BTS・RMの「チームプレイ」を考察、韓国のオルタナティブな才能がソロ傑作に集った意義

韓国屈指の先鋭バンド/ソングライターも貢献

Oh Hyuk, Lee In-woo, Lim Hyun-jae(hyukoh)

ここで改めて説明する必要もないほど、2010年代後半にはここ日本でも人気が定着していた4人組ロック・バンド、hyukohだが、2020年に発表したアルバム『through love』とその直後のワールド・ツアーを最後に、バンドは事実上の活動休止状態に。近年はCIFIKA(シフィカ)、yaeji(イェジ)らとのコラボシングルを発表していたボーカル・ギターのオ・ヒョクや、ハードコアな3人組バンド、bongjeingan(ボンジェインガン)で活発に活動するギターのイム・ヒョンジェなどメンバー個々の活動がメインだったが、最近、バンドのアート・ディレクター、キム・イェヨンが彼らについて「カムバックのためのウォームアップをしている」とSNSに投稿したり、メンバーの知人の結婚式で久々にバンド4人が集まって演奏する姿を公開したりと、ファンの間でカムバックへの期待が高まっている。

そんなヒョゴの面々は、オ・ヒョクが「Come Back to Me」の作曲やギター演奏とバック・ボーカルに、ドラムのイ・インウが「Nuts」「Domodachi」など3曲のドラム演奏、さらにギターのイム・ヒョンジェは「LOST!」のギター演奏でクレジットされている。特にオ・ヒョクが落日飛車(Sunset Rollercoaster)のKuoと共作し、イ・インウがドラムで参加している「Come back to me」でのRMの気怠くつぶやくようなボーカルは、オ・ヒョクの歌唱法そのものを想起させるし、全体的な陰鬱なムードそのものもhyukohの『through love』、落日飛車とオ・ヒョクがコラボした「Candlelight」と共有していると思った。

ちなみに本作で「Heaven」「Around the world in a day with Moses Sumney」のレコーディングに参加したnever young beachは、hyukohとは以前より対バンライブなどで親交があるし、落日飛車ともコラボ・シングル「Impossible Isle」を発表するなど、本作参加のミュージシャンたちとの関係は今に始まったものではない。こうした東アジアのインディ・シーンの繋がりが本作の豊かな音楽性に寄与していることは重要なポイントだろう。






Mokyo

本作のソングライティング面での貢献度が大きそうなミュージシャンをもう何組か続けて紹介しよう。まずは、ヒップホップ、R&Bフィールドで活躍し、ソロ・ミュージシャンとしてはもちろん、pH-1、LOCOなど人気ラッパーの楽曲を多数手掛け、プロデューサーとしても絶大な支持を得ているMokyo(モキョ)だ。彼は暗く叙情的なムードのトラック(Mokyoの「uleum」やBeenzinoに提供した「Camp」を聴いてほしい)から、pH-1やLocoのようなシンギング・ラッパーにフィットした聞き心地のよいヒップホップ・トラックまで、器用に幅広く作曲している。そんなMokyoは本作で5曲に作曲、編曲などで参加しているが、本稿執筆時点で彼が作曲した部分が明確に明かされているのが、RMのリズミカルにスピットするラップとの相性が抜群な「Groin」のトラックだ。多数の楽曲に参加しているだけに、様々な貢献度が見つけられそうなMokyoだが、今までのRMの作品とも異なるオルタナティブな作風の本作の中で、彼のそもそものアイデンティティである 「ラップ・モンスター」を引き出したことは、重要そうだ。







Kim Hanjoo (Silica Gel)

そして、先述の「Groin」でシンセサイザーと、Mokyoのビートの上でのベースのリフレイン演奏をしているのが、5月には4,000人規模のアリーナを3日間即完させ、今年の韓国大衆音楽賞では「今年のミュージシャン」賞を受賞するなど、今韓国の音楽シーンで最もホットなバンド、Silica Gelでボーカル、ギター、鍵盤を担当するキム・ハンジュだ。彼は最近ではSilica Gelでの活動以外にもKim Doeonとコラボした電子音楽のライブ活動や、ボーカルとしての他ミュージシャンへの客演参加など幅広い活動を行っている。「Groin」のシンプルなベースライン自体はSilica Gelの楽曲も想起させるが、彼らの音楽性からは想像もつかないヒップホップ・ビートとの組合せは、まさにこのアルバムならではだ。

また彼は「自分の声は楽器の一つ」というモットーの持ち主で、シリカゲルでも他のミュージシャンへの客演参加時でも、自らの声をロボ声に変調させながら歌うことが多い「声」への探求心が強いミュージシャンだ。キム・ハンジュが本作で作曲、楽器の演奏だけでなく、バックボーカルでも複数の楽曲に参加していることを見ると、RMはそうしたキム・ハンジュの「声」の表現方法にも興味を持っていたのではないかと想像したくなる。彼が所属するSilica Gelは本作収録の「LOST!」を彼ららしくサイケデリックにカバーした動画を公開しているが、キム・ハンジュのボーカル・アレンジにも注目してほしい。

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Jclef, gim jonny

さらにもう一人、本作での「声」での貢献という意味で欠かせないのがオルタナティブR&Bミュージシャン、Jclef(ジェイクレフ)だ。本作のタイトル曲「LOST!」ではイントロから聞こえてくるJclefのか弱く、柔らかい発声のボーカルが、バックボーカルと呼ぶには惜しいくらいの存在感を放っているし、RMのリズミカルに強く吐かれる声とのギャップも魅力になっている。また「LOST!」はJclef以外にも、キム・ハンジュ、Nancy Boy、Marldn、Unsinkable、Qim Isleと多くのミュージシャンがバックボーカルとして、多層的な歌声を作っており、ボーカル面の実験性が一番色濃い一曲だ。

またJclefの昨年発表したEP 『O, Pruned!』を共作したプロデューサー、gim jonnyも本作に参加している。 『O, Pruned!』は全曲Jclefのボーカルとgim jonnyの繊細なギターのみで作られたミニマムな作品で、特に2人の制作中に育まれた友情を歌った温かなバラード「jonny’s sofa」が素晴らしかったが、gim jonnyが作曲とギター演奏などで関わった 「Around the world in a day with Moses Sumney」は 『O, Pruned!』のアプローチの延長にあるような一曲とも言えそうだ。





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