ライター志田歩が語る、PANTA & HALが追求した頭脳警察とは違うアプローチ

BLOCK25 ~AUSCHWITZ / PANTA



田家:1987年7月に発売になったアルバム『クリスタルナハト』の中の「BLOCK25 ~AUSHWITZ』。このタイトル、アルバムのテーマはナチスのユダヤ人の虐殺が始まったと言われている1938年11月9日のことなんですね。襲われて割られたお店のガラスの破片が水晶のように飛び散った。それがクリスタルナハト。こういう言葉になっておりますが、この曲を選ばれているのは?

志田:このアルバムを象徴するヘビーな曲ですけど、あらためて聴いてみて思うのは曲自体はノリがいい曲ですよね。アグレッシブではあるけど。一方で歌詞のとてつもないヘビーさはなんなんだ。このギャップはなんなんだという。このギャップがPANTAのある種の魅力かなとも思いますよね。

田家:やっぱり歴史から目を背けてこなかったという数少ないロッカー、ロック詩人なんでしょうね。『クリスタルナハト』はそういう意味では虐殺される側のことを歌っているわけでしょう。その後、彼はパレスチナをテーマにもするわけですもんね。赤軍派の重信房子さんの詩に曲をつけたアルバムも出していましたし。

志田:「オリーブの樹の下で」。

田家:ユダヤ人の側にも立っているし、パレスチナ側にも立っている。彼の中にはそういう虐殺される人たち、抹殺される人たち、歴史から葬られようとしている人たちという共通点がそこにあったんでしょうね。

志田:支配と非支配という言い方をわりといろいろなインタビューの中でしていると思います。

田家:PANTAさん、頭脳警察もそうですけど過激と言われますよね。PANTAさんの過激ということについて、志田さんはどう思われますか?

志田:すごい難しいですね。タブーに目を背けないというところが過激と言われるのかな。

田家:そうなんでしょうね。みんなが避けてきたことをなんでそんなことを避けるんだというふうに言ってしまう。それを歌にしてしまう。

志田:あとそこにある種の美しさみたいなものを見出したと『クリスタルナハト』に関しても言ってましたよね。なんて美しい言葉なんだと。その美しい言葉の中にこの忌まわしい出来事が綴られているという、そのギャップもおっしゃっていました。

田家:とってもリリカルですもんね。作品としては。それがやっぱり詩人なんだなとあらためて思いますが、この曲を聴きながらそんなことを思い浮かべていただけるとと思います。志田さんが選ばれた『クリスタルナハト』の中のもう1曲「オリオン頌歌 第二章」。

オリオン頌歌 第二章 / PANTA

田家:『クリスタルナハト』の最後の曲。歌詞の中に出てきたオリオンの三つ星というのはイスラエルのテルアビブのロッド空港でテロを起こした3人の日本人学生。生き残った岡本公三さんが「死んでオリオンの三つ星になりたい」と言った、あの言葉ですね。その言葉を受けて、京大西部講堂の屋根に3つの星が描かれた。

志田:“これが俺たちの世界”って言葉がめっちゃ響きますよね。なおかつ、すごいヘビーなんだけどある種美しいメロディで締めくくるというのも。この曲に関して付け加えてお話をさせていただきたいのは、この後頭脳警察を彼は復活させて、頭脳警察の最後の『歓喜の歌』というアルバムを作って一旦締めくくるんですけども、そこでは「オリオン頌歌」という歌があって。その歌詞を書いたのは三原元さんという田家さんとも浅からぬ因縁の。

田家:僕の学生時代の親友だったんです。演劇をやってました。

志田:そういったところで言うと、結局また芝居とのつながりが出てきたよというところを示す曲でもあるということですよね。

田家:これは本の中に出てきましたけども、菅孝行さんがご自分の演劇に対して「後退戦」を戦いながら芝居をやっている、みたいな話があって。「後退戦」って言葉が出てきてますよね。「負け戦」。それをPANTAさんが「後退戦」なんか戦ってないんだ。音楽はもっと誇らしいんだ。あの言葉はとっても印象的でしたね。

志田:頭脳警察はどんなセクトよりも偉大だみたいな言い方してますよね。

田家:そうですね。頭脳警察はどんなセクトよりも偉大なんだって、そんなところに俺たちはいないんだ。俺たちはもっと違うところを見てるんだ、でもそこに巻き込まれてしまったということから。

志田:だから1975年に解散したんだよってことだと思うんですよ。

田家:ですよね。今日いろいろずっと話をしているのはそこで終わってないものがたくさんあるんだと、彼の中にあった音楽に対しての誇りであり、夢であり、希望みたいなものが傍から見ると過激に見えた。そういうことなのかなって今、志田さんとお話をしながら思ったりしました。

志田:ただ次にかける曲に関して、これは尖りまくっていると僕は思うんですね。PANTAさんの作詞作曲の中でも、最もとげとげしい。所謂今だったらコンプライアンスでなかなか出せないんじゃないかと思うくらい。しかもこれが当時メジャーからきちんとリリースされたというのが驚きですよ。それこそ、チーム作りにおいて彼が非常に長けていた。仲間をちゃんと大事にして、一緒にやろうぜって気にさせるから出せたんじゃないかなと僕は思いますけどね。

田家:このアルバムは1975年に解散した頭脳警察が1990年に再結成されたときのアルバム。アルバム『7』から志田さんが選ばれたのは「Blood Blood Blood」。

Rolling Stone Japan 編集部

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