ゴート・ガールが語るUKフォーク新潮流への共鳴、「デジタルvs自然」の異世界サウンド

過去と現在をつなぐフォークの実験

―“音楽的な共通言語”という話ですが、直近のLeftlionのインタビューでは、今作に影響を与えたアーティストとして、ジョンが作品を手がけてきたキャロラインやランカムの名前を挙げられていたのが目に留まりました。

ロティ:私たちはジョンと一緒に仕事ができて本当に恵まれていたと思う。私たちはキャロラインやランカムのアルバムをしばらく聴いてきていて、特にキャロラインのアルバムがリリースされた時は結構感動したんだ。当時のインディー・ロック・シーンにあったようなサウンドとは少し違って、私たちも共感できるようなアート・ロック/ポスト・ロックの世界に傾倒している感じがして。キャロラインがあのアルバムでそれを表現したのがかっこいいと思った。空間や立体感を大切にしていることが伝わってきた。ランカムの音楽も、物事の過程や曲の展開を大切にしているところが、私たちの音楽に対するアプローチと共通していた。それがバンドとしての自信につながったんだと思う。彼らの作品を聴く前から、私たちもそういう音やアプローチに傾倒していたんだけど、「こういう音楽が好きな人は私たちの他にもいるんだ!」という確信になった。尺が10分くらいあるドゥーミーな曲を聴きたがる人がいるのなら、私たちも自分たちがやりたい音楽をやっても良いんだ、と思えるようになった。そういう音楽が実際に求められているんだということが分かったんだ。




―実際、今作に収録された「perhaps」や「sleep talk」で聴ける重厚でドゥーミーなサウンドはランカムも連想させて強烈です。

ホリー:ランカムのアルバムのダークな感じとか雰囲気のある感じには衝撃を受けた。ロックダウン中にキャロラインとジョンが作業をしていたというのをキャロラインから聞いたから私たちはジョンに興味を持ったんだけど、当然ながら、ジョンが表現できるサウンドというものに興味を持ったのもある。彼ならゴート・ガールが表現したいムードや空間、雰囲気を捉えてくれるのではないかという確信があった。それは私たちだけではどうやれば良いのか分からないことだったから。



―ちなみに、近年のイギリスでは、そのキャロラインを始め、ホリーや元メンバーのナイマ(・ボック)も参加するブロードサイド・ハックス、ショヴェル・ダンス・コレクティヴなどに代表されるように、トラディショナルなフォーク・ミュージックを新たに捉え直すような気運が見られますね。

ロージー:彼らはみんな友達のバンドだからね。個人的にショヴェル・ダンス・コレクティヴは大好き。音楽もすごくいいし、彼らは、普段の情報網には入ってこないフォーク音楽を代表していて、そういうところもすごくいい。クィアな人たちも代表していて、とても素敵な集団だと思う。確かに最近はそういうムーヴメントがあるよね。自分たちも昔からフォーク・ミュージックが好きだったから、そういうグループがフォーク・ミュージックを演奏して、今でもその伝統を現代に受け継いでいるのは素晴らしいことだと思う。 

ホリー:今、挙げられたバンドはこのシーンでもう何年か活動している人たちで、政治的な側面もあるけれど、ストーリーテリングの側面も持ち合わせている。ロージーが言うように、そういうストーリーを現代にも受け継いでいて、しかもそれを新たな方法や、現代社会に適した方法で表現している。そうやって、伝統を受け継いでいくというのは美しいことだと思う。それから、フォークの再解釈というよりも、フォークを実験的に、アンビエントに近い形に融合させている動きもあってそれも面白い。ミルクウィード(Milkweed)というバンドがやっている音楽はすごくかっこいいし、オーバリー・コモン(Orbury Common)というグループもアンビエントな要素と、古代からのサウンドが混ざってすごくかっこいい。Warpに所属しているクラリッサ・コネリー(Clarissa Connelly)も古代の要素を取り入れた、典型的なフォークとは言い難い音楽を作っている。過去の時代からの要素を取り上げて、現代のツールを駆使して、新しい音楽を生み出しているということはすごく刺激的なことだと思う。






―今の話とも関係していると思いますが、今作ではメンバー全員が複数の楽器を演奏していて、とくに多彩な種類のアコースティック楽器が使われているのが特徴です。そうしたアコースティックや「フォーク」のテイストは初期の頃からゴート・ガールの核にあったと思いますが、今回あらためてそうしたアプローチを探求しようとしたのはどういった視点や動機からだったのでしょうか。

