも自信に満ちている時もあれば、急にそれを喪失してしまうこともある。自分がテイラーやビリー(・アイリッシュ)のような存在にはなれないと思いこむ時期もあった。でも今は、自分にはその可能性があると気づいていると思う」。

現在25歳のウルヴェンは、一貫して音楽と真剣に向き合ってきた。彼女が重ねてきた努力は、そういったスーパースターたちにも劣らないはずだ。オスロ在住の彼女は8歳のときに曲作りを始め、14歳でギターを弾くようになって以来、10年にわたって楽曲をセルフプロデュースしてきた。初めて書き上げた切なく甘い「I Wanna Be Your Girlfriend」を2018年にYouTubeで公開した直後から、当時10代だったウルヴェンの人生は急速に変わり始める。2018年と2019年にそれぞれEPをリリースした後、2021年にはデビューアルバム『if I could make it go quiet』を発表。不気味な邪念からセフレに成り下がる屈辱まで、多様なテーマに正面から向き合ったポップかつ自己治癒的な同作によって、ウルヴェンはオリヴィア・ロドリゴやゲイルに代表される風変わりなガールズ・ポップの代表格のひとりとなった。彼女の音楽は親しみやすいが、決して陳腐ではない。




新進気鋭のアーティストにとって、次回作までの3年間というインターバルは長すぎるという見方に、ウルヴェンは同意する。それだけでなく、彼女はヘッドライナーとしてアリーナツアーを敢行することや、ロサンゼルス市内にミッドセンチュリー調の家を買うこと、そして30歳になることなど、まだ実現していない物事について頭を悩ませている。「羽を伸ばすってことも学ばなくちゃね」と口にしながら、彼女はシーザーサラダを手で食べるかフォークを使うか迷っている。前者を選んだ上で、彼女はこう付け加えた。「TikTokで見たんだけど、人類って地球上で唯一、決して満足しない種なんだって。私たちは目標を決めて、それをクリアするためにがむしゃらに頑張る。でもそれを達成したら、『次は何? 何をすべき?』ってなる。それってものすごく憂鬱だよね」。

それでも準備が整った時、つまり音楽として昇華させるべき経験を蓄えた時点で、ウルヴェンは再びスタジオに入った。「紙とフォルダ、フォントと光、私はそういうものにインスパイアされるの」。クルトンを齧りながら、彼女はそう話す。「エスプレッソ、旅行、電車に想像力を刺激されることもある。優雅なウェイターがグラスにワインを注ぎ、まず香りを楽しむよう促してくれることに感銘を受けることもある。あらゆるものが私のインスピレーションなの」。

最近の大きなインスピレーションのひとつは、自宅のソファでゴロゴロするのをやめて街に繰り出そうと決めた2021年のある日に、オスロのバーで出会ったガールフレンドだ。その夜2人は長い時間を共に過ごし、クライマックスはビーチで愛犬と星空の下で迎えたという。「彼女と出会うまで、私は自分が愛されない人間だと思い込んでいて、自分のことが大嫌いだった」と彼女は話す。「自分を憎むことが、どれだけ自分を傷つけるのかを知らずにいたの」。その夜の記憶は、彼女のニューアルバムに収録されている「A Night to Remember 」で鮮明に描かれている。煌びやかな鍵盤の響きは、恋に落ちた瞬間の胸のときめきを感じさせる。

Translated by Masaaki Yoshida

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