フォークとボサノヴァを繋ぐ新世代、リアナ・フローレスが語る柔らかな歌声の背景

Photo by Sequoia Ziff

TikTokでの大ヒットがきっかけで大手レーベルの目に留まり、そこから専業音楽家としての道を歩むことになるなんてことは、もはや珍しいことではないのかもしれない。小学生の頃から自身のYouTubeチャンネルに自らの歌やダンスをアップロードしていた、なんて話もよく耳にするようになった。NYの老舗名門ジャズレーベルVerveからデビューアルバム『Flower of the Soul』をリリースした1999年生まれのシンガーソングライター、リアナ・フローレス(Liana Flores)もそんなインターネットネイティブ世代の新星だ。

彼女に話を聞いてみると、フォークミュージックとボサノヴァを中心にした音楽への造詣の深さに非常に驚いた。さらに彼女は、日本の音楽やカルチャーにも深く精通している。リアナはブラジル人の母とイギリス人の父のもとに生まれ、ノーフォークという自然に囲まれたのどかな街で音楽と自然に親しみながら育った。大学では動物学を専攻していたというが、18歳のときに作った「rises the moon」が2021年頃からTikTokを中心にバイラルヒット。同曲のSpotifyでの再生回数は5億回を超えている。

そこからVerveとの契約に繋がったわけだが、この類まれな才能はTikTokがなかったとしても大きく羽ばたいたに違いない。それでも、『Flower of the Soul』という素晴らしいデビュー作を踏まえれば、彼女のような傑出した才能が早くから「発見」されたことはリスナーにとって幸運なことだった。影響元や音楽遍歴について包み隠さず語ってくれたインタビュー。彼女の言葉を読んで、アルバムを改めて聴いてみてほしい。



─幼少期から歌ったり演奏したりすることが好きだったそうですが、音楽は常に身近にあったのでしょうか?

リアナ:うん、私はピアノのレッスンを受けて育ったよ。最初は電子ピアノだったけど、高校からは本物のピアノがあったから、できるだけ多くの時間を音楽室で過ごしてた。ギターに移ったのはその後なんだ。

─シンガーとしてのキャリアはいつから始まったと思っていますか?

リアナ:フルタイムのキャリアとしては、たぶん1年半前からだね。それまでも歌っていたけど、大学が私のフルタイムの活動だった。レストランで働いたり、色んな仕事をしながら歌ってたよ。

─YouTubeに歌を投稿し始めたキッカケを教えてください。かなり昔の動画にはなりますが、ミュージカルマッシュアップのシリーズの動画は最高です。

リアナ:そんなことまで知ってるの(笑)。楽しんでくれてありがとう。背景をお話しすると、高校の最後の数年間にYouTubeチャンネルを持っていて、そこでミュージカルの歌を歌っていたの。私が住んでいた田舎町は他にあまりやることがなくて、ただ単に自分が部屋で楽しむためだけに歌っていたんだ。耳で聴いた曲を覚えて歌うのが大好きで、そのチャンネルはそうした楽しみを共有する方法の一つだった。本当に趣味でやってただけなんだけどね。

─ただ歌うのが好きだったんですね。

リアナ:そうだね。歌うことは子どもの頃からずっと好きだったし楽しかった。



─自分で曲を書いて歌い始めたのはいつ頃からですか?

リアナ:曲を書くようになって、それが自己表現だと考えるようになったのは15、6歳の頃からだと思う。

─初めて書いた曲はどんなものでしたか?

リアナ:11、2歳の頃に、学校の意地悪な男の子について友達と一緒に曲を書いたことがある(笑)。「You're just a boy」というタイトルだったと思う。その友達の家で一緒に書いたんだけど、まだ子どもだった頃の話だね。

─歌にすることがストレス発散だったんですね。

リアナ:そう。自分たちがすごくクールなガールズグループだと思ってたんだ。ディスティニー・チャイルドよ!みたいな感じで(笑)。

─元々はミュージカルとか、ビヨンセとかデスチャとかが好きだった?

リアナ:そうだね。ミュージカルシアターのポップ歌手やディーヴァタイプの歌手が好き。そういうボーカルスタイルにも挑戦したけど、自然と今のような静かに歌うスタイルが私には向いていることに気がついていったんだよね。


Photo by Sequoia Ziff

─では、今のあなたに繋がるような曲を初めて書いたのはいつですか?

リアナ:そういう意味では「rises the moon」を実家に住んでいた18歳のときに書いたのが最初だった。書いてから録音するまでに1年半かかったけどね。

─シンガーソングライターとして今に繋がる路線で書いた初めての曲が、爆発的にヒットしたのはすごいですね。

リアナ:素晴らしかったし、とても驚いたよ。「rises the moon」の前にもいくつか曲を書いていたし、EP(2018年の『The Water’s Fine!』)もあったけど、そのときは特に何も起こらなかった。でも、「rises the moon」はリリースして2年くらい経ってから、誰かがそれをTikTokに載せてくれて一気に聴く人が増えたんだよね。とても驚いたけど、そのおかげで音楽をフルタイムの道として考えることができるようになった。そんなことは考えもしなかったから、とても解放感があった。本当に感謝している。




─母親の故郷であるブラジルのボサノヴァはあなたにとってどんなものですか?

リアナ:ボサノヴァが教えてくれたのは、バンドがいなくても1人でも音楽は作れるっていうことだった。コードとベースラインをギター1本で弾ける。音楽を1人で作ってきた私にとって、それができると思えたことは重要なことだった。文化的にはボサノヴァはブラジル人である母方の家族を通じて私の文化と繋がる手段でもある。それはボサノヴァに限らずさまざまなブラジルのジャンルについても同じ。それと、私のピアノの勉強をひとつにまとめる手段でもあるんだよね。ピアノをたくさん弾いていた頃のお気に入りの曲とボサノヴァには共通点がある。例えばボサノヴァの和声の多くはドビュッシーの影響を受けてるようにね。ボサ・ノヴァは両者の架け橋のような存在なんだ。

─そうなんですね。

リアナ:ごめん、ボサノヴァについてはいくらでも話題が尽きなくて(笑)。それに、ボサノヴァには優しさもある。以前は「私も大好きなエイミー・ワインハウスやビヨンセのように大きな声で歌えるようにならなくちゃ」と思っていたけど、ボサノヴァにはある種の柔らかさと抑制されたボーカルがある。これは私の元々の性格に合っていると感じたから、このジャンルのスタイルが私に合ってる。そう思わせてくれたのがとても良かった。

─具体的にはどういったアーティストを、どのように研究してきたのでしょう?

リアナ:ジョアン・ジルベルトのプレイだよ。特にトム・ジョビンが書いた曲を演奏する時の彼のプレイがお気に入りなの。あと、ナラ・レオンがギター1本だけで歌うとてもクールなアルバムがあって、彼女が弾く特定の和声が、勉強には適していた。


リアナが制作した、お気に入りのボサノヴァシンガーをまとめたプレイリスト

Translated by Kyoko Maruyama

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