ロティ:このアルバムはどういうわけか、自然(natural)で、土っぽい(earthy)感じがすごくしたんだよね(笑)。歌詞で取り上げたテーマや、作曲の仕方、3人で作曲をしていたことなどが、自然という環境と関わりのあるものだったからかもしれない。アルバムの曲を一緒に書いて、演奏して、録音した初めてのヴァージョンは、コーンウォールにあるアーティスト静養所(writeaway)で行われたんだけど、その環境が私たちの作っているサウンドにも影響した。私たちは一緒に長い散歩に出かけたり、鳥たちの音を録音したりして、歩きながら作曲中のメロディについて話し合ったりしていた」

―アルバムのオープニングの「reprise」ですね。

ロティ:うん。自然という環境をクリエイティブな目的に活用していたんだと思う。長期間のロックダウンから解放された私たちにとってそれは嬉しい環境の変化だった。ロックダウンが解除されたと同時に、都市から離れたいという欲求を強く感じたんだ(笑)。そういうオーガニックで自然な環境が、楽器の使い方や演奏に対するアプローチにも反映されたのだと思う。私たちは昔からアコースティックな楽器を弾いていたし、自分たちの音楽にそういった要素を加えるのも好きだった。周りからはギター・ロック・バンドというレッテルを貼られることが多いけれど、自分たちをギター・ロック・バンドだと意識したこともない。ジャンルを覆すような、奇妙で変わったアコースティック音を取り入れることに昔から興味を持っていた。だから、今回の制作環境や、バンドとしての今までのテイストなどが色々混ざり合って、今回のアルバムでは、そのようなサウンドをさらに開拓しようということになったんだと思う。

ホリー:フュージョンというか、さまざまな要素やサウンドを融合させることに興味がある。ジャンルにしても楽器にしても、私たちは何か一つのことにコミットしたくはないというか、例えば、シンセの曲を作っていたら、その感じをオフセットさせる別の要素を加えて、不思議な感じを出したいと思う。もしくは、シンセなのにオーガニックな感じを残すなど。そういう要素同士のフュージョンはすごく面白いと思う。ピアノと弦楽器だけの曲なら、デジタル・エフェクトやディレイやリバーブを加えて、実験的な姿勢を維持させるなど。実験的で、新しくて、エキサイティングで、変な感じにしたいと思うの。

ロティ:フュージョンなんだけど、ちょっと尊大な部分があるというか(笑)。私たち人間と自然との、この世界における関係性みたいな感じで、それは自然なんだけれど、ゆがめられているというか。近未来の世界に近い異世界に向かって行くような……。デジタルvs自然というのは人間の実体験そのものだと思うんだけど、違うかなあ?

R&ホリー:(頷いている)

ホリー:うまいこと言ったね、ロティ!

―今作に先立ち昨年、ホリーがH. L. Grail名義でリリースしたEP『Island』も、フォーキーなテイストで彩られた美しい作品でした。同作にはロティとロージー(と脱退したエリー)も参加していましたが、皆さんが好きなフォーク・アルバム、あるいはフォーク・シンガーがいたらぜひ教えて欲しいです。

ホリー:(『Island』では)私が作ったアコースティック・ピアノとギターだけの音源に、ロティが弦楽器のパートを手がけてくれたの。あと、いつも私たちと一緒に演奏しているルービン(・キリアキデス)がチェロのパートを担当してくれた。(今回のアルバムもそうだったように)自分たちの近しい人たちに参加してもらうという方法よ。彼らを信用しているし、彼らは最高だから。でも、おかしな話かもしれないけれど、私自身、そんなに、古典的なフォーク・ミュージックに詳しいというわけではないの。ジューン・テイバーは「Riding Down To Portsmouth」というトラディショナルなフォーク・ソングのカヴァーをやって、私はポーツマス出身だから、この曲は好き。彼女の歌い方というか、歌詞の乗せ方がすごく面白くて、自分では決してやらないような歌い方をするの。私もブロードサイド・ハックスのコンピレーションでこの曲のカヴァーをやったわ。あとは、これはフォークと言えるのか分からないけれど、今度、ザ・ポーグスと共演するの。素晴らしいパンク/フォーク/アイルランド音楽のバンドで、ストーリーテリングのレジェンドよ。私は、フォークやアコースティック音楽を聴いて育ったわけでもないのに、どういうわけか、こういう現状にいるんだよね(笑)。

ロージー:自分はロザリー・ソレルズという人の『If I Could Be The Rain』というアルバムがすごく好き。アメリカン・フォークだよ。これは秘密なんだけど、自分のフルネームはロザリーというから、ロザリー・ソレルズには親近感を感じるんだ。




Translated by Emi Aoki

